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図書館

第43回全国学校図書館研究大会(オンライン大会)~あらゆる情報を活用し新しい教育を拓く

2022年9月20日

「第43回全国学校図書館研究大会〈オンライン大会〉新しい教育を拓く学校図書館~ICT活用の新たな可能性~」が、8月3日~31日に公開された。主催は(公社)全国学校図書館協議会。通常2年に1回開催される本研究大会は、今回オンラインで開催された。参加者は講演と32の分科会すべてを会期中に視聴できるものとなった。次回「第44回全国学校図書館研究大会」は、2024年8月香川県で開催予定。

【講演】
群馬大学情報学部 柴田博仁教授

「子どもの読書における紙とデジタルの使い分け~認知科学からの考察~」をテーマに講演。柴田教授の研究領域は“人を賢くするための道具をコンピュータ上に作る”。そのためには人間がそもそも世の中をどのように認知しているのかを知る必要がある。“人間の認知プロセスの解明”を目指す調査・実験を中心とした講演の一部を抜粋し、2回に分けて紹介する。

◆  ◆  ◆

コンテンツが同じであれば、紙で読んでもデジタルで読んでも、読みの効果や質、人の読み方は変わらないのだろうか。答えはNo、です。

読む際の道具=メディアが変わると、人の読み方の姿勢も変化します。そのため読む際の道具を適切に選ぶ必要があります。私は大人を対象にした実験をしてきました。そこから子供の読み書きへの影響を類推します。

読むためのメディアとして「紙」は圧倒的に好まれていますが、客観的に見ると読むスピードや理解度にデジタルメディアとの違いはないという研究結果が、1980年代から示されています。ただし従来の実験は論説文や小説を読む、といった数分に1度ページがめくられる静的な読みについてでした。

しかし実際の業務や学習における「読む」という行為では、静的な読みはむしろ特殊です。

業務での読みは線形ではなくジグザグです。単一の文書ではなく複数の文書を、ページを行き来して読み、書き込みをしながら指でなぞったり、紙と電子を横断して読む。目で読むだけではなく、多様な行為が行われます。

紙とデジタルの違い検証

スモールデスクで実験

スモールデスクで実験

私たちは2つの課題を同時に行う実験で「認知負荷」(作業を行うのに必要な心的リソースの量)を比較しました。

被験者はヘッドフォンをしながら文書を読み、ビープ音が鳴ったら、なるべく速く足元のペダルを踏む。読む媒体は、紙とタブレットで実験し、タブレットでは「スワイプ」と「画面タップ」でページめくりさせました。

結果として、ビープ音への反応時間に違いがあったのは、ページめくりの直前のときです。紙が最も速く、タップが最も遅かったのです。タップする時は、タブレットの端の方をタップしなければならず、その際に指の位置を確認するために視線が動く。スワイプは、指を滑らせた後に実際にページがめくれたのか、確認のため視線が動く。一方、紙はめくる前にページに指をはさんでいて、ほぼ自動的・無意識的に手が動いている。めくれたかどうかは手の感触で分かるので、目で確認する必要もない。

小説など静的な読みでは、ページめくりがたまにしかないので、認知負荷の違いは大きな問題になりません。一方業務では、複数の文書を比較したりする中で、操作が頻繁に発生します。認知負荷の高いデジタル環境では思考の中断が頻繁に入る。読み全体のパフォーマンスにも影響がありそうです。

そこで複数の文書を相互参照する読みについて実験しました。文章が1つと図が3つあり「図から読み取れる情報と文章での主張の矛盾点を指摘する」という課題です。

1つは紙で作業、もう1つは大きめの27インチディスプレイのPCをウィンドウ操作。さらに1つ、27インチのディスプレイと全く同じ大きさの机(スモールデスク)の中で紙で作業する。机は重ねないと文書を置けない広さです。文字はいずれも同じ大きさです。

結果は、校正スピードは紙がもっとも速く、スモールデスクも差はない。紙はPCよりも255%速かった。紙とスモールデスクに違いがなかったことから、広さの問題ではなく、操作性の違いによって、校正スピードに違いが出たのです。

さまざまな実験を通して分かったことは、移動したり並べたり、重ねたり、ページを移動したりと、手を使う頻度が増えるほど、紙の良さが顕著に現れる、ということでした。我々は読む際に目だけではなく、手も使っています。そして手での操作性に紙は抜群に優れているのです。

紙が読みやすい理由は、見やすいからではなく「扱いやすい」から。紙は表示メディアというよりも操作メディアなのです。情報には実体がありません。印刷し、紙+情報とすることでモノとして操作できます。モノとしての紙の「扱いやすさ」は、デジタルへの置き換えは難しいのではないか。

子供は大人以上に読み書きの能力が確立していないので、メディアの違いによる影響も受けやすい。中高生の「読み」について、紙の方がデジタルよりも理解度が高い、といった研究結果もあります。

それらをふまえ、デジタル教科書に対してもきちんと調べる必要があると考え、現在デジタル教科書の評価実験を行っています。

(10月17日号へ続く)

 

改訂メディア基準を解説
講義や学校視察も充実

本大会では、全国SLAの設楽敬一理事長による報告「学校図書館の現状と課題」として、第6次学校図書館図書整備等5か年計画と、昨年改訂された全国SLA学校図書館メディア基準について解説された。

多くの分科会も行われた。「情報活用授業コンクール」優秀賞受賞校5校、「ICT活用と学校図書館」(埼玉県川越市立新宿小学校司書教諭・中島晶子氏)、「学校図書館教育とカリキュラム・マネジメント」(横浜市立平沼小学校副校長・桐畑美登利氏)12の実践発表、また「教育の情報化と学校図書館」(①総論 ②授業で使おう!学校図書館 ③情報端末で学校図書館と児童生徒・教職員をつなぐ)16の講義が行われた。

動画視察では、東京都小平市立小平第一中学校、横浜市・関東学院六浦中学校・高等学校が、それぞれ実践も交えながら紹介。日本児童図書出版協会展示もあった。

高校の探究学習における「問い」

【講義】

大正大学 教授・附属図書館長 稲井達也氏

 

今年度、高等学校の「総合的な探究の時間」が完全実施された。これに関する講義「高校の探究学習と学校図書館」(大正大学 教授・附属図書館長 稲井達也氏)を紹介する。講義では、探究学習で重要となる「問い」について触れている。

◆  ◆  ◆

Z世代と呼ばれる生徒たちは、インターネットで調べればすぐに解が見つかると直感的に感じていることが多いと思います。そんな彼らが、ある意味面倒で色々な手続きが必要な「問い」を探究する経験を通して、これからの社会を担っていく資質・能力が養われていくのではないでしょうか。

学習指導要領の総則では、探究課題について“学校の実態に応じて設定する”としています。学校図書館の活用を示しているほか、公共図書館、美術館など学校外の他機関の教育資源を積極的に活用する視点も示し、「社会にひらかれた教育課程の実現」という、非常に重要な考え方を示しています。そして探究学習で「問い」が非常に大切になってくるのは、「問い」が大学、実社会での社会人としての取組につながってくるからです。自らの問いを持って学びや仕事を進めていくという、資質・能力がとても大切です。

高等学校における探究学習には、各教科で取り組む「教科型」、「総合的な探究の時間」、「学校設定教科・科目型」があります。そして「問いの立て方」は3つあります。①教師主導型…いきなり生徒自身が立てるのは難しいので、教員がまず問いを立てる ②教師主導・生徒主体折衷型…生徒の問いを尊重し、生徒とやり取りをしながら問いとして整えていくプロセスを踏む ③生徒主導型…理想だが、日頃の授業の中で、常にその単元の問いは何かを意識させ取り組ませていく、地道な活動が必要。

そして「問い」にも3つのタイプがあります。生徒から興味関心に基づいて複数の「小さな問い」(基礎的・基本的な知識につながる問い)が立ち上がってくる。教員が生徒とやり取りしながら、複数の小さな問いを「包括する問い」としてまとめていく。そして単元の構造に関わる「本質的な問い」に近づいていく。

例として、「なぜ第一次世界大戦で 戦死者が多かったのか」という包括的な問いがあり、「戦争はなぜ長引いたのか」等の包括的な問いに接近するための「小さな問い」があります。包括的な問いで探究学習を留めておくこともできます。ただ歴史を学ぶということは、その歴史を今の時代に活かしていくという視点が大切ですので「本質的な問い」に深めていく必要があるかもしれません。戦争の結果、世界はどのような教訓を得たのか。この教訓が生かされれば、第二次世界大戦や、現代のさまざまな世界の紛争が起きないことも考えられます。本質的な問いによって、生徒たちは学ぶ意義を実感をもって考えることになります。

問いを育て、問いを深めるために、問いの「評価基準」も必要と考え、作成しています。

探究学習を考える上で重要な視点は、生徒にインターネットにはすべての知識が載ってはいないことを実感させ、探究することの楽しさ、学びを通した成長を実感してもらうことです。教員は探究学習を通して生徒を自立した「学習者」に育て、生徒と一緒に学んでいこうとする謙虚な姿勢を持つことが大切です。

教育家庭新聞  健康・環境・体験学習号  2022年9月19日号掲載

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