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教育ICT

個別最適な学びと1人1台端末活用~教えることは「マスト」ではない 教員は「子離れ」目標に~奈須正裕教授・上智大学

2021年7月6日

奈須正裕教授はNEW EDUCATION EXPO東京会場で講演。個別最適な学びや協働的な学びについての過去の取組を整理し、子供が自ら学ぶ力を刺激する環境が必要であること、これまでと最も異なることは「11台端末がある」ことであると話した。

自ら学ぶ力が育てば、協働的な学びも子供だけで進められる

自ら学ぶ力が育てば、協働的な学びも子供だけで進められる

■近代学校の出発点は「子供の学び」ではない

日本ならではの学びに「寺子屋」がある。個別指導で無学年制であり、個別最適な学びを実現しやすい形式だ。また、教育学の基本と言われているJJルソーの教育論「エミール」は、自由で自然な成長を促すことが教育の根本であるとした。教科書や教員中心の教育に対立する概念で、これも家庭教育中心である。

3月生まれと4月生まれでは、体育などで着替えにかかる時間から異なる。1学年制で同じことを行うのは無理がある。個別最適な学びは、家庭教育の感覚からいうとごく自然である。

近代学校は子供の学びに基づいたものではない。明治政府は、効率性を重視。マリオン・スコットがアメリカの公教育として一斉指導等を伝え、近代学校が始まった。

クラス単位の一斉授業は効率を重んじた授業方式であり、できる人だけ残ればいい、という考えが基本。45分授業は、単純作業で集中力を維持できる最大限の時間であるという理由で始まった。運動会は軍事訓練が基になっており、玉入れは手榴弾の基礎訓練さながらだ。そのような一斉授業を、子供のために改善してきた。

■大きな教育改革は2

大きな教育改革は2つある。

1つは、身近で切実な問題を課題にすべきである、という考え方で、100年以上前に始まった。これは生活科や総合的な学習の時間につながっている。

次に、1人ひとりにあった学びの提供が必要である、という考え方だ。これも100年以上前に始まっている。1920年代に始まったダルトン・プランは有名だ。1人ひとりの能力、要求に応じて学習課題を提供する自学自習が中心であり、教員はアドバイザーであることが求められる。

日本において個別最適な学びは、大正時代にも行われていた。奈良女子高等師範学校附属小学校で、毎日1校時を「特設学習時間」とした。子供が学びたい内容や先生を選択する学習だ。同校では「独自学習」「相互学習」「独自学習」という流れを理想として取り組んだ。

この2つの改革の流れに則り、様々な教育施策が行われてきた。

日本においては、1971年の中教審答申が「基礎基本の習得と共に豊かな個性を伸ばす」2つの目標を定めた。加藤幸次氏は「指導の個別化」「学習の個性化」モデルを考案。「指導の個別化」により、それぞれの子供に合った方法で基礎基本とされるゴールにたどりつく。さらに豊かな個性を伸ばすため、得意分野やこだわりたい領域に学校教育のリソースを集中するという内容だ。加藤氏のモデルは、学校施設整備における「多目的スペース」への予算補助、「ティーム・ティーチング」のための教員加配、学習指導要領における「個に応じた指導」の推進等につながった。

すべての子供は生まれながらにしてアクティブ・ラーナーであり、教えなくても子供自身が学ぶことができれば良い、という「消極教育」(ルソー)である。「教える」ことがマストであるという「思い込み」からの脱却だ。「教える」ことの喜びは教員にとって大きいものだが、それ以上に重要なのが、子供が「たくましく育つ」こと。教員は「子離れ」を目標としなければならない。子供は「有能な学び手である」という子供観が重要だ。

■適切な環境では自ら学ぶことができる

適切な環境に出会えば子供は自ら学ぶ。

ある学校では、数台の顕微鏡を廊下に設置。すると子供はそれを使って様々なものを見るようになる。上級生が下級生に教えたりする。学びを通じて多少壊れるのは仕方がない。理科室に大切に顕微鏡を保管していても何年か経てばレンズにカビが生えて使用できなくなる。それであれば、どんどん使った方が良い。

幼児教育ではノリやハサミ、色紙などがいつでも使えるように設置されている。自分で使うものを選択するので自己決定力が育まれ、使い終わると片付ける。ところが学校に上がると、使うときに教員が配布する。自己決定力の育成を阻んではいないだろうか。

何をなぜ、どのように学ぶのか。それを予め子供に開示する方法もある。子供用に書き直した指導案を渡すイメージだ。子供のペースで進めると、3分で終わる子、7分かかる子、様々である。一斉指導とは、せかされる子供、待たされる子供を膨大に生み出す仕組みであり、子供の学びの観点から見ると「効率的」とは言えない面がある。

愛知県東浦町立緒川小学校で取り組んでいた「単元内自由進度学習」では、机上に飲み物等を用意しながら、それぞれのペースで実験や観察を行っており、自発的に協働していた。このとき教員に求められるものは「見取り」である。

■子供は本来 自律的に学ぶもの

自律的に学ばせることは難しい、というイメージがある。しかし、年齢が下になるほど「自律的」にしか学べない。子供は生まれながらにして自律的である。小学校以降の「訓練」が自律性を阻害している。言われたことだけに取り組む、ということの繰り返しでは、先を見通す力を育むことはできない。

ある学校では、学習が始まる前、教室環境がさりげなく変わる。「はかり」の学習では、様々な種類の計量器が教室内に置かれていた。そうすると子供は、様々なものを計測する。体重計に何人もが乗ってみる。計測器の上に計測器を乗せて測ったりもする。自分なりの発見をすると嬉しそうに報告してくる。大人の予想を超える、このエネルギーが、学びに向かう力になる。このエネルギーを発揮できる学びの環境作りが求められている。教員の都合ではなく子供の都合での授業づくりだ。

例えば、重さを計測せずに作ったホットケーキを試食。味やふくらみが不足している。これを解決するにはどうしたらよいのか。計測して作ればいい、という子供の意見から、「はかり」の学習が始まる。

「夏野菜カレー」を作るために野菜を育てる、と子供に告げる。すると子供は「カレー作り」を楽しみに、野菜の水やりにいそしむ。目標があれば「水やり当番」は単なる「仕事」ではなくなる。状況が理解できれば、子供は知性的に行動する。

■個別最適な学びと11台端末環境

個別最適な学びには2つの意味がある。

1つが、1人ひとりにあった教材や学びの機会を提供すること。

もう1つが、自分に最適な学びを自律して計画・実行できること。後者への挑戦はまだ少ない。

しかし、大学入試も47%AO入試の時代である(2019年度)AO入試は、後者の学びを求めている。

「子供だけで進める授業」には、ぜひ挑戦してみてほしい。2年生で「ちくちくことば、ふわふわことば」に子供だけで取り組んでいる授業を見た。4年生くらいになれば授業の型が身についているので算数などはどんどん進む。

これまでも個別最適な学びについては様々な挑戦があったが、これまでと大きく異なるのが「11台端末」があることだ。

11台端末」は、教員が教えるための教具ではなく、子供が学ぶための文房具とすることで、大きな可能性がある。

大人が端末で最も使うのは文章作成機能である。子供も、オフラインで十分に文字入力を訓練することから始めれば良い。

入試も学力テストも近い将来CBTになる。キーボード入力は必須である。

作文も、3年生くらいからは、手書きではなく端末上で作成して提出してはどうか。作文=文字を書くこと、ではない。作文=推敲すること、である。ワープロ機能は推敲に適している。

次に、わからないことがあればどんどん調べることだ。手元に端末を置いておき、調べたいことがあればすぐに調べる自由を妨げない。それぞれの疑問はそれぞれで解決する手立てを与えるのだ。「調べていいですか」という質問はなくて良いし、動画を見てわからなかったことが解決できればそれで良い。2分程度の動画を見て理解できることを1時間かけて授業をすることを止めるのだ。情報伝達は学びではない。情報から問を生み、話し合うことが学びである。

■自己内対話の時間を確保する

オンラインには4つの視点復習や振り返り、探究、反転学習、補習がある。

復習や振り返りとはドリル学習による確認のことではない。自己内対話である。これがとても重要だ。自分がなりたい姿を思い描くこと、それに少しずつでも近づきたい、もしくは近づいた、と判断するきっかけにもなる。

家庭で端末を使ってゆっくり振り返り、自己内対話を行う。教員はそれを見て評価、次の授業につなげることができる。

授業の最後に数分間で急いで振り返っていては、自己内対話までたどりつきにくい。教室で「わかりました」と言っても、ゆっくり考えると、疑問がまだ残っていた、というのはよくあることだ。

授業内での振り返りに留まらず、自宅でゆっくり振り返ることを選択肢の1つとしたい。誰1人取り残さない学びのためにも、指導と評価の一体化のためにも必要である。ぜひ挑戦してほしい。

奈須教授[個別最適な学びと協働的な学び」文科省討議用資料

 

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年7月5日号掲載

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