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教育ICT

効果的かどうかは子供が判断 学びの「谷間」を乗り越えて次に進む<鳴門教育大学・泰山裕准教授>

2024年5月6日
第109回教育委員会対象セミナー・広島

3月28日、広島市内で第109回教育委員会対象セミナーを開催。泰山裕准教授・鳴門教育大学はNEXTGIGAのポイントを解説。東広島市教育委員会はGIGA推進の取組、廿日市市立宮園小学校は自由進度学習、広島市立牛田中学校と江田島市立大古小学校はリーディングDXの取組を報告した。なお、所属等は3月末時点。


鳴門教育大学 准教授 泰山裕氏

思考力育成について,情報教育や探究学習,学習環境デザインの視点から研究している泰山准教授は、NEXTGIGAにおける授業のポイントについて話した(4月より中京大学に所属)。

…◇…◇…

これまであり得なかった学習環境が実現したファーストGIGAは、試行錯誤の時期であった。その中からうまくいった事例が報告されており、セカンドGIGAの方向性が見えてきている。

まず、これまでの授業方法を前提とした「効果的な使い方」ではなく、授業のあり方そのものを変え、積極的に活用した学校が好事例を示している。

個別最適な学びや自由進度学習などに従来から取り組んできた学校では、GIGA環境によりそれらの取組がさらに進化しているようだ。

端末の活用においても、教員の役割は変わる。

これまでは、教員が「効果的な使い方」を考えてきた。これを、効果的か否かも含めて子供自身が選択できるようにし、教員の役割は子供の判断を促すことになった。

情報収集や交流の主体を子供に渡し、自分にあった方法で学ぶために端末やクラウド環境を使っている学校が成功している。これを継続していくことで子供の学びに向かう力が育まれている。

■学力の定義は既に変わっている

「本当に学力がつくのか」と指摘されること恐れて、このような端末活用に躊躇する例は多い。

しかし学力の定義は既に変わっている。

現行の学習指導要領でも「コンテンツ」から「コンピテンシー」がより重視されており「教員がいなくても学び続ける力」即ち「学びに向かう力」が学力の重要な要素となっている。

端末の翻訳機能は飛躍的に進化しており、地図も計算機も自在に使える時代、英単語や九九、県庁所在地の暗記が最重要なことと考えるのは危険である。

■新たな学びに進化させるポイント

このような学びに移行する過程で理解しておきたいポイントを挙げる。

まず端末は、自律的に探究できる子供を育成するために利用することが目的である。一方で未だに、「教員が課題を決めて、情報を与え、教員が子供の言葉を整理して、まとめる」という授業になることがある。

これは「探究的に学んでいるが主体は教員」である段階である。学習のモデルを示すために意図的に行っている場合は良いが、いつまでも教員が主体になっているままではいけない。そのままでは、子供自身が課題を発見し、解決する力を育むことにはつながらないだろう。

次に、このような学びに成功している学校も、一足飛びに成功しているわけではなく段階がある。

教員に教えてもらうことが当然であると考えていた子供がすぐにすべて1人でできるようにはならない。まずは「課題設定」「情報収集」「整理・分析」「まとめ・表現」のいずれかを子供に委ね、少しずつ委ねる範囲を増やしていく段階は必須である。

子供に学習の主導権を委ね、鍛えていく段階では、教員が教えていた授業と比べて、教科の学びを深めるための時間がかかったり浅くなったりということが起こる。そうすると、子供に委ねたのにも関わらず、教員があせって答えを言ってしまうことがある。

しかし、そのような経験が重なれば、「自分でやらなくてもあとで先生が正しい答えを教えてくれる」という学びに繋がってしまう。

教科の学びの深まりに直結しないような、この「谷間」を乗り越え、子供がそれぞれの方法を身に付けると、教員は「教科の学びの深まり」を考えた指導ができるようになる。

■授業の変化は板書に現れる

授業の変化は板書に現れると感じている。1年間で授業が大きく変わった学校では、当初の板書は「学んだ内容を教員が構造的に整理した」ものであり、子供はそれを自分のノートに写す必要があった。

学び方が変わると、板書には「課題」「進め方」「注意点」など、学びの進め方が記載されるようになり、「何を学んだか」の板書から「どう学ぶか」の板書に変わっていく。

これまでの教材研究は「この教材を子供にどう理解させるか」の検討が中心であったが、これからは「学び方を自ら身に付けてこの教材の目的を達成するためにどのように学ばせるのか」を検討することになるだろう。

■「不易と流行」本来の意味とは

令和の日本型学校教育では「納得解を見出す学び」の構築が求められている。

(独)労働政策研究・研修機構の研究によると「2050年で最も求められるスキル」は「問題発見力」であり、的確な予測、革新性が続いている。

ビジネスの世界では社会変革についていけないこと即ち「変われないこと」が最大のリスクであり、アンラーンやリスキニングなどの「学び続ける力」が求められているところだ。これから育成すべきスキルは「何が問題なのか」を発見し、どう対処すべきかを判断する力であり、2015年当時に求められていた上位3つのスキル(ミスがないこと、責任感、誠実さ等)と大きく異なっている。

「不易と流行」という言葉がある。1人1台端末を単なる「流行」と否定的に捉える意味で使う例を見るが、本来の意味である「本質の中にも、新しい変化を取り入れること」であることを再確認したい。

【第109回教育委員会対象セミナー・広島:2024年3月28日 】

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年5月6日号掲載

  1. 鳴門教育大学 准教授 泰山裕氏
  2. 東広島市教育委員会 指導課情報教育推進室 室長補佐兼指導主事 徳満謙三氏
  3. 廿日市市立宮園小学校 教諭 川口竜彦氏
  4. 広島市立牛田中学校 校長 長谷川洋氏
  5. 江田島市立大古小学校 教諭 小宇根将浩氏
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