高倉氏は「格闘系司書」として全国の公共図書館や学校図書館などを訪問し、アナログ・デジタルゲームを活用した読書推進について、様々な企画に取り組むほか、研修会の講師なども務めている。学校のゲームの導入と利用の実際について聞いた。
-図書館でゲームを導入したきっかけを教えて下さい。

日本図書館協会認定司書 高倉暁大氏
高倉 当時勤務していた公共図書館で、中高生が来館したくなる仕掛けにしたい、と長く企画を温めていました。
アメリカの公共図書館で2008年11月15日に「図書館でゲームをする日」が開催され、同日に、日本でも山梨県の山中湖情報創造館で同イベントが開催されました。
そうした前例に背中を押され、図書館でゲームを導入し、共著で本を出版したり、「図書館総合展」に出展したり、公共図書館などでイベントを開催しています。楽しんだり興味を持つ人が増え、徐々に広がっていきました。
-学校図書館ではいかがですか。
高倉 7月にも京都市にある東山中学・高等学校に招かれました。1年ほど前から「カタン」「ブロックス」といったボードゲームを普段から楽しんでいるほか、TRPG(※1)も定期的に実施しているそうです。また大阪府の清教学園中・高等学校では、2024年のクリスマスイベントとしてゲームイベントを開催し、今年の1月からゲームの貸出を始めたそうです。特に高校での導入が進んでいる印象です。
-学校の教職員向けの研修会はどのような内容ですか。
高倉 先生方は実際にゲームを体験する機会があまりないと思うので、必ず体験を入れます。対象になる年齢などによってゲームそのものは変わりますが、①数字を使ったもの(例:「ノイ(neu)」)、②色を使ったもの(例:「ペンギンパーティ」)、③コミュニケーション系(例:「犯人は踊る」)、④手を使うもの(例:「スティッキー」)といった、4つのタイプのものを体験してもらいます。
研修会で必ず質問として挙がる課題の一つ目は「騒音」についてです。ゲームで盛り上がればどうしても賑やかになります。公共図書館はスペースのゾーニングで解決できますが、学校では難しい。そこで提案として、まず時間や曜日でゾーニングすることをお伝えしています。例えば木曜日の放課後はゲームの日とする、などです。
それからゲームを生徒に渡す際に「周りの友達にも気をつかってね」と声をかけることも有効です。勉強したり静かに読書をしている生徒の傍ではゲームをしない、といった気遣いを促すことが大切です。
課題の二つ目は、ゲームを選ぶための情報が少ないことです。これについてはゲームのリストを公開するなどしています(下記参照)。
そして最初に揃えるゲームとしては、研修会で紹介したような、様々なタイプのゲームを用意することをお勧めしています。ゲームも本と同じで、児童生徒それぞれに、合う合わないがありますから。1回15分~20分以内で遊べて、1時間程度のイベントを開催する場合に一通り体験できる、といったラインナップが最適です。
課題の三つ目は、教職員が自費でゲームを用意することが多い点です。今後は予算面での取組も必要です。
-実際には最初はどんな形で取り組んだら良いでしょう。
高倉 いきなりイベントを開催したり、ボードゲームの貸出を始めるというより、最初はゲームと関連の本を合わせて展示してみると良いでしょう。そして評判が良ければ貸出をしてみる。またはビブリオバトルや読書会の後に“お試し”といった形でゲームを取り入れてみる。上手く盛り上がらなかったとしてもがっかりしなくて済みます。
それぞれが本を持ち寄って遊ぶようなパーティーゲームとして「みんなで本を持ち寄って」「こじつけレファレンサー」などの本を使ったゲームは読書推進として分かりやすく、学校内の企画としても通りやすいと思います。
-ゲームを導入した学校の反響は。
高倉 実際に導入した多くの学校で言われるのは「学校や学年を越えた程良いコミュニティができる」「(中高生の)1年生から3年生までがゆるくつながる」といったことです。クラスでも部活でもない、自由なつながりです。読書推進としてももちろん良い効果がありますが、そうしたつながりが生まれたことが学校図書館でゲームを取り入れた一番良い点、という声さえあります。
本は一人で読み、後から誰かとその感想を共有するといったつながり方をします。一方でゲームは一緒に遊び、後で「あのゲームをやって面白かった」と感じる。いずれも人とつながることで、人生が豊かになるのではないでしょうか。
※1「TRPG」…テーブルトーク・ロールプレイングゲーム。「ルールブック」と呼ばれる本を使い、複数のプレイヤーで遊ぶ。「クトゥルフ神話TRPG」など
【ゲーム関連情報】
▽「図書館でゲーム@ウィキ」…ゲーミング図書館ネットワークが提供する、図書館で扱うゲームのリストと解説。「幅広い年齢向け企画用」「小学3年生~6年生向け企画用」「学校図書館に導入するのにハードルが低いゲーム」等、導入シーンごとに紹介している。
https://w.atwiki.jp/librarygamelist/
【ゲームの購入】
▽日販のボードゲームのカタログ…『ゲームのひろば』
▽TRC…ゲーム取扱い
https://www.trc.co.jp/information/191115_boardgame.html
▽「すごろくや」…ゲームの専門店。実店舗(東京 神保町/吉祥寺)とオンラインショップも
▽その他、玩具店、玩具売場のある家電量販店など。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年9月15日号掲載
-公共図書館ならではの取組や、学校図書館の実際を高倉氏に伺いました―
公共図書館では小学生向け、学校図書館では中高生でゲームが導入されている、という点でしょうか。私自身は、学校では中学校、高校に講師として招かれることも多いです。
なお公共図書館の催しは「おはなし会」など未就学児~小学校低学年向けのものが多いこともあるためか、ゲームの企画も小学生が集まるものが多いようです。
当初の中高生の来館のきっかけに、という点についてはまだ課題かもしれません。ただ、公共図書館が地域のハブになるという意味では、幅広い年齢を対象にゲームが役立っているようです。
デジタルゲームと読書推進
今後、力を入れていきたいことは、公共図書館が中心になるとは思いますが、デジタルゲームの導入です。デジタルゲームと本も実は親和性が高いのです。
戦国時代をモチーフにしたデジタルゲームはよく知られています。ゲームから歴史に興味を持った方も多いのではないでしょうか。
本がゲームになった最近の例では『元素楽章 擬人化でわかる元素の世界』(揚げ鶏々/著・イラスト 化学同人)が挙げられます。
東京書籍の中学校2年の教科書『新編 新しい科学2』でも紹介されている書籍であり、デジタルゲームになりました。元素が擬人化されたキャラクターたちによるストーリーを楽しみながら元素の特徴を知ることができ、複雑な操作がないので普段デジタルゲームで遊ばない人にも入りやすいつくりになっています。
デジタルゲームの導入も、まずはゲームの紹介と関連書籍を並べたコーナーづくりから始めてみてはいかがでしょう。