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【いじめ防止対談】話し合う授業のきっかけに~いじめ防止標語コンテスト

2023年8月21日

児童・生徒一人ひとりにいじめについて考えてもらうことを目的に行われてきた「いじめ防止標語コンテスト」(主催:いじめ防止標語コンテスト実行委員会、後援:文部科学省ほか、協賛:AIG損害保険株式会社<以下「AIG損保」>)。同コンテストを実施するねらいやコンテストが果たしてきた役割などについて、コンテストの実行委員長を務める林原麻里子氏(AIG損害保険株式会社執行役員兼広報部長)と、第1回目から審査委員を務めてきた品川裕香氏(教育ジャーナリスト)に話を聞いた。

いじめ防止標語コンテストに関わることになったきっかけは

いじめ防止標語コンテスト
実行委員会委員長
林原麻里子さん

林原 AIG損保は企業や個人をリスクから守る多様な保険商品を扱う損害保険会社です。児童・生徒向けのサービスも提供し、彼らの安全で安心な学校生活をサポートしています。今、教育現場で大きな問題となっている『いじめ』の問題について、企業として、何かできることはないかと考え、『生徒自身がこの問題について考えるきっかけになれば』という思いで、このコンテストに協賛させていただいています」

いじめ防止標語コンテスト審査員教育ジャーナリスト・前中教審委員 品川裕香さん

いじめ防止標語コンテスト審査員
教育ジャーナリスト・前中教審委員
品川裕香さん Ⓒ中林香

品川 1997年の神戸連続児童殺傷事件で、識者の一部から『こんな事件を起こす子は発達障がいだろう』という発言があり、以降、『暴力を振るうのは発達障がいかも』との考えが広まり始めました。強い危機感を覚えていた2006年、第一次安倍内閣の教育再生会議で有識者委員になり、いじめ問題が議論になりました。当時、発達障がいの子たちが被害を受けるケースが増えていたのですが、いじめられる側にも問題があるとの意見が根強くありました。いじめは反社会的行動であり集団に発生する暴力ですので、解決するには『いじめは犯罪だ』と定義する必要があると会議で主張しました。そういった経緯を踏まえ、本コンテスト審査員のお話をいただき引き受けました」

これまでに、同コンテストが果たしてきた役割とは

林原 「いじめは、どんな社会になっても残念ながらまだまだ完全にはなくならない難しい問題です。標語作りを通して、一人ひとりがいじめについて考えるだけではなく、大人と子供が話し合ったり、学校で議論するきっかけになっている、という声を頂いています。毎年40万点以上の作品が寄せられますが、一人ひとりのいじめに対する意識の高まりが応募拡大の要因ではないかと考えています」

これまでの応募作品を見てきて、感じた変化はありますか

品川 「当初はいじめを俯瞰して見ている作品が多かったと思います。最近は一人称や二人称の視点で捉えた作品が増え、辛い経験を訴えるものや加害行為を悔むものなど、血の通った言葉で書かれた作品も見られるようになりました」

林原 「応募された標語を見ると、近年はSNSといじめの関連を詠んだものなど、世相を表した作品が増えていると感じます。また学校での出来事について、教員や親に気づいてほしいと訴えるような子供の気持ちが伝わってくる作品も印象に残っています」

多様性を認めることが、いじめの問題を解消するのにつながるのではないでしょうか

林原 「近年は親が外国籍やひとり親家庭など家庭環境も複雑化しています。さらに、性自認などを含めて、多様性を尊重する流れが生まれてきました。学校や家庭が率先して、『自分とは異なる姿や考え方を受け入れられない』という考え方を変えていくことがカギとなると思います。企業では多様性を認めるということはもちろんのこと、あらゆるハラスメントに関して、ゼロ・トレランス(ゼロトレ許容しない)といって、わずかな不具合も見逃さず、問題を見つけた時はしかるべき部署に報告し、問題を放置しない体制が取られています」

品川 「いじめを予防・解決するにはゼロトレしかないと教育再生会議でも主張してきました。国もゼロトレを進めているにも関わらず、教育現場にまで降りていないのが現状です。ゼロトレを進めるためには何がいじめか定義付けることが必要です。しかし教育現場ではゼロトレが理解されない場合が多く、理解が進んでいません」

いじめを自分ごととして捉えるために何が必要でしょうか

林原 「子供たちは自分が発した言葉が人を傷つけていることに気づいていない場合が多く、いじめだと指摘されて戸惑う子供もいます。これを言われたら傷つく人がいるということを学校だけでなく、家庭でも教えることが非常に重要だと考えています。親世代の認識が時代に合ったものであるかどうかを確認する必要もあるかもしれません」

品川 「自分ごととして捉えるためには自分の言動に自覚的になる必要があり、そのためにはメタ認知や推論する力を高めることが求められます。また加害行為を抑えるセルフ・コントロール力が大事。こうした能力を育てることが、いじめを減らすことにつながります」

教員や保護者など読者へ向けたメッセージをお願いします

品川 「ここ数年で実感するのは社会そのものの寛容力が低くなっており、我慢できない人が増えていることです。標語作りをツールに、学校や家庭、地域でいじめについて考えてください」

林原 「いじめは子供だけの問題ではなく、学校や家庭、地域の問題でもあります。いじめ防止に向けて、学校として、保護者として何をすべきかを考え、子供たちとよく話し合ってほしい。そのきっかけとして、このコンテストを活用して頂ければと思います」

全国の小・中学生が対象

AIG損保が協賛する「いじめ防止標語コンテスト」は、いじめ防止標語コンテスト実行委員会とPTA団体の共催で文部科学省が後援。全国小・中学校の児童生徒を対象としており、個人・団体として「いじめ」について考えたり話し合ったことを「標語」として応募するもの。

昨年度第16回コンテストでは43万4500点余りが応募。教育関係者による予備選考を経て、文科大臣賞(2点)、全国賞(34点)などが選出された。
発表されているコンテストの審査基準は▽「いじめ防止」を目的に書かれた作品であること▽「いじめ」を他人事化せず、自分たちの問題として捉えられている作品。

http://ijime-boushi.com/

教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年8月21日号掲載

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