GIGAスクール構想に伴う1人1台の端末環境の活用をテーマに「第88回教育委員会対象セミナー」を4月2日に広島で、「第85回教育委員会対象セミナー」を3月29日に福岡で開催した。いくつかの講演内容を紹介する。なお肩書きは3月末時点。
泰山裕准教授は「GIGA端末の日常化に至るプロセス」について、これまで関わってきた学校事例を基に話した。
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学習指導要領において「学力」の意味が大きく変わった。それに伴い全国学力・学習状況調査も年々変わっており、ICTを用いた学習経験が前提となった出題が増えている。例えば中学校国語では、専門家に対するメールの返信内容について出題されていた。小学校算数では、ルート検索での速度と実際に歩く速度を比べるような出題があった。中学校ではCBTの導入も始まる。そうなると、例えば「140文字以内で記述する」という出題に回答できるだけのスキルが必要となる。PCによるテキスト入力は前提だ。
ビジネスの世界では、迅速なテキスト入力も、内容理解に基づいた的確なメールの返信も必須。これらにつながる力を、初等中等教育で取り組むことが求められている。
大学入学共通テストも同様の傾向だ。英語で示されたWebページを読み解き「Webコンテストに申し込むにはどうすれば良いか」「入賞した場合どのような評価が得られるか」等が問われ、正解を知っているか否かではない力が測定されていた。
GIGAスクール環境も同様の文脈だ。「ICTを道具として情報を上手く活用する力」「答えのない課題について探究する力」育成の前提となり、授業構造の変革に必要な「環境」として端末等が配備されている。
既に大人の世界では、1人「複数台」端末で日常を過ごしている。
学校ではどうか。理想は「ICTがあるからこそ深まる学び」である。しかし最初からここを目指すことは難しい。うまく活用している学校を見るとほぼ3段階のプロセスがあり「たくさん使う」「子供主体で使う」「深めるために使う」ことが順番に起こっている。
たくさん使うことで、教員も子供も端末で何ができるのかがわかってくる。ここで大人がコントロールしすぎないこと、子供が失敗をたくさんすること、失敗を自力解決する経験を積むことが重要だ。補助付き自転車から補助なし自転車に乗るためには失敗はつきものであり、GIGA端末も同様だ。
たくさん使ってみて慣れてくると次の段階では、学習の主導権が少しずつ子供になっていく。子供が端末を活用できるようになると、教員のコントロールを前提とした授業が変わる。例えばこれまで教員が集めて子供に提供していた情報は、そもそもどんな情報をどう集めるのかを子供が決めて情報収集するようになる。これまで教員が決めていた課題も子供が決めるようになっていく。
このような探究的な学習を自律的に行うための基盤が「情報活用能力」であり、クラウドとGIGA端末は、子供が自ら情報活用能力を発揮するための環境である。
GIGA端末活用が日常化されている千葉県の小学校では、情報収集・整理分析・まとめの各段階で子供が話し合って進め方を決めており、子供は後ろを向いて話し合い、立ち歩きながら端末を操作していた。一見、学習規律が乱れているように見えるかもしれないが、学習者主導の学びが展開されていた。
端末に慣れることそのものを主軸とする時間はどこの学校にもある。まだ活用が進んでいない学校の場合、ICT活用の意味を考え過ぎず「使わなくてもできる授業だが、なんとか使ってみた」という段階から始めることで、子供自身が端末を活用し、情報活用能力を発揮して主体的に探究する授業につながっていくはずだ。【講師】鳴門教育大学准教授・泰山裕氏
【第88回教育委員会対象セミナー・広島:2022年4月2日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年5月2日号掲載