11月1日、大阪市内で「第81回教育委員会対象セミナー GIGAスクール構想」が開催され、大阪府内及び近郊の教育委員会と教職員が参集。校内ネットワークの改善や中学校の取組に関心があるという教育委員会や教職員が多かった。
吹田市教育委員会、神戸市教育委員会、大阪市教育委員会、尼崎市教育委員会、大阪府教育庁など、関西を中心に30団体のネットワーク構築等を支援してきたキートンコンサルティングの松浦龍基氏は、この1年で多く問合せを受けた事例とその対応案を報告した。
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1人1台端末活用を前提としたローカルブレイクアウトの相談が増えている。ベストエフォート契約の共有型回線の場合は、他ユーザの利用状況により、ネットワークが遅延するケースや、ISPプロバイダーにおいてPPPoE方式(電話回線でデータ変換して接続する方式)で接続している際にボトルネックが生じるケースなどがある。(表参照)
ネットワーク円滑化に向けた取組を紹介する。
まず、ネットワーク遅延・停止がどの範囲で発生しているのかを特定する。特定のサイトのみ、特定の端末のみ、特定の学校やクラス等、影響範囲から原因箇所を推定してから業者に依頼するとスムーズだ。
ネットワークが停止している場合はping送信(信号送信)により、各回線機器を確認。思い切って予備機等に入れ替えてみる方法もお勧めできる。
ネットワークが遅延している場合は、それぞれの接続ポイントでスピードテストサイト等を用いて測定・比較して場所を特定。原因箇所が明確になれば設計や設定を見直す、回線・機器を入れ替えたりする等具体的に対策できる。例えば無線APが原因の場合、自動設定のチャネルを手動にして周囲の電波干渉を避ける、帯域の均等割当設定を行う、ローミングの積極性の見直し(電波状況の良い無線APを常に探索して積極的に自動切換えする)といった対策であれば、現場の教職員が試すことも可能ではないか。無線APの背後(教室の壁側)にアルミホイルを設置して電波状況を改善するというDIY的な工夫も面白い。
アクセス回線が原因の場合、回線の増強と共にローカルブレイクアウトに変更する方法が最近は特に多い。インターネット回線は現時点では1Gbpsのベストフォート契約が現実的だろう。ただし回線業者により、同じ1Gbps契約でも実効通信速度等のサービスレベルが大きく異なる場合がある。理由はいくつかあり、PPPoE方式かIPoE方式か、専有回線か共有回線か、法人向け回線か個人向け回線か等。細部のサービス内容を定義する必要がある。
ネットワーク機器に遅延原因がある場合、機器のスペックを上げることが考えられる。校内ネットワーク機器が1Gbps対応であったとしてもLANケーブルがCat5であったり、無線APの最大同時接続数が不足していたりするとボトルネックとなる。なお端末のスペックに問題があった場合、全端末のスペックアップは容易でないことから、クラウド活用や常時稼働ソフトの制限・削除などが考えられる。
実際に必要となる回線帯域は、重い通信か、軽い通信か、ストリーミング通信か、ダウンロード通信か、同時利用する端末は何台か等によって変わる。
400人程度の学校における概ねの目安は次。▼160~180Mbps=ストリーミング通信(動画等の視聴)を一定程度利用可能 ▼180~213Mbps=デジタル教科書等の大容量ダウンロード通信を一定程度利用可能 ▼213~312Mbps=ストリーミングや協働学習、インターネット検索等の様々な利用形態で1人1台端末の十分な利活用が可能
数年先にはSINETを公立小中学校でも利用できる可能性が高い。SINETを利用するためには各自治体において準備が必要。まず、校内ネットワークがSINETを利用するために十分な性能であること。次に、SINETのデータセンターまでのアクセス回線の敷設だ。距離が遠いほど高コストになる。SINETデータセンター内のネットワーク接続までの機器(メディアコンバータ、ONU等)の準備とSINETへの加入申請も必要だ。
BYODの場合は、端末に特別なソフトや設定を入れる必要がないようにしておく必要がある。例えば校内のWi-Fiに接続すれば自動的にフィルタリング等のセキュリティ設定が適用されるゲートウェイ型の仕組みの導入や、各種学習用クラウドサービス内で暗号化等の必要最低限のセキュリティを担保するなどだ。小中学校においても、次回の端末更新でBYODに移行する可能性がある。それを踏まえたネットワーク整備が望ましい。【講師】キートンコンサルティング代表取締役社長・総務省地域情報化アドバイザー(教育情報化分野)松浦龍基氏
【第81回教育委員会対象セミナー・大阪:2021年11月1日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年12月6日号掲載