コロナ禍を機会に指導の在り方を改善
-コロナ禍以降、学校運営に変化はありましたか

㈻服部学園 服部栄養専門学校
理事長・校長 服部吉彦氏
コロナ禍を経験してからオンラインによる学習が加速したことが教育のあり方を見つめ直すきっかけとなり、良いところは残して問題点などの改善を図りました。学生への教育の質を見直し、教職員の指導をあり方を再確認しました。
以前から授業内容の観察評価を行っていましたが、改めて16のチェック項目による4段階の観察評価を始めました。今年4月からは座学の授業評価に取りかかりました。チェック項目は「学生の視点で解説しているか」「職場で役立つ内容か」などで、学内で組織した審査員が授業内容を評価します。今後は実習の評価も行う予定です。
-実習などでも工夫されたことはありますか
近年では野菜の価格が著しく高騰しています。コロナ期間中、私は首都圏の農家を訪問し、畑の片隅に山積みされている野菜を見かけました。形や大きさが規格外で流通に乗せられないが味や安全性の問題はないということなので、安い価格で購入し実習に活用しています。
教員にとっては、年間で計画していた実習をその都度見直す必要がありますが、変更には前向きに取り組んでいます。気候の影響等も含めた旬の食材を使うことができ、学生には学びになっています
-学校や授業は今後どのように変わるのでしょうか
変化する社会に対して、しなやかに対応できる人材の育成が学校には求められます。当校では栄養士と調理師の教育を同一施設内で行っています。栄養学の知識を持った調理人、調理ができる栄養士を育てることができ、これからの時代にマッチした、主体的で柔軟な対応ができる人材を育成していきます。
卒業生のネットワークこそ強み
-卒業後の進路も学校がサポートしているのでしょうか
これまで当校では4万人以上の卒業生を送り出してきました。卒業時の就職率は100%です。しかし料理業界には多いのですが、社会に出て数年後に転職を考える人もいます。このため卒業生に向けても情報を発信し転職先を紹介しています。
採用する側も当校が紹介する人が求める人材に適合しているか不安を抱えています。そうしたニーズに対して、卒業生が積み上げたキャリアを指標化するなどの工夫をして、ベストマッチングが叶うようにしています。
ホテルや料理店など、さまざまなところで卒業生が活躍しており、愛校心を持って協力してくれるのを本当にありがたく思います。この卒業生のネットワークは本校の強みでもあります。
技能を糧としての活かし方を教える場
-これから進路を考える高校生に伝えたいことはありますか
インターネットやSNSから調理の知識は身につきますが、それだけでは理解したことにつながりません。「トマトのリコピンが体に良い」という知識がついても「どうすれば効率良く摂取できるのか」までは分かりません。食の世界に興味を感じたら、それを専門学校で学ぶきっかけにしてもらえればと思います。
入学後、思った通り学んでいけるのかと不安を持つ人も少なくないでしょう。料理という技術を自分の糧として、どのように活かすのかを教えるのは当校の役割です。
-食育については、どのような方針で取り組んでいきますか
先代は食育の普及に取り組んできました。人の目を見てあいさつする学生が減っていることに気づいたことがきっかけです。「人と話すと緊張する」「コミュニケーションが苦手」などが理由でしたが、その背景は、核家族化のため大勢で食卓を囲む機会が減ったことだと考えていました。それまで祖父母などからマナーを注意され、旬の食材について交わしていた会話も無くなりました。そこで、当校では教職員が率先して挨拶することを心がけ、家庭で失われた習慣を取り戻すようにしています。
学校・担任の先生は、生徒の食に関する思いを伸ばしてあげたいと思ったら、学校見学に実際に足を運ぶよう勧めてください。当校が単に料理を作る場所でなく、多面的に社会を捉えて、生徒の能力を活かす機会を提供する場だと理解いただけると思います。食の世界で活躍する人を一人でも多く送り出すために門戸を開いています。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年11月17日号掲載