㈱伊藤園は2024年11月から2025年2月にかけて「第三十六回 伊藤園お~いお茶新俳句大賞」を開催。世界61か国・48万7670人から、184万5983句もの応募が寄せられた。その中から1000句の入賞作品が決定し、10月15日(水)に発表された。 最高位の文部科学大臣賞は大阪府高槻市の阿見果凛さんの作品「凍星や歴史に残らない仕事」。金子兜太賞には岡山県岡山市の矢野啓介さんの作品「感情の海に一頭くじら飼う」が選ばれた。
今回、文部科学大臣賞を受賞した阿見さんは、小学2年生から俳句をはじめ、様々な俳句コンテストで数多く入賞・入選をしてきた。現在は京都府の洛南高等学校の俳句創作部に所属し、今年の俳句甲子園にも出場した。また、金子兜太賞を受賞した矢野さんは、日本語学校に勤めており、9年ほど前から俳句をはじめた。以前から新俳句大賞に応募しており、前回の佳作特別賞に続き、2回目の受賞となった。
そのほか各部門の大賞作品も、各分野の第一人者10人の最終審査員により、自由で豊かな表現力のある作品が選ばれた。文部科学大臣賞から佳作特別賞を受賞した1000 人には、製品パッケージに自身の作品が掲載された特別生産品の「お~いお茶」をプレゼント。なお、11月3日(月・祝)から「第三十七回 伊藤園お~いお茶新俳句大賞」の募集を開始する。
<上位入賞作品>
【文部科学大臣賞】
「凍星や歴史に残らない仕事」
阿見果凛(あみ かりん)さん 15歳 大阪府高槻市
(選評)
作者は「後世に伝えられなかった凄い人々や仕事」を詠まずにはいられませんでした。歴史に残らない人へのまなざしは、華やかな脚光を浴びるより、地道に時代の下支えをし、ひっそりと姿を消す人々にスポットを当てているのです。この作者がまだ春秋に富む15歳というから驚きです。こういう句を書くことで、作者は自分の中の何かを吹き切ったのだと思います。これもまた、新俳句の求めている新しい一つの方向性といえるかもしれません。
(作者コメント)
歴史の教科書を見ていて、ふと、人類のこれまでの歴史には、後世に伝えられなかったすごい人々や仕事があったのだろうなと思いました。それと同時に、今世の中で活躍している人々でも、その名前や仕事が歴史に残るかは分からないのだと思うと、少し切なくなりました。そういう気持ちを「凍星」に託した句です。
【金子兜太賞】
「感情の海に一頭くじら飼う」
矢野啓介(やの けいすけ)さん 45歳 岡山県岡山市
(選評)
この句は自分の感情の中にある鯨のようなもの、時に深く潜ったり、海面に出て潮を吹いたり豪快に跳ねたりする情念のようなものがあります。それは、いつ暴発するかわからないものです。自分自身制御しきれないものを抱えた、自分自身への恐れかも知れません。分別盛りの作者の、どうにも止まらない喜怒哀楽の不安感でしょうか。でもそれを手なづけておかなければならないとも思っています。「飼う」と言っているわけですから、その覚悟は出来ているのでしょう。
(作者コメント)
鯨は人知れず深海まで潜っていくこともあれば、海面で跳ねたり潮を噴き上げたりして人間を驚かせることもあります。人生において大きな感動を覚えたとき、深い悲しみを覚えたとき、まるで自分の中に一頭の鯨がいるような気がします。私の気持ちに鯨が応えているのでしょうか、それとも鯨が私の気持ちを動かしているのでしょうか。そんな気持ちを詠みました。
【大賞】
〇小学生の部(幼児含む) 応募総数40万3750句
「ちきゅうにてがみをおくる」
岡野珠里(おかの しゅり)さん 6歳 東京都品川区
(選評)
ちきゅうとお友達になれたらいいなという無邪気な願いです。こんな幼い子の願いを、素直にまともに読み切れないようでは、大人の責任かもしれません。「ちきゅうさん、がんばってね」という声援に、「いいよ、どうぞ」と、人間だけでなく、すべての生きものや自然と一緒に、皆で明るく大きな声で、拍手して受け止めたいですね。
〇中学生の部 応募総数48万3018句
「夕焼けのしっぽつかんで立ち話」
伊藤来実(いとう くるみ)さん 14歳 千葉県船橋市
(選評)
夕焼け小焼けでカラスも帰る頃です。でも、もう少し友達と立ち話が残っているから、夕日が落ちるのはもうちょっと待ってねという気持ちです。友達と夕焼けへの名残り惜しさが残っていて、夕焼けのしっぽをつかんで放したくない気持ちがありありです。夕焼けさんも同じお友達の気分にちがいありません。
〇高校生の部 応募総数78万9045句
「留守番の具なしラーメン外は雪」
小川慶太郎(おがわ けいたろう)さん 16歳 東京都稲城市
(選評)
寒い雪の日。一人留守番をしています。お腹がすいてきたので、具なしの即席ラーメンを自分で作って食べる。淋しいけれど、一人でいる解放感もあって、まあ満足でした。本人が「最高」というのは、ちょっぴり強がりっぽいけれど。
〇一般の部A(40歳未満) 応募総数5万291句
「伏線のように手袋落ちている」
三原瑛心(みはら えいしん)さん 25歳 大阪府吹田市
(選評)
冬の日に、よく道端で手袋の片っ方だけが落ちているのをみかけますね。それがこれから始まるミステリアスなお話の伏線のようだというのです。ミステリー作家の宮部みゆき先生のお墨付きがありますから、間違いないでしょう。落ちている片方と、手元に残った片方の別々の運命や如何に。なんだか怖いような、お楽しみですね。
〇一般の部B(40歳以上) 応募総数8万5767句
「蒲公英をしづかに跨ぐ盲導犬」
長曽宏隆(ながそ ひろたか)さん 43歳 鳥取県米子市
(選評)
「しづかに跨ぐ」で盲導犬の日頃の躾がよく行き届いていることが分かります。蒲公英への気遣いは飼い主の好みを承知してのことでしょう。「しづか」は、大きくて優し気な盲導犬の所作を言い当てているのではないでしょうか。体をどてっと寝そべった盲導犬の鼻先にも、蒲公英の花が広がっていて、いい匂いを運んでくれているようです。
〇英語俳句の部 応募総数3万3954句
「zoo exhibit monkeys watch humans watch monkeys on smartphones」
(直訳)動物園の展示/サルをスマホで見るヒトを/サルがじっと見る
Ngô Bình Anh Khoa(ゴー・ビン・アイン・クォア)さん 31歳 ベトナム
(選評)
野生の鹿や熊や鷲などがいっぱい棲息するモンタナ州で子育て中の知人が、幼い息子を初めてロスの動物園に連れて行った。息子は悲しみ、繰り返し「出してあげなきゃ」と動物たちの不自然な強制収容を嘆いたそうだ。外の世界を自由に出歩いているように見えても、多くの人間はテクノロジーの檻に入ってしまい、直に現実を捉えることが難しくなっている。この句は、ぼくらのそんな劣化を面白く重層的に描いている。猿山の猿たちのほうがリアルに生きているかもしれない。
<審査員(50音順、敬称略)>
日本語俳句:浅井愼平(写真家)、安西篤(俳人)、いとうせいこう(作家・クリエイター)、
金田一秀穂(日本語学者)、神野紗希(俳人)、夏井いつき(俳人)、
堀田季何(俳人・文芸家)、宮部みゆき(作家)
英語俳句:アーサー・ビナード(詩人)、星野恒彦(俳人)