灘中学校・高等学校(兵庫県神戸市)と雲雀丘学園中学校・高等学校(兵庫県宝塚市)の高校生24人は、アストラゼネカと(一社)みどりのドクターズの共催により、探究型授業「未来探究」気候と健康を見つめるプログラムを実施。約4か月にわたる探究活動を経て、2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博)の英国パビリオンで9月16日(火)、未来に向けた提言を世界に向けて発信した。
近年、気候変動は異常気象や自然災害に加え、熱中症や感染症の拡大など、私たちの健康にも直結する重大な課題となっており、世界経済フォーラムでは2050年までに気候変動の影響でさらに1450万人が亡くなる可能性が指摘されている。一方、日本の若年層の気候変動による将来の不安感は、諸外国と比べて低く、将来の気候変動による影響についても楽観的な見通しを持っていることが報告されている。
今回、気候変動と健康をテーマにした探究型授業に参加した生徒たちは「万博という世界に発信できる場において、自分たちの研究を発表できたことは本当に貴重な経験になりました。日本における気候変動への取組は十分ではなく、一人ひとりが気候変動の課題を解決していこうと意識していくことの大切さを今回の探究型授業で学びました」と語り、「将来、この課題を解決する技術を生み出す、もしくはその技術を実装するための施策にかかわる仕事に携わってみたいと思いました」と意気込みを述べた。
医療従事者の立場から、この課題に取り組んできた、みどりのドクターズの代表理事である佐々木隆史氏は「気候変動は健康に直結する問題であり、未来を担う高校生こそが自分ごととして主体的に学び、考え、行動に結びつけることが重要。今回の探究型プログラムは私たち大人の彼らに対する期待を形にしたものです」と語る。
アストラゼネカ代表取締役社長の堀井貴史氏は「アストラゼネカは医療用医薬品の開発をはじめとする事業活動を通じて、すべての人々の健康を守ることを使命としています。このたび、アストラゼネカは製薬企業としての役割に加え、未来を担う世代への教育にも取り組むことで、人・社会・地球にとって公平で健康的な未来の実現に寄与してまいります」と語った。
<発表内容>
【灘高等学校Aチーム:消費行動動で命を救う】
気温上昇と熱中症死亡者増加の分析から、特に中小企業の環境対策の遅れに着目。環境貢献の金銭価値化と適切な情報の不足が本質的な問題と捉え、“環境貢献を価値に変える”というコンセプトのもと、企業や消費者の新たな行動を促す設計を構築。CO₂軽減による救える命の数値化指標や環境貢献度の価値化、補助金充実など、参入促進策を提案。企業・消費者が環境対策を「価値」と捉える社会の実現へ向け、制度設計強化と指標普及が今後の課題だが、具体的支援策や指標活用例の検討で実効性が高まると分析した。
【灘高等学校Bチーム:海洋レジリエントシティ構想〜もうひとつの⼆酸化炭素問題〜】
CO₂増加に伴う海洋酸性化が生態系や漁業、創薬、栄養に及ぼす影響を分析。サンゴ礁減少や魚の栄養価低下による健康被害を試算し、特に創薬資源の損失や栄養価低下によるがん患者数増加の懸念に言及。緩和策として海藻バイオプラスチック促進、市民参加型の藻場植え付け・炭素測定の提案、加えて適応策として貝殻回収豆乳、陸上養殖、サイバービルの併用で地域実情に応じた施策導入を提案。「海洋レジリエントシティ」構想を示し、海の健全性と人々の健康が直結する社会実現を描いた。
【灘高等学校Cチーム:気候変動と健康〜アパレル産業の調査から〜】
一定期間に着用した服の割合調査から、衣類廃棄が国内航空産業を超えるCO₂排出の現状を知る。廃棄の深刻さに、「クローゼットに眠る服の多さ」という身近な問題から、環境負荷を数値化する「エコスコア」などの見える化で、消費者意識の変容を促す仕組みを提案。加えて、服のシェアスペースの常設を提案し、利用記録をCO₂削減量とリンクさせることで、 個々の環境貢献を実感できる仕組みの重要性に言及。さらに、家電や日用品などへの応用可能性も示し、実生活に根ざした仕組みづくりが社会全体の持続可能性に寄与する提言となった。
【灘高等学校Dチーム:アパレル業界における、持続可能な循環型社会の構築に向けて】
アパレル業界のリサイクル率は16%にとどまり、回収率が10%上昇すると約63万トンのCO₂削減が可能と試算。家庭からの回収量が少ない理由は、情報不足や素材割合の多様性による分別の難しさ、回収場所の少なさにある。ペットボトル同様に衣服を分別する社会の実現を目指し、リサイクル率向上策として新リサイクルボックスのコンビニ設置やポリエステル製品からの回収拡大を提案。炭素税や法整備、補助金制度の強化でリサイクル品の経済的不利を克服し、環境・価格・労働の三位一体で改善を目指す持続可能な仕組みを提案。
【雲雀丘学園Bチーム:ブルーカーボンで解決する気候変動と健康被害】
気候変動による水質悪化が健康や経済に及ぼす影響を分析し、赤潮による漁業被害や健康被害への対応策を模索。アマモなど九種類の水生植物によるCO₂吸収シミュレーションを実施し、特にアマモの持続的な吸収力に着目した。ミクロ提案としてアマモ水槽を活用したワークショップによる家庭・地域への環境意識の普及を目指した。マクロ提案として、自治体単位でブルーカーボン特区の設置を提案し、ブルーカーボンクレジット制度や政策提言にも言及。これにより、地域振興と環境回復の両立を目指し、地域社会全体で温室効果ガスの削減に寄与する体制構築を描いた。