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教育ICT

GIGA端末の成果と課題~子供の主体性を邪魔しない 堀田龍也教授(関西教育ICT展より)

2021年9月6日

第6回関西教育ICT展が8月5・6日、インテックス大阪(大阪市)で開催され、ICT教育推進をテーマとした各種セミナーや模擬授業、企業提案を展開。コロナ禍のなか、両日で約2600人の教育関係者が参加した。主催は一社・日本教育情報化振興会ほか。次年度は8月4・5日に開催予定。セミナーの一部を紹介する。


堀田龍也教授

堀田龍也教授

堀田龍也教授(東北大学大学院)はGIGAスクール元年における学習指導の考え方として「情報活用能力」「GIGAスクール構想の趣旨を踏まえた実践」「データ駆動型の教育」をテーマに講演した。

■教育委員会間の温度差は極めて大きい

GIGAスクール構想は、教員の判断で必要な動画や教材を提示するなど「ICT活用が便利であると教員が考える部分で使う」発想とは異なる。いつでもICTを活用できる環境を子供に保障すること、効果的な活用ができるか否かは子供の情報活用能力次第であり、児童生徒自らが便利に活用できる「情報活用能力」を育成することが学校に求められている。

情報活用能力は、学習指導要領において「すべての教科の基盤」として位置付けられている。この重要性や重たさに気づいていない人は、「ICTは便利な部分でたまに使う」という活用にとどまっている。理解しているところは、教委レベルでカリキュラムに組み込んで取り組んでいる。温度差は極めて大きい状況である。

■学力テストも入試も端末活用前提の出題に

文部科学省では、YouTubeもメールもSNSも一切禁止していない。端末持ち帰りによる学びも推奨している。もし学校で禁止されているとしたら、それは設置者の考え方である。

端末活用において、コミュニケーションツールを一切禁止することは、実際の生活体験とは異なる。当初は一部を禁止するとしても、段階的に許可するなどの全体設計が必要だ。

学力テスト等のCBT化もまもなく始まる。児童生徒は、それまでに端末活用に慣れている必要がある。

2021年度の全国学力学習状況調査では、インターネット活用が既に生活の一部にあることを前提とした出題が多く見られた。例えば小学校6年生には「博物館から城までの道のりが地図検索上では徒歩20分であるが、分速〇〇の人の場合、実際には何分かかるか」という出題があった。地図を検索して時間の目安を知るという生活体験を前提とした問題である。

中学校3年生の国語ではSNSについてどう考えるのかの意見文が出題された。外部の人に対するメールによる依頼文の書き方がテーマで、インターネットによる依頼等の学習利用を前提とした出題だ。

2021年大学入学共通テストの政治経済では、探究の過程に沿った出題があり、英語では、英文の内容を構造化する出題があった。

情報活用能力を含みこんだ出題を反対する声明が英語教育団体から出されたがGIGAスクール構想には合わない考え方ではないか。スマートフォンすら使ったことがない人が意思決定層にいる場合、問題の多い意思決定になる可能性がある。

■ゴールの理解が重要

GIGAスクール構想は、学校教育に対する新しい考え方を実現するためのものであること、そのために高速ネットワーク環境が必須であることはこれまで繰り返し述べた。個別最適な学び、主体的で対話的な学びを、端末を使って充実させることは、すぐには難しい学校もあるだろう。

その際に必要なのが、ビジョンである。ゴールを理解し、今どの段階にいるのかを意識するかどうかで成果が変わる。20211月の中央教育審議会答申では、クラウドを禁止せず、端末の持ち帰りを推奨している。すべての学校が対応しなければならない。

クラウドは、授業利用に限らず、働き方改革にも寄与するように活用すべき仕組みだ。

クラウド上の共同編集作業は、GIGA配備により急速にポピュラーな活用になっている。しかし、経験しなければ理解が難しい事項でもある。わかってから使いたい、というアプローチではなく、経験しなければわからないと考え、教員は、先んじて校務活用で進めていくと、授業活用もイメージしやすくなる。

■文字入力は4か月で伸びる

端末が届き、すぐに活用できた学校、できていない学校、やっているが思うようではない学校がある。成功している教育委員会は、端末が届く前からアカウントを配備してクラウド活用を進め、ネットワークを配備している。

端末が届いてすぐに課題になるのが文字入力だろう。20209月にChromebookを導入した小学校4年生と6年生を調査したところ、毎日1回以上端末に触れつつ練習を進めていれば、約4か月で1分間につき30文字以上タイピングできるようになっていた。

■子供の主体性を邪魔しない運用へ

マナーが重要であることは前提として、端末活用を大人の判断で「禁止」すると、学ぶ機会が激減する。「勉強に関係ないことはやらない」という価値観は、時代に合わない。子供のやりたい気持ちを邪魔しないことが求められる。休み時間は使用不可、という方針も疑問だ。スキルを向上するためには、自分の所有物としての自由度の高さが望まれる。端末を夏休みに持ち帰った自治体とそうではない自治体では、2学期の進捗が大きく変わるだろう。

■データ駆動型の学びを準備する

子供が理解しやすいコンテンツの提供も重要だ。その代表的なものが「学習者用デジタル教科書」である。学習者用デジタル教科書が法制化され、文部科学省は学習者用デジタル教科書普及促進事業に約20億円を費やしている。それと共に学習指導要領をコード化し、データ活用の準備を進めている。

教育データ利活用の事例として、京都大学緒方研究室が開発したデジタル教材配信システム「BookRoll」を活用した夏休みの課題のデータ分析によると、課題への取組方法は6パターンあった。そのうち、「こつこつ取り組む」「序盤に終わらせる」「終盤に一気に取り組む」パターンでは、顕著な差がなく、最も効果があったのが「終わった後で復習する」パターンであった。復習の重要さがデータで明確になった。また、こつこつ取り組むことにそれほど優位性がないことも明らかになった(関連6)

現在、様々な取組と共にプラットフォームの開発が進んでいる。向こう1年で、さらに大きく変わる。端末を児童生徒に使わせていない学校の問題は深刻である。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年9月6日号掲載

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