近年、記録的な大雨やゲリラ豪雨による浸水被害が全国で相次ぎ、河川のない地域でも排水能力を超える雨量による「内水氾濫」のリスクが高まっています。こうした状況を受け、国土交通省や各自治体も内水氾濫対策の強化やハザードマップの整備・周知に力を入れています。しかし、被害を最小限に抑えるためには、一人ひとりが正しい情報をもとに備える“自助”の意識が不可欠です。今回、防災の日にあわせ、全国のハザードマップ作成に携わるゼンリンが、自治体の取り組みとともに、内水氾濫への備えに役立つハザードマップの見方や活用法を紹介。
災害が発生した場合の被害を予測して、被災想定地域や被害の範囲、避難場所や避難経路などを地図上に表示したものです。地震・津波・土砂災害など災害の種類ごとに作成されており、紙媒体だけでなくWEB版のハザードマップも存在し、国土交通省や各自治体のHPなどで確認することが可能です。同社も、ハザードマップの作成支援を行っており、紙とWEB版含め、全国706の自治体(2025年3月時点)で導入実績があります。同社は、個人宅名やテナント名が記載されている詳細な住宅地図データを保有しており、定期的に現地調査を行っているため最新の地図情報を提供することが可能です。
冊子版(左)とWEB版のハザードマップ イメージ
水害を起こす氾濫は大きく分けて「外水氾濫」と「内水氾濫」の2種類があります。外水氾濫とは大雨によって川があふれて市街地側に流れ込み、浸水する現象です。一方、内水氾濫は、大雨に対して排水機能が追い付かず、下水道、用水路やマンホール等から水があふれだし、土地や建物が浸水してしまう現象です。内水氾濫はさらに2種類に分けることができます。河川の増水によって排水の役割を担う用水路や下水溝が機能不全となり、少しずつ冠水が広がる「氾濫型の内水氾濫」、もう一方は、河川の水が排水路を逆流して起きる「湛水型の内水氾濫」です。内水氾濫について正しい知識を身に付けて迅速に避難する方法を考え、浸水被害を軽減しましょう。
防災士の資格を持つ藤内悠衣さん(スマートシティ推進部ビジネス推進課)
事前に有事に備えていないと、いざというとき難を逃れることはできません。しかし、何をどう備えていいかわからないという方が多くいらっしゃると思います。同社は、自治体と一緒に住民の皆様に向けてハザードマップの見方や個人の状況に応じたオリジナルの防災地図作成をするワークショップの支援などを行っています。ワークショップでは、同社社員が講師となり、ハザードマップの見方や避難のポイントなどをお伝えしています。
今回は、内水氾濫の備えに役立つ情報やハザードマップの見方を紹介します。自分の命は自分で守るという意識を持ちながら一緒に備えていきましょう。
内水氾濫は、標高が低い地域ほど起こりやすいという特徴があります。なぜなら、雨水が流れ込みやすくなり、排水処理が追い付かない可能性が高いからです。そのため、谷のようにくぼんでいる地域や地下室や地下街・地下道などは内水氾濫が起こりやすい傾向にあります。特に近年、局地的な大雨やゲリラ豪雨などが多く、全国的に内水氾濫が起こる危険性が高まっています。
過去に内水氾濫の経験がない地域でも実は排水機能が不十分で急激な大雨により処理機能が追い付かず被害にあうケースがあります。このような事態に備えるために普段からハザードマップで自分自身が住んでいる地域の周辺を確認し、氾濫に備えておくことが大事になってきます。
室蘭市は、北海道の南西部に位置し、北海道有数の工業都市で産業と自然が共存する魅力的な都市です。北海道は6月~10月にかけて豪雨や台風等の影響により、川の水位が高くなりやすい時期になります。室蘭市では、日頃より市民に向けて防災訓練や防災のワークショップを実施するなど防災・減災活動に積極的に取り組んできました。2024年には、内水氾濫が津波や土砂、洪水と同じく甚大な被害を起こす可能性がある災害の1つであることを改めて市民に周知するため同社で作成支援を行った内水氾濫ハザードマップをHPに公開し、「室蘭市くらしの便利帳」に掲載し、全世帯に配布もしています。自治体では、内水氾濫ハザードマップの作成が増えてきています。自分が住んでいる地域のハザードマップの入手方法や状況を確認しておきましょう。
北海道室蘭市の内水氾濫ハザードマップ 一部
台風等の影響による被害は、台風の進路、規模等から災害発生の可能性をある程度事前に予測することができます。しかし、ゲリラ豪雨等は短時間で局所的に発生するので発生場所や時刻を予測することは困難です。いざという時に迅速に適切な行動をとるためには、ハザードマップを活用しながら自分自身の状況に合わせた避難方法などについて事前に確認しておくことが大事です。ハザードマップを見る際は、下記2点をおさえましょう。
ポイント1 自分が住んでいる地域の災害リスクを知る・確認する
ポイント2 自分自身の安全確保について考える
自治体によって災害種別ごとのハザードマップの発 行状況は異なるので、自分の住んでいる自治体の 状況を確認してみることから始めましょう。
次に、自分が住んでいる地域のハザードマップを用意し、自宅に印をつけて、その周辺の危険箇所を 確認し、そこを避けた避難所へのルートも記載しておきましょう。平時は何ともない場所でも大雨や 洪水により危険になる場合があります。特に、危険箇所としては、アンダーパス、排水溝、マンホール、用水路、周囲より低い場 所や平坦で水はけの悪い場所等が挙げられます。
自分が住んでいる地域や、自分自身が置かれている状況によって避難すべき警戒レベルが異なります。警戒レベルとは、災害発生のおそれの高まりに応じて5段階に分類した「住民の皆様がとるべき行動」と、その「行動を示す情報」とを関連付けたもので市区町村が避難情報と合わせて出す情報です。事前に内容を確認しておきましょう。
自治体から避難指示が出たら迅速な避難行動が必要ですが、ゲリラ豪雨や局所的な大雨は短時間で内水氾濫が発生するので避難指示等の発令が間に合わない場合があります。自宅周辺の気象情報や周辺状況を確認し、避難指示が出ていなくても、危険を感じたら早めに避難をしましょう。
避難といっても、必ずしも避難場所に行くことだけが避難ではありません。避難とは安全を確保することです。自宅とその周辺の安全が確認できれば、自宅にとどまることも選択の一つです。避難場所に行く場合には、事前に確認した危険箇所を避けながら避難してください。氾濫した水の流れは、勢いが強いので水深が膝程度になると大人でも歩くことが困難になります。氾濫した水は茶色く濁っており、水路と道路の境や、ふたが空いているマンホールの穴は見えないので注意が必要です。また、水害時に開設される避難場所は災害の状況により異なるので、自分の住んでいる地域が発表している開設情報を確認してください。氾濫してからの避難は危険を伴うので、その前に早めの避難が大切です。
いざという時に、難を避けるためには日頃からハザードマップで自分が住んでいる地域の災害リスクを知る・確認すること、自分自身の状況に合わせた安全確保について考え、事前準備をすることが大事になってきます。9月の防災月間を機に、ご自身やご家族と一緒にハザードマップを活用しながら、備えてみてはいかがでしょうか。