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教育ICT

子供の力を最大限に引き出す教育基盤の整備と意識転換を<東北大学大学院情報科学研究科 堀田龍也教授>

2019年5月14日
先端技術を効果的に活用する

学校もネットワーク強化・クラウド活用の時代
社会一般のICT環境と学校の“乖離”を是正する

東北大学大学院情報科学研究科 堀田龍也教授

東北大学大学院情報科学研究科 堀田龍也教授

新しい時代を生き延びるための「学びに向かう力」を育む教育環境を実現するためにはどうすればよいのか。第10期中央教育審議会委員(2019年2月15日発令)を始め各種委員や文部科学省「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」座長ほかを務めている堀田龍也教授(東北大学大学院)に聞いた。堀田教授は「新しい学びの実現は学校の情報基盤がぜい弱だと困難」と話した。

これまで通りの方法・環境で新しい学びは実現できない

2019年3月29日、文部科学省は「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(中間まとめ)」を公表しました。また、4月17日に文部科学大臣は「新しい時代の初等中等教育の在り方について」を中央教育審議会に諮問しました。

これらに記載されているように、子供の力を最大限に引き出す学びを支援・強化するための教育基盤整備と意識の転換が求められています。

授業を改善して協働的に納得解を見出し、さらに新しい課題を見つける力を育み、基礎基本は効率的に身につけ、教員は、子供の学びにとどまらず健やかな人間関係やメンタルも把握して学校改善に活かす――これまで通りの方法でこれらすべてを実現することは難しいでしょう。方法や環境を見直し、考え方を方向転換していく必要があります。

それを示したものが文部科学省「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(中間まとめ)」であり、今後の初等中等教育の検討要素をまとめたものが「新しい時代の初等中等教育の在り方について」(諮問)です。

「中間まとめ」では、先端技術を効果的に活用することで、授業改善の支援、基礎力定着の支援、校務支援ほかを実現すること、そのための環境整備を推進することが示されました。

既に一般社会ではクラウド活用は日常化しています。

スマートフォンで写真を撮影し、それをクラウドにアップして自宅のPCからアクセスし、編集・加工する。PCアプリの最新バージョンはクラウドから自動的に更新されるなどが日常的に行われており、これら仕組みによって時間や物流など多くのコストが削減されています。

これをなぜ、学校だけが毎年、手作業で進めることを良しとするのか。端末にすべてのアプリを入れ、様々な機能を持たせようとするのか。

これではPCに高いスペックが必要となり、コストが膨大に増え続けます。そうなると学校のICT環境は整備進行のペースが落ち、社会一般のICT環境との乖離が進むことになります。

乖離が進むと教員はさらに情報から遮断され、危機的状況に気付くのが遅くなるなど、学校への信用失墜にもつながりかねません。

教育クラウド活用は必須 「SINET」で基盤作り

学校・教育委員会からSINETへの接続は設置者負担 (中間まとめより)

学校・教育委員会からSINETへの接続は設置者負担(中間まとめより)

ある程度整備コストを抑えながらも、デジタル教科書や教材を円滑に活用し、教室を超えて協働的な学習を行い、制限なく動画や写真を撮影して保存・編集・発信し、ドリル学習などにより蓄積される膨大なデータを分析して学校改善に活かすなどを日常的に行うには、ネットワークを強化してクラウド活用を進めるしかない、という段階にきています。

既に大学では10年ほど前からこのような環境が整っています。

大学が用意するものは強力なネットワーク。学生はそれに自分のスマートフォンやタブレットPCから接続して情報を収集したり、MOOCなどのオンライン講義を活用したりレポートを提出したりする。CGやゲーム制作をする、プロジェクションマッピングをプログラミングするなどマシン負荷の高い作業をする時のために、高CPUや高GPUなどのパワーマシンをPC室に10数台程度用意。自分の端末を用意することが難しい学生のための貸し出し用端末もしくはPC室スペースを用意し、基本はBYOD環境としています。

学校現場でも今後はクラウドを活用することで、すべてのアプリを端末にインストールする必要もデータをすべて自分の端末に保存しておく必要もありません。結果、個人負担の端末コストは低くなります。コストが低ければ家庭負担も現実的になります。

初等中等教育にも同様の整備が求められています。まず必要なものが、クラウド活用ができる強力なネットワーク環境です。しかしこれにはコストがかかります。

そこで文部科学省は、世界最高速級の学術情報ネットワーク「SINET」の初等中等教育への開放を施策として盛り込みました。高等教育のネット環境は「SINET」により盤石になり、各研究室では4K動画も反転授業も当たり前に実現できます。文部科学省では初等中等教育でも同等の環境を実現するため、活用モデルを早急に検討・提示する方針です。

対象を高等教育から初等中等教育に広げることで対象人口が大幅に増えますので、解決すべき様々な問題も生じてきますが、これについて解決を図れるように検討し、最終的には「国が基幹ネットワークを負担する」形が実現することになるでしょう。

そうなると、全国の自治体は、近隣の大学に接続する仕組みを構築すればよく、最低限のコストで高速ネットワークの利用が可能になります。

この仕組みでネットワークを強化した大学附属小中学校の事例も既にあり、国の検討を待たずに整備を進めることも可能です。大学はネットワークを地域に開放することは理解しています。タブレットPCを整備したもののネットワークが不足、という自治体は近隣の大学に「自治体からSINETに接続するためにはどのような整備が必要か。接続するとどんな速度でどんなことができるのか」と問い合わせてみてください。先鞭をつけることで得られるメリットは大きいはずです。

教育情報セキュリティポリシーもパブリッククラウド活用を想定

教育現場でクラウド活用を前提とすることに不安を感じる人もいるかもしれません。その漠然とした不安の理由は、情報漏えいなどのセキュリティに対するものです。そこでパブリッククラウドの利活用に向けた「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」の在り方の検討が始まります。文部科学省では、今夏頃を目途に改訂・追記する方針です。

スマートフォンでデータをクラウドに保存やダウンロードしている際、これらのデータがどこにあるのか、多くの人は知りません。国内かもしれませんが国外かもしれません。要するに「どこにあるのかわからない」。「わからない」からこそ「安全である」と考えることもできます。どこにあるのかが分かっている方が、外部攻撃の危険が、より増す、とも言えます。

悪意あるデータ収集を阻止する方策は必要ですが、生活改善のためのデータ収集・分析は既に浸透しています。どの時間にどんな人たちがどんな場所に集まるのか。それによりネットワーク強化などの対応がされているのが情報化社会です。学習ログを蓄積することが危険であるという理由で学校のみが情報化に遅れをとってよいとは言えません。まずは教育環境を世間と同等にする、大人の世界の当たり前を子供の世界にも実現するという考え方で進めていく必要があります。

劣悪なICT環境は教員の多忙化促す

時間を創出できる教育環境で新しい教育ニーズに対応する

新しい学びのいくつかとして、「特別の教科 道徳」を始め小学校外国語教育や、各教科でのプログラミング教育も始まります。

インバウンド対応で外国人の来訪は劇的に増えています。対して日本は少子高齢化社会を迎え、消費力が落ちざるを得ません。外国人の消費を促すインバウンド施策は今後、一層重要になり、仕事上英語は必須になります。そんな状況を踏まえての外国語教育です。

英語教育の経験がない小学校教員が授業を担当するにはデジタル環境が必須です。新しいデジタル教科書には英語の音声がふんだんに入っており、支援機能も豊富なようです。これらを利用できる環境の整備は設置者の義務と言えます。

プログラミング教育も同様に、時代のニーズから始まるものです。AIやIoTの知識は今後の産業に欠かせません。その基盤となる力や素養を初等教育段階から育むことが求められています。与えられる情報を消費するだけではなく、情報を見抜いて取捨選択し、さらに改善を考えることができる子供の育成です。テクノロジーを知らないことは新しいビジネス創出において不利になります。技術はどんどん進化しており、次の時代には、さらに新しい力が求められることになります。

そこで新しいことを学ぶことを「楽しむ」力、「学び続ける」力が必要になるわけです。様々なつながりから自分で自分を理解し、自信を持ち、人のため、社会のためにアイデアを出していけるようになること。そのためには自身で学び、熱く語る経験を積むための時間確保は欠かせません。そのための場として社会との連携も必要です。

さらに今後、グローバル化が進み様々な文化背景を持つ人々とともに、正解のない課題に向かっていくためには、日本人としての社会性・文化的価値観の醸成が求められます。

多くのことが一度に求められているのは、その必要があるからであり、「できないからやらない」「難しいからやらない」「時間がないからやらない」という選択は、大人としての責任を放棄することになります。

基礎基本が大事なことは変わりません。しかし新しい学びも必要、では両方行うためにはどうすれば良いのか。

これら新しい学習の実現は、学校の情報基盤がぜい弱だと大変困難です。時間を生み出すためにも、基礎基本はクラウドにアクセスして動画で学ぶ、校務の情報化を真剣に進めるなどが必要です。朝からアナログで出欠確認をしているなどICT環境が劣悪すぎて教員の多忙化を促進している自治体は、早急に環境を考え直す必要があります。

教室の大型提示装置にはその日の予定が提示される、遅刻欠席情報の蓄積で不登校傾向を示すアラートが、関係する教員の端末に提示される、保健室で全校の欠席情報や近隣の学校のインフルエンザ等による学級閉鎖状況が分かる、事務連絡はすべてオンラインですませるなどの仕組みは、もう「夢の環境」ではなく「実現すべき環境」といえます。時間講師やボランティアの管理を低コストですませようとすると大変です。ここでもネットワークを利用した管理がスクールマネジメントとして求められます。

学校や教員に求められる要求は高いにも関わらず教員の環境が劣悪なままであれば、「将来就きたくない仕事」となり、日本の教育環境全体が危ぶまれます。効率化による教育サービスの高度化こそが教員にとっての働き方改革につながり、働き方改革の実現で「新しい学び」に取り組むことが可能になります。


プロフィール

文部科学省「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議」座長・文部科学省「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」主査・文部科学省「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」座長・中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会道徳教育専門部会委員・中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会情報ワーキンググループ主査・中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会高等学校部会委員・中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会臨時委員・中央教育審議会初等中等教育分科会臨時委員・内閣官房「教育再生実行会議第技術革新WG」有識者、第10期中央教育審議会委員など

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年5月13日号掲載



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