善通寺市教育委員会(小学校8校・中学校2校)では、GIGAスクール構想配備として児童生徒用端末(iPad)と周辺機器の配備を2021年1月に完了した。児童生徒1人1台、計2331台(一部教員用含む)の端末活用が始まっており、現場の使いやすさ・定着を最優先にした試行錯誤の結果、順調な活用がすすんでいる。その理由と運用について善通寺市教育委員会教育総務課・津島省吾課長補佐(デジタル推進室長補佐併任)と同・宮地雄貴主事に聞いた。
平岡政典市長が2010年に就任して以来、本市では「教育」と「子育て支援」を最重要施策に位置付けていることから、2015年度に小学校にiPadを1学級全員が同時に使用できる台数を目安に全校に配備。2019年度に全普通教室に電子黒板を配備するなど、ICT環境配備には積極的に取り組んできた。
これを支えているのが、学校現場の有志が中心になって発足した「タブレット導入検討委員会」だ。本検討委員会によりiPad配備が決まったことを皮切りに、各校1名が所属する「ICT活用検討委員会」として定着。各学期に1回程度、情報交換を行う等ボトムアップで活用が進んでいる。
2015年度の配備以降、端末活用は順調に進み、配備台数の増加ニーズも達成すると共に、浮上したのが管理の問題だ。当初、教育委員会の管理者はApple Configuratorでアプリの配信管理やOSの更新を行っていた。しかしApple Configuratorによる運用はリモート作業ができないため、今後の端末増加による管理負担の増大が懸念された。
そこで、端末の一元管理のためにMDMの導入を検討。当時の担当が複数のMDMを検討し、わかりやすさと価格を重視して「CLOMO MDM」(アイキューブドシステムズ)を選択して2017年度、西中学校で試験運用を開始した。
中学校では教科により、活用するアプリが異なり、これまでは1台ずつ手動でインストールや削除を行っていたが、MDMにより、1~2クリック程度で必要な端末だけにインストールしたり、削除したりすることができるようになった。
操作がシンプルで使いやすく、遠隔で端末を管理でき、速やかにアプリを配布して授業に活用できるという点が特に利点として評価された。学校は教育委員会を通じて、アイキューブドシステムズのサポート窓口に質問をして疑問点の解消や、やりたいことのために必要な情報を得ることもできた。そこで、2020年度からの1人1台端末配備の際、教員の負担を抑えられると考えてMDMによる管理のため「CLOMO MDM」の全校導入を盛り込んだ。
現在、教員用含めて小学校1619台、中学校712台、計2331台のiPadを「CLOMO MDM」で管理している。
他市町の教育委員会から「MDMを導入したが研修をしても活用が浸透しない」「MDMの操作が複雑で覚えることが多く教員負担が大きい」という課題を聞いており、導入当初が正念場と考えていたが、教育委員会への問い合わせは1か月程度で落ち着いており、現在は新規アプリの要望が届くなど、スムーズに学校活用のフェーズに進んだと感じているところだ。モデル校でMDM管理のイメージを共有できたこと、「CLOMO MDM」のわかりやすさ、各校から直接、サポート窓口に質問してすぐに疑問点を解決できる等により、活用を促しているようだ。
市として統一して配備して導入しているアプリはロイロノートのみ。iPadには様々な無料アプリがあり、教科や学年、学校種によって使いたいものも変わってくるため、教育委員会でライセンスを用意し、各校の管理者がMDMでアプリを配布している。
プログラミング教育には2019年度から積極的に行っており、1人1台配備により、全学年で実施しやすくなった。市独自のプログラミングコンテストも行っており、独創的な作品が生まれている。中学校ではドリル学習での活用も多い。
端末の持ち帰りについては教育現場からの要望も届いており、現在検討中だ。セキュリティを強固にしすぎると、教育用端末としての利便性を損なう可能性もある。端末の管理体制やセキュリティ対策、教員、児童生徒を含めた使用者側の運用ルール及び情報モラルの徹底について慎重に検討していきたいと考えている。突然の休校等に備えて家庭貸与用のWiFiルータも200台配備済だ。
2019年度に市内小・中学校に1Gbps対応の校内LAN環境を整備済。端末が飛躍的に増えることから、インターネット回線のリプレイスを2020年度に実施。これまでの集約型接続から、各学校に光回線を敷設して学習系ネットワークをクラウド経由で接続。同時接続時の負荷軽減及び1台あたり2Mbps程度の通信速度を確保でき、順調に1人1台活用が進んでいる。
2021年4月からデジタル推進室を設置。これまでも首長部局と連携・相談してICT環境を整備してきたが、4月からは首長部局と教育委員会が連携する部署としての活動が始まる。これまで以上に意思決定の仕組みが迅速になりそうだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年6月7日号掲載