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教育旅行

【教育旅行視察会 REPORT】京都・舞鶴で平和について学ぶ

2023年1月16日
新たな訪問地として注目

京都府北部、日本海に面した舞鶴市は、第二次世界大戦終結後、シベリア抑留等からの引揚者66万人を13年間にわたって温かく迎え入れた町として知られる。引揚船から舞鶴港に降りた多くの人々がここから全国各地の故郷へ帰っていった。今回、平和教育に適し、新たな教育旅行先として舞鶴引揚記念館に注目。日本三景の天橋立などがある「海の京都」と呼ばれるエリアを含めて、11月26・27日に教員対象の教育旅行視察会を行った。

【1日目】京都駅→舞鶴引揚記念館→展望広場・展望台→舞鶴赤れんがパーク〈舞鶴市泊〉
【2日目】舞鶴市→天橋立(天橋立ビューランド) →ちりめん街道→日本の鬼の交流博物館→福知山城→京都駅(すべてバス移動)

シベリア抑留と引揚の史実を知る 舞鶴引揚記念館

ユネスコ世界記憶遺産

抑留のようすを伝える

抑留のようすを伝える

舞鶴市は日本海若狭湾に面し、明治期に海軍の鎮守府が置かれた。長きにわたり軍港がおかれた舞鶴港は、戦後政府が認定した全国18港の引揚港のひとつとして、1945年から1958年まで引揚船受け入れの使命を果たした。この間、舞鶴市に帰ってきたのは約66万人の引揚者と16269柱の遺骨。

舞鶴引揚記念館は全国からの寄付等により、苦難に満ちたシベリア抑留と引揚の史実を後世に伝えるため、1988年に設立された。シベリアの地で使用した防寒具や「引揚證明書」など、全国から約16000点の資料の寄贈を受け、常設展では1000点を超える資料を紹介。2015年には収蔵資料のうち570点が「ユネスコ世界記憶遺産」に登録された。

「白樺日誌」を語り部が解説

「白樺日誌」を語り部が解説

「シベリア抑留体験の記録」などの資料からは、過酷な暮らしや強制労働のようすが伺える。そのひとつ「白樺日誌」は、白樺の木の皮に和歌が煤(すす)で書かれたもの。奇跡的に旧ソ連に没取されず、日本へ持ち帰られたものだ。空き缶の先を尖らせたペンで、日々の暮らしや家族への思いが綴られている。

母から抑留者への手紙など「安否を気遣い帰還を願う日本の家族に関する資料」、舞鶴市長が市民に宛てた回覧文などのほか、抑留者が拾った針金等で作ったスプーンなどの製作物もある。

実際の防寒具も体験

シベリアから持ち帰った防寒具や道具に触れる

シベリアから持ち帰った防寒具や道具に触れる

同館では語り部が各グループを案内するほか、学芸員による講座も開催。記録絵画や貴重な写真から、抑留や引揚の史実を学習できる。シベリアから持ち帰ったコートや防寒帽等を身に着けたり、強制労働の木材運搬といった体験も用意され、受け身の学習にならない工夫がされている。

戦後、日本全国の引揚者は、軍人・民間人合計で約660万人。膨大な人数のため、実は引揚者が児童生徒の身近にいることも多く、そこから平和への意識へとつなげやすい。参加者からは「広島・長崎が原爆の直接的な被害にあったこととはまた別の角度で、舞鶴は抑留者を待った・受け入れた地域。この『待つ』という目線は、終戦から年月が経った現代の中高生にリアルに感じられるのではないか」との声があった。

温かく迎え入れた市民

今回、資料解説を行った語り部の山本富美子氏によると、抑留者は過酷な体験を語りたがらないという。強制労働の厳しさに加え、寒さと飢えで仲間が亡くなり、みじめさや自責の念が非常に強いのだ。

舞鶴市民は引揚船が入港する度に抑留者を温かく出迎えた。戦後の物資の少ない中、お茶や蒸した芋を振る舞った。心身に深い傷を受け、抜け殻のようだった抑留者たちは、生きて帰国した事を家族のように喜ぶ市民の優しさに触れ、生きる望みを持ったことだろう。

参加者から「全国各地に引揚港があったが、なぜ舞鶴に引揚の資料が多いのか」と質問が出た。舞鶴は1950年以降、国内唯一の引揚港となり、世間で戦後復興が進む中でも1958年まで引揚船を受け入れたことが大きな理由という。

舞鶴引揚記念館では平和教育に留まらず、人々の「困難時の心の支え」「相手へ寄り添う心」という人間性に触れ、育む場所と言える。

平和教育の場として

舞鶴引揚記念館へは、京都市から京都縦貫自動車道を利用すると、約90分で到着。日本三景のひとつの「天橋立」等がある「海の京都」エリア全体で訪れたい。鉄道を利用すれば、生徒のグループ行動として海の京都のスポットを回ることも可能だ。

23日の日程の場合、京都市内での活動と組み合わせることで、平和教育と地域の歴史や文化を体感できる教育旅行が可能となる。

●舞鶴引揚記念館

舞鶴引揚記念館

舞鶴引揚記念館

▽住所 京都府舞鶴市字平1584番地 引揚記念公園内▽℡0773680836▽開館時間 9~17(入館は1630分まで)▽休館日 1229~11日、毎月第3木曜日(8月と祝日を除く)▽入館料 大人400円 小・中・高・大生150

 

「海の京都」を巡る

日本海に面する「海の京都」と呼ばれる京都府北部地域(福知山市、舞鶴市、綾部市、宮津市、京丹後市、伊根町、与謝野町)は、古代より大陸の窓口として栄え、多くの神話の舞台となった。舞鶴引揚記念館訪問にあわせ、海の京都の特徴的なスポットを視察した。

●舞鶴赤れんがパーク

舞鶴赤れんがパーク

舞鶴赤れんがパーク

舞鶴地域の特産品ショップ、イベントホール、市政記念館など、観光拠点・地域の文化交流の場として2012年にオープン。倉庫群8棟は国の重要文化財。舞鶴鎮守府の軍需品の保管庫として1900~1921年に建築された。

●天橋立

天橋立ビューランドからの飛龍観の眺め

天橋立ビューランドからの飛龍観の眺め

日本三景のひとつとされる景勝地。野田川から流れる阿蘇海と宮津湾の海流から、砂礫(されき)が堆積してできた砂嘴(さし)という地形。全長は約36㎞、約6700本の松が生い茂る。

天橋立を南側から見ると「龍が天に舞い上がる姿」に、北側から見ると「天への架け橋」に見える。展望台では「股のぞき」や「かわらけ投げ」も楽しめる。ウォーキング(片道50)、サイクリング(20)、観光船、海水浴などができる。

●ちりめん街道

京都府与謝野町の「ちりめん街道」は、絹織物「丹後ちりめん」の生産地で、京都との物流拠点。手米屋小右衛門(てごめやこえもん)が京都の西陣で技術を習得し、この地で広めたとされる。

江戸時代から昭和初期にかけ、高級絹織物の発展のおかげで街は近代化。街道には当時の商家や医院、銀行などの建物が約120棟残る。木造、土塀の建築物群は希少で美しく、現在も一般住宅として使用されている建物もある。

2005年には、重要伝統的建造物群保存地区に指定された。

●日本の鬼の交流博物館

大江山の鬼伝説や国内外の鬼文化を紹介。「鬼とは何者か」に迫る。節分、なまはげ、能や狂言の伝統芸能、昔話など、悪の象徴にも神にもなる鬼。その系譜などの歴史的視点や、外国事例などの大局的視点でも考えを深められる。

飛鳥時代から現代までの全国の鬼瓦の実物・複製も紹介している。

●福知山城

福知山城

福知山城

1579年、明智光秀により築城された福知山城は、明治の廃城令により石垣と銅門(あかがねもん)だけを残して大半が失われた。1986年に34階の天守閣を復元。費用約8億円のうち、約51億円が市民の「瓦一枚運動」の寄付によって集められ、再建された。天守閣の石垣は「野面積み」や「乱石積み」と呼ばれる技法で、未加工の自然石や五輪塔や灯籠などの石造物も利用されている。

最上階の天守閣からは光秀が治水に取り組んだ由良川を見下ろせる。

参加者の声から

視察会には小・中・高等学校の教員が参加した。「平和教育」や「地域学習」などの視点から感想が寄せられた

引揚記念公園の展望台で

引揚記念公園の展望台で

■舞鶴引揚記念館
  • 引揚について小学校では詳しく扱わないが、6年生頃であれば展示物を見ながら簡単な言葉で説明してもらうと理解できる。太平洋戦争後、日本周辺国から戻ってくる日本人がなぜシベリアの地で数か月から数年もの間過ごさなければならなかったのか、過酷な労働や生と死の間など、当時の人々の心境などを考えさせたい。(長野県・小学校講師)
  • 書ききれないほどの思いをのせたハガキ、「トーキョーダモイ(日本に帰る)」という言葉を信じて生きた人々の一つひとつの記録や展示物が、当時の辛く厳しい過酷な状況を物語っていた。平和教育として設定した場合、教科書にあまり載っていない出来事をどう深めるかが課題。(中学校)
  • シベリア抑留の過酷な中でも希望を失わずに生きた人々、舞鶴で引揚者を迎え入れる方々の思いから、普遍的な人権や命の尊さについて学習できる。展示されていた手作りのスプーンには、柄尻に模様が描かれていた。つらく苦しい環境下でも、少しでも創作する楽しさを見出した人々の思いを感じ取れた。(東京都・中学校教諭)
  • 京都には何十回と引率で訪れたことがあるが、舞鶴市は初めての訪問。京都駅から高速道路の利用で2時間弱で到着し、想像よりも近かった。日本各地で忘れ去られようとしている戦跡がある中で、舞鶴引揚記念館は学生たちにも分かりやすく展示していた。学生によるガイドもあるので、平和学習を通して今を生きる学生同士の交流も期待できる。未来の世界平和を共に考えるきっかけの場になるだろう。(東京都・中学校校長)
  • シベリア抑留と引揚は新しい視点での平和学習の可能性を強く感じた。一番のポイントは「戦後の生活」。一般的に平和学習は「戦時中の悲惨さ」に焦点を当てることが多く、重要だが高校生にはどこか遠い世界の話のように受け取られている。舞鶴引揚記念館では「戦後の悲惨さ」も学べる。満州地域の話やラーゲリ、引揚船は多くの高校生は知らない話で、さらに引揚者を迎え入れる側の視点からも見る。歴史の授業で扱う「国家による戦争」ではなく、庶民の姿をリアルに自分の生活と照らし合わせられる。(東京都・高等学校教諭)
■天橋立
  • 頂上は広さもあり、それぞれが散策しても目が行き届く。「雪舟観」(上から見たらどのように見えるか想像して天橋立の絵を描く)を皆で取り組む活動も良い。(長野県・小学校講師)
  • 眺望が素晴らしく「股のぞき」でその景色をより楽しむことができる。天橋立駅周辺から成相寺までのエリアで半日の班別自由行動が可能。(中学校)
■ちりめん街道
  • 地域社会の近代化に目を向けた学習が行える。街道のいたるところから明治~昭和期の近代化と地域産業の関係性が読み取れた。電気や鉄道などのインフラも機屋が出資して整備が進んでいる。自分の住んでいる地域はどのように発展したのか、などの探究的な視点を生徒に与えることができる。(東京都・高等学校)
  • 「丹後ちりめん」をどのような経緯で作ることになったのか、どのような方向性で、どのように町が発展していったか、町の方の考え方を知ることは良い学びになる。(東京都・高等学校教諭)
■日本の鬼の交流博物館
  • 鬼に関する博物館は珍しく、展示も工夫されていて興味深い。歴史に関する記述も多く、事前学習を行いある程度の知識を身につけた上で訪問すれば、日本の歴史と地域振興を結び付けた探究学習が可能。(東京都・高等学校教諭)
■福知山城
  • 小学校の歴史でも取り上げる明智光秀の城。石垣に使われている石灯籠の台座など、色々なところから集めて石垣を作ったことが、小学生にも一目でわかる。(長野県・小学校講師)
  • 明智光秀と、その後の城主たちが長年福知山を中心に住民の思いをくんで町をまとめてきた歴史を理解できた。(東京都・中学校校長)

教育家庭新聞 新春特別号 2023年1月1日号掲載

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