国は理系人材育成強化を掲げているが、「理学部に行けば就職は安泰」というわけではない。また、国公立・私立すべての理学部が支援されているわけではなく、重点分野は情報系、工学系、農学系と限られている。
理系=理学部や理工学部だと漠然と考えている保護者や中高生もいるかもしれないが、理系は幅広く、学問領域としては次の分野がある(なおこうした分野横断的な理解は、新学習指導要領でも重視される方向にある)。
▼理学(物理・化学・生物・数学・地学)
▼工学(機械・電気電子・材料・化学工学・建築・土木・航空宇宙・ロボティクス)
▼理工学(融合系)(応用物理・応用化学・生命理工・数理工学・情報理工)
▼農学(農学・応用生命科学・食品科学・環境科学)
▼情報系(情報科学・情報工学・データサイエンス・サイバーセキュリティ)
▼医学・薬学
▼歯学・看護
このうち、国の理系強化の中心は、成長分野とされている情報系(デジタル・データ分析)、工学系(半導体・AI・ロボティクス)、農学系(バイオ・食・環境)である。なお、理学部そのものは再編・融合の方向で、理学部の新設を支援する事業(支援1:学部等の新増設支援)もあるものの、対象は公立・私立大学で、国立大学は含まれていない。実際の採択も工学・情報・農学が中心で、理学部の採択はほとんど見られない。
多くの学生が「小中学校時代に理科が好きであっても進学に伴い文系を選択する」のは、制度的な問題のみではなく、進学費用の問題が大きいと考えている。
その理由の一つが「大学院進学」だ。
「私立大学に通わせたい、文系なら費用はなんとかなる」と、各大学や学部の学費を比較して考える保護者も少なからずいる。
しかも理系学部の多くは「大学院進学」が事実上の前提となっている。
・工学系(特にハイテク系):大学院進学率 60〜80%
・情報系(AI・データサイエンス・サイバーセキュリティ関連):50〜70%
・理学系(物理・化学・生物・数学):70〜90%(最も高い)
・農学系(バイオ・食・環境):50〜70%
(上記表はAIの支援により作成)
なお国立大学の支援策としては主に大学院レベルの情報系強化(支援2:高度情報専門人材育成)であり、10大学が選定されている。
もう一つが理系学部ならではの実験設備や研究室の維持費である。
現状でも理系学部には、私立・公立・国立いずれにおいても、実験設備や研究室の維持などにそれなりの(学部によっては多くの)費用が必要であり、特に理学部は、試薬・分析装置・大型実験設備などの維持費が重く、その傾向が強い。大学院進学も含めると、少なくない保護者負担が生じる。
本記事を書き始めたとき「国立大学で理系学部が増えることで理系人材は増えるのでは」と考えたが、国立大学で理系が増えたとしても、実験費や大学院費等は同様に必要であり、総額では公立大学と同様に私立との差が縮まる構造にある。
真に理系人材を増やしたいのであれば、理系ならではのコスト構造について切り込む必要があるのではないか。分野の重点化による見直しも考えられそうだ。
既に高校生、専門学校生などが素晴らしいアプリ開発をしている点にも最後に触れておきたい。彼らの発想力は、現在の開発環境が大きく支援していることで花開いている。彼らが大学院に行けばさらに素晴らしくなるのか。
今の時点で言えることは「解決したいと抱える課題の大きさが変わる」可能性があるという点だろう。身近な課題を解決したという経験の積み重ねが同レベルで横に広がるのか、さらに国全体を巻き込むような課題に広がるのか。
現在の改革の末生まれた大学院が“技術そのものを生み出す側”に回るために役立つ機能をもつものであってほしい。
【教育家庭新聞編集部】