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教育ICT

探究的な学びを広げる~経産省が研修会を全国7ブロックで開催

2023年9月5日

経済産業省は探究学習支援サービスや情報活用能力育成支援サービスに対する教職員等の理解をより一層深めることを目的に「探究・情報教育体験&研修会」を全国7ブロックで開催。8月8日は名古屋で、10日は埼玉県で開催した。当日は、経産省の行っている「探究的な学び支援補助金2023」対象サービスに採択された事業者が出展。同サービス等を使った事例を小中高等学校の教員が発表。探究的な学びを始めるための最初の一歩である事例が多く共有された。

キャリアナビゲータを常駐
「情報」の時間にギモンタイム

経済産業省の柴田仁志室長補佐(商務・サービスグループ教育産業室)は「経済産業省に教育産業室が立ち上がって5年。学びのSTEAM化や探究化により、知る学びから創る学びに移行してわくわくした学びの実現に取り組んできた。教室の中には多様な児童生徒がいる。教員の多忙化や人員不足により対応できなかったことが、様々なテクノロジー環境により技術的に可能になった。今回の研修では『探究的な学びに関するサービス等利活用促進事業』に参加している学校や事業者が事例を発表する。積極的に情報交換をしてほしい」とあいさつ。経産省が提供しているSTEAMライブラリーについても紹介。「様々な企業から動画1000本以上が提供されており、探究的な学びの入り口として活用してほしい」と話した。

名古屋会場

愛知県教育委員会高等教育課の橋本氏は「愛知県ではあいちラーニング推進事業で『主体的・対話的で深い学びの推進』をテーマに探究学習やSTEAM教育の充実を含めた授業改善を進めている(主管校12校と重点校54校を設置)。高校生にも11台端末が配備され、活用について研究中で本年12月には発表会を開催予定だ。本日の学びを活かしてほしい」とあいさつ。

キャリアナビゲータを全市立高校に常駐

名古屋市教育委員会指導部指導室の久木田隆宏主幹(高等学校担当)はあいさつと共に市の取組を説明。

NAGOYA School Innovation(ナゴヤ スクールイノベーション)事業において幼稚園から高等学校まで授業改善を推進している。その1つであるナゴヤ学びのコンパス事業では生涯にわたる力の育成のため探究活動の質向上と普及に取り組んでいる。また、キャリアサポート事業により、キャリアナビゲータを全市立高校に常駐し、進路指導の取組をより長い視点でとらえたキャリア教育を進めている。外部人材であるキャリアナビゲータが面談や講演等の企画も担うと共に、総合的な学習や探究的な学びにもキャリア教育の視点で授業を行っている。扱うテーマは多岐にわたっており、なくてはならない存在になっている。モデル校で進めていた市立中学校については今年度中に65%の中学校に常駐を進める予定。

高等学校で必修化した「情報Ⅰ」については教員スキルのアップグレードを常に図るため、名古屋市立大学との連携協定により助言を得、バージョンアップを図っている。

全校にオンラインでキャリア教育
多治見市教育研究所 久野智治所長

多治見市教育委員会(小学校13校・中学校8)では全校が学校情報化優良校の認定を受けている。多治見市教育研究所・久野智治所長は探究的な学び事業者であり地元企業である「ブルーベリー」と連携した取組を報告した。

……◇……

本市の子供たちは、2021年度の実証によると「将来の夢がある」率が全国平均と比べて低いこともあり、様々な社会人の話を聞いたり直接やりとりすることを通して夢を持つことにつながると考え、実証事業としてオンラインキャリア教育の「GIGAプログラム」「オンラインイベント」に取り組んだ。「GIGAプログラム」では様々な職業に就いている2030代の先輩の動画を視聴できる。「オンラインイベント」は、リアルタイムかつ遠隔で複数の社会人と教室からやりとりするものだ。

本取組で子供たちは、現役アナウンサーに「なぜアナウンサーを目指したのか」、理学療法士に「どうすれば理学療法士になれるのか、仕事をしていて不安なことはあるか」など、進路につながる質問をしていた。社会人からの心がこもった言葉は子供の心に残ったようだ。

社会人講師のコーディネート等は学校にとって負担感があるものだが、本プログラムは教員の負担感が少なく、かつ子供たちはキャリアや働くことについての考えを深め気付きを得る経験ができた。

教員の事後アンケートによると満足度は高く企業連携が有効であると考えている割合が多かった。本実証の成果を踏まえ2023年度の基本計画にキャリア教育推進を織り込み、オンラインキャリア教育を全校で実施している。

1からアプリ開発町のLINEで発信
豊田市立浄水小学校 二村文康教諭

二村教諭は、小学生がアプリ開発により学校地域社会のアップデートを目指す取組について報告。利用したのは「springin’  Classroom(スプリンギンクラスルーム)(しくみデザイン)だ。

……◇……

総合的な学習の時間には、指導書やセオリーがなく教材研究のための時間確保も難しい。いつでもどこでも何度でも取り組める教材がほしいと考えていた。

スプリンギンクラスルームは、自分で描いた絵を動かしたり音をつけたりして作品を制作できるプログラミングツール。文字を使用しなくてもプログラミングできるので1年生から利用できる。

本校では防災教育の一環で防災クイズアプリを制作した。導入では卒業生のアプリを体験。また、防災カードゲームで防災についての知見を深め、愛知工業大学の協力により地域の防災に関する課題を調べ、情報を整理。デジタルノートを使って共有して制作に臨んだ。児童は、何度もフィードバックをもらいながらブラッシュアップし、町のLINEで発信。地域連携にもつながった。

ギモンタイム設定で「深い学び」を評価
三重県立名張青峰高等学校情報科 向山明佳教諭

8年前に設置された三重県立名張青峰高等学校には2つの普通科「文理探究コース」「未来創造コース」があり、ICT環境を基盤にグローバル教育、探究活動に積極的に取り組んでいる。同校情報科の向山教諭は「お勧めナンバー1」の取組として「学びに向かう力」の評価について報告した。

……◇……

評価の3観点として「知識・技能」「思考力・判断力・表現」「主体的に学習に取り組む態度」がある。この「主体的に学習に取り組む態度」の評価を定量化できないかと考えた。

探究する力を鍛えるためには「疑問を持つこと」がポイントになる。そこで「情報」の授業において授業の最後に「ギモンタイム――この授業で生まれたギモンを入力する時間」を設置。ギモンはGoogleフォームに5つまで入力することができる。

次の時間の最初に、皆のギモンから3つ取り上げて学習やふり返りにつなげている。

また、生徒のギモンをスプレッドシートで一覧化して3段階で評価点を入力し、その蓄積から「学びに向かう力」の評価の参考としている。生徒にもみんなのギモンについての累計評価をランキングにして戻したところ、やる気につながっていた。ランキングトップの生徒には「ギモンのポイント」についてプレゼンさせたところ、生徒の反応も良かったことから、現在は学期に1度戻している。

ギモンの評価点と学力の相関関係はあるが、ギモン評価点のみ高い生徒もおり、支援の必要に気付くことができる。

ギモンタイムの取組を「お勧めナンバー1」とした理由は、「ギモンを持つ練習は未来を生きる力につながる」と考えるからだ。

毎時間、ギモンを考えながら授業を受けるようになり、授業への集中力も高まる。

また、自己肯定感も高まる。自分のギモンを取り上げられたり、点数が高いとうれしいという気持ちにもなる。

生徒のギモンは、教員にとって授業改善にも役立ち、様々な教科に取り入れることができる。

ギモンタイムについて生徒にアンケートをしたところ、半数以上の生徒が「ギモンタイムができてから授業が楽しくなった」と感じている。

探究プログラム導入 きっかけに授業改善
麗澤瑞浪中学校高等学校 松本兼太朗教頭

麗澤瑞浪中学校高等学校(岐阜県)では「探究・キャリア教育」により「予測不可能を楽しむ」感性を磨くことを目指している。キャンパスはナゴヤドーム約60個分、体育館もグラウンドも3つ、テニスコートは8面、ゴルフ場もあるなど広大で生徒の半数が寮生。報告は松本教頭。

……◇……

本校は素直な生徒が多いものの同調性が高く、未知なる体験や空間に飛び出すエネルギーに欠ける面があると感じていた。そこで社会と接点を積極的に持つことができる探究活動とするため、体験探究型プログラム「MIETAN(ミエタン)」を導入している。

中学校1年生では「自分の好き」を探究したすごろく作りに取り組み、自分の好きなことと地域の魅力を結び付けたガチャガチャの商品化と販売を通してアイデアの発想術を鍛えた。このほか学校のテーマソング作りや1級建築士である外部講師による授業、社会課題の解決をテーマにした他校生との協働学習、地元のビール工房の麦芽かすを使ったお菓子の作成や販売企画、ブルーベリーなど地元の特産品のレシピづくり・発信などに取り組んでいる。

すると学校に様々な変化が起こった。まず、教員の意識が変わり、教員の趣味や特技を生かした探究講座の開講が始まった。生徒は希望制で参加している。今年度は12講座で様々な学びに取り組んでいる。

生徒の外部コンテストの出場も増えた。

生徒の変容については、学びみらいPASS(河合塾)で計測・分析している。

探究プログラムの外部委託は、保護者や教員以外の大人との接点の創出、組織のメタ認知化、教員が本業に専念できるなど様々なメリットがあった。

外部企業連携はあくまできっかけであり、そこから授業改善を始めることが重要である。

探究プログラムを教員も体験
愛知県立東海樟風高等学校 西尾明教諭

西尾教諭は公立高校における民間企業探究プログラムについて報告した。同校では探究学習プログラム「クエストエデュケーション」のプログラムの1つ企業探究コース「コーポレートアクセス」に取り組んでいる。

……◇……

「コーポレートアクセス」は、様々な企業の協力によりインターンを通して「働く」ことについて探究するプログラム(1年間全24)だ。本プログラムの実施は生徒の「働く」ことに関する価値観に影響を与えた。

「コーポレートアクセス」を知ったのは10年以上前だが、本校が2022年度から愛知県立東海樟風高等学校として生まれ変わった際に本格的に導入。愛知県初の総合情報科を設置して探究学習や体験的な学習に多く取り組んでいる。

2023年度から始まった新たなプログラム「Question X(クエスチョン・エックス)」は、生徒が自ら問いをつくり問いを持って生きる面白さを体感するもの。この取組を通して生徒はどんどん発信できるようになっていった。本プログラムは「○○はなぜ美しいのか」「○○が増えれば増えるほど増えるものは」等の質問をきっかけに自分の考えやイメージを拡げ、問を立てる力につなげていくものだ。

校内では「授業プログラムを購入すること」について教員の中に疑問の声もあった。そこで探究プログラムを教員自身が体験したところ、反対した教員ほど面白がって熱中していた。

新たな挑戦のため様々な助成金を利用して有料プログラムを検証している。

埼玉県・大宮会場

さいたま市教育委員会 山本順二副理事

さいたま市では2020年度より「さいたまSTEAMS教育」として、STEAMとスポーツ分野を掛け合わせた教育活動に取り組んでおり、2022年度に市内全校で発表している。

また、「STEAMSTIME」を設け、STEMに関する教科の内容とそれ以外の教科の内容を組み合わせた教科横断型の探究的な学習に取り組んでいる。中学校3年間でPBL学習に9時間、小学校36年生ではPBL学習に6時間+プログラミング的思考を育む3時間を設定。導入しているのはEdTech教材「ライフイズテックレッスン」。

高校生の進路指導 DXで情報量を増やす
埼玉県教育局 高校教育指導課 上田祥子進路指導主事

上田氏は昨年まで勤務していた埼玉県立川越初雁高等学校のDX化の取組について報告した。

……◇……

川越初雁高校では総合的な学習と進路を担当。高等学校の進路担当は、高校生の会社見学日程の調整や求人票のファイリングとExcelデータへの入力など紙をデジタル化して印刷する業務が多い。膨大な時間をかけてまとめた紙資料は検索しにくく生徒にとっては扱いにくいもので、求人が2000件届いても生徒が入手できる情報は数社に過ぎず、掲載できる情報も限られている。その中から就職したものの生徒の満足度は低いという状態であった。

そこでこの仕組みのDX化を図るため、高校生向け求人票管理システム「Handy(ハンディ)進路指導室」を企業と共同開発し導入した。ハンディ進路指導室はリリース後約半年で300校に、現在は全国700校に導入されていると聞いている。

ハンディ進路指導室により、8割の作業を勤務時間内に終えることができるようになった。教員はOCR技術で手作業によるデータの整理と入力から解放され、迅速に情報開示ができる。

生徒は自分のスマートフォンや端末等で複数社の情報に容易にアクセスできる。リンクも掲載しておりすぐに参照できるので求人票以外の情報を入手しやすくなった。

アンケートによると教員の満足度は96%。生徒の満足度も9割を超え、大きな改革になった。

探究活動にもつながっている。Handyを使った求人票ピッチトークでは高校生が「自分で見つけた推し企業」をプレゼンして評価し合う活動も行った。

新しい仕組み導入のため、内部調整には配慮した。学校全体で動くためには物語とビジョンの共有がポイントになる。「出る杭」にならないように「高校生の就職活動を民主的にしたい、自ら選ぶ力をつけたい」と教員の目線合わせを図った。

今年度は指導主事として、学際的な学び「新SAITAMAプロジェクト」に取り組んでいる。

豊富な選択科目で自立した学びへ
長野県立軽井沢高等学校 小山田佳代校長

町内唯一の公立校である軽井沢高等学校の小山田校長は全日制・普通科の単位制高校で自分で自分の学びをデザインする取組について報告。同校は次年度から全学年で単位制になる。

……◇……

2022年度の1年生から単位制に移行。1学年80人の小規模校で探究的な学びと地域と関わる学びを重視しており、町内唯一の公立校として町から多くの支援を得ている。

キーワードは自立。学びを選択することから自立を目指している。

かつてはコース制や選択制も行っていたが学年などの枠があると受け身な面も生じる。もっと主体的に選択できる柔軟性あるカリキュラムにしたいと考えて学年の枠を超えた単位制を導入。74単位で卒業でき、23年生は、自分の興味関心や進路に合わせ、理系科目で週10コマ、音楽関連で週10コマ、体育関連で週10コマ選択できるなど選択科目を豊富に設置。選択科目はガイダンスや個別相談で決め、空き時間も自分で自由に設定できる。

地域素材を生かした探究的な学びも充実。「未来」2単位は1年次に全員履修。主に自己理解を深める内容だ。「未来探究」6単位は1時間3日間+連続した3時間で校外学習も可能にした。

3年次に選択できる学校設定科目「デュアル」は企業で実践的な学びを進めるもの。7単位で実習を16日間設定。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年9月4日号掲載

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