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教育ICT

学びのユニバーサルデザインで「学び方の選択肢」を提案~新潟市立小須戸小学校の実践を報告

2023年7月4日

個別最適な学びを具体的にどう実現するか。多様な学び方の選択肢を提供し、学習者自身が学びを調整することで個別最適な学習環境を構築する枠組みが「学びのユニバーサルデザイン(以下、UDL)」だ。2020~22年度に行われた新潟市立小須戸小学校のUDL実践について、当時校長を務めていた中林浩子教授・下関市立大学教養教職機構長、当時同校でUDL推進主任を務めた植田一宏教諭・新潟市立江南小学校が報告した。川俣智路准教授・北海道教育大学未来の学び協創研究センターはUDLについて解説。本実践は新潟市教育委員会と内田洋行の協力のもと北海道教育大学に開設された未来の学び協創研究センターとの共同研究によるもの。

月1回4時間授業で教員研修の時間を確保
中林浩子教授 下関市立大学教養教職機構長

2020年度から3年間、全校でUDLの考え方を取り入れて授業改革に取り組んだ。

UDLを導入して3か月で、学校適応感尺度(アセス)が向上。テストでは無答の数が減少し、簡単に諦めない児童が増えている。また、昨年度の全国学力学習状況調査の結果では特にICT活用が全国に比して高い割合にあり、児童は日常の文房具としてICTを活用している。

主体的な学習者を育む授業への転換のためには教員自身も自立した学習者になることが重要であり校長としてリーダーシップをとって環境を整えた。

1年目は市教委の学校プロジェクト制度を活用して資金調達を行い、川俣教授を始めUDLに知見の深い3名を伴走者として招聘し教員研修を実施。校務分掌組織も改編し、授業改革を推進するUDL推進主任とICT推進主任を位置付けた。

2年目からは北海道教育大学未来の学び協創研究センターと内田洋行との共同研究に実践フィールドとして参画。大学や民間企業と協働することで試みの幅が広がった。

働き方に応じた研修に

授業改革と働き方改革を両立させるには教員が自ら舵取りしながら新たな知見を学ぶ時間を確保する必要がある。そこで、月14時間授業の日を設定して3時間の教員研修を保障。必要に応じて自分で参加する任意研修も実施。ロング・ショート、対面・リモートなど研修の種類を工夫し、働き方に応じて研修を受講できるようにした。

どんな授業をデザインすればよいか、授業前には管理職も含め教員同士で検討を重ね、授業後はリフレクションを行った。授業は360度カメラで録画してふり返り、Google Classroomで実践を共有して伴走者からのフィードバックを得るとともに教員同士で討議。いつでもどこでも自分の授業を見直すことができる環境とした。自主的な学習会も立ち上がり、教員の自立した学びが進み始めた。

データで成果を判断

成果の判断として感覚や勘ではなくデータで実態を把握するアセスメントを利用するためNRTの結果分析について研修したところ、標準得点分布(学力偏差値)で低いに位置する児童が減少し、学習が苦手な児童にとっても学びやすい学習環境になっているという手応えを感じた。UDLでは平均点の向上よりもすべての子に伸びがあるかという視点が重要となる。

内田洋行の協力のもと学習アプリについても研修し、NRTの結果から読み取った各学級の実態に応じて学習アプリを選択するようにした。

場所・学ぶ内容・学び方を児童自ら選択できる環境へ
植田一宏教諭 新潟市立江南小学校

実践ではまず、児童が学ぶ場所を自由に選択できるよう教室内に座卓やレジャーシート等を配置した。クラスの児童はこれを「ピクニック」と呼んでいる。

廊下には教師用教科書を配置して答え合わせや不安な時に確認できるようにした。話し合いや相談のためにピクニックに集まったり、答えを確認しに廊下に出たり、集中したい子は机で個別に学ぶなど、児童が自分で考えて学ぶ環境を選択できる環境とした。

5年生国語「詩を味わおう」の実践では、学習課題「同じ言葉やリズムを繰り返すことでどのような印象を受けるか説明できる」について、次の5つの選択肢を提供。①3つの詩から選ぶ、②デジタル教科書を選択できる、③音声でも聞くことができる、④同じ詩を選んだ人と相談できる、⑤感想の書き方の例を見ることができる。

授業後、どの選択肢だとやる気が出るかについてアンケート調査を実施したところ、全員がいずれかの選択肢でやる気が出ると回答。4040通りの支援は難しいが、選択肢を設けることで児童にとって学びに向かいやすい環境となることを実感した。

長期休業中は生活表とワークブックをやめ、より自立した学びに挑戦。休み前は「やる気を高める力が必要」と考える児童が多かったが、取組が進むにつれて「苦手なことでも頑張る力が必要」と児童の意識が質的に変化した。

児童にもUDLの理解を促す

何が自分に必要なのかを児童自身が考えて取り組むためUDLガイドラインなどエビデンスを提示し、児童にもUDLの理解を促した。教員の異動や進学があっても、自分の学びを自覚していれば取組を継続できる。

共同研究の一環で提供されたAI型学習アプリは自動採点して終わりではなく、解答はどうだったか、どのように活用するかを考えて取り組むよう伝えた。学習履歴を基に自分の理解度を把握して学び方を見直すなど、データを基にした学習相談の積み重ねによって、児童自身がデータを分析・活用し自立した学習者へと育っていくと感じている。

学びのユニバーサルデザイン(UDL)とは
川俣智路准教授 北海道教育大学未来の学び協創研究センター

適切な選択のために必要な`学習のゴール’`why’の提示

学習の課題には困難さだけでなく得意や進度など様々なニーズがある。個別の支援を複数人に毎日提供することは難しい。そこで、学びのユニバーサルデザイン(UDL)では個人に学習のつまずきの原因を求めるのではなく、学習環境に学習を阻むバリア(障害)があると考える。

多様な学習ニーズを前提に、学習方法や内容、評価方法を複数準備して学習者の裁量で選択できるようにする。教員は指導役からガイド役に転じ、学習者の学びの調整をサポート。学び方や学習内容を学習者と教員双方がふり返りながら学びのプロセスそのものを習得し、自分の学びを舵取りできる「学びのエキスパート」を目指す。

選択肢を設けるための基準やアイデアは、米国の研究団体CASTUDLガイドラインで、何を学ぶか(提示と理解)・どのように学ぶか(行動と表出)・なぜ学ぶか(取組)3つの原則と、多様な方法の例として9つの手掛かりを示している。

子供たちが適切な、あるいは自分に合った選択をするには、学習のゴールとWhyの提示が重要だ。ゴールはその学習の時間において達成すること。そしてなぜそれを学習するのかを提示する。例えば「○○ができるようになる」ではなく「来週のテストで○○ができているか確認する」などと明確になぜ学ぶかが分かれば、子供たちは自ずと身に付けるための学び方を選択する。選択を子供に任せると取りこぼしや理解が不十分のまま進むことも考えられるが、後でフォローしたり、自分でふり返ったりすることによって、子供が学習者として成長するプロセスと捉えることもポイントである。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年7月3日号掲載

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