奈良県ではほぼ9割の自治体がタブレットPCを共同で調達。研修も始まっており、早い自治体では7月から納品がスタートしている。共同調達のメリットと今後の予定について小崎氏が報告した。
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教育長や行政職からメンバーを集めた奈良県域GIGAスクール構想推進協議会を設置して、共同調達を進めた。
奈良県では共同調達の意思表明から計画、公告の内容まですべてWebに情報を公開している。これは県内外の多くの関係者に県としての計画を示して理解を促すためだ。住んでいる地域や学校規模に関わらず、すべての子供に最新の環境を整える、というのが調達のコンセプトだ。給食のように、新鮮かつ安心で安全で質の高い環境をイメージしている。
重要なことは、大人が放っておいても、子供が自分で学べるようになることではないかと考えている。良識ある活用を前提に、PCは学習で活用するだけでなく、遊びも含めた様々なことに活用してよいとしている。持ち帰りにも対応して個人管理で運用。充電保管庫は、すべてのPCの台数分を用意しないという選択肢もある。
ある保護者から「次年度以降、学校に入学した場合、PCは先輩が使った『お古』なのか」という質問も届いた。学校施設として共有されるものであるから、もちろんそうであるが、「そうであるなら数万円程度であれば新品を持たせたい」という保護者もいる。それも可能にしたい。5~6年後の更新時には、PCは「なくてはならない文房具」となり「インフラ化」していることを想定しており、BYOD化を見据えた上での判断だ。
3OSについては、48項目をピックアップして機能を比較した表を提供。96%がChromebookを選択した。
奈良県では、県域で同一ドメイン「@e-net.nana.jp」をすべての教員と児童生徒が持っている。アカウントは、単に個人情報の保護やセキュリティの担保のために必要なログイン手続きではなく、「毎日利用することでみんなが慣れていく」ことを前提に、子供たちの1年後、教員の少し先の未来を見据えた発想で、同一ドメインでのアカウント利用に踏み切った。授業の様子の動画でも、ワークシートでも、情報はすぐに、必要な教員に、その場で共有することができる。また、どんな授業を受けてどんな課題を提出したのかが、子供自身がいつでも見ることができる。進級処理も不要でクラス替えにも対応する予定だ。
現在は県内小中高等学校のみだが、幼稚園や国公立大学、私立学校も含めた同一ドメインでやりとりできる仕組みについて検討を始めている。そうなれば奈良県全体で、学びの連続性を担保できる。
自分のアカウントに愛着がわくように、IDには児童生徒の姓名の一部を組み込んだ。匿名性を大事して数字の羅列とする自治体もあるかもしれないが、IDに自分の名前が入っているほうが、いたずら心が起こりにくいという検証結果を得たからだ。
パスワードは低学年であっても必ず個人設定とする。管理者がリセットすることはできるが、自分の情報を自分で管理する、という意識を育むことも大切だと考えている。
低学年であればスマートフォンやiPadの方が良いのではないか、という意見はあった。そこで実証実験として、5~7歳の児童209名に5日間ずつ、iPadとChromebookを貸し出し、保護者にその様子を動画等で報告してもらった。子供の様子に保護者は喜び、「初めてのログイン」「初めてのScratch」などのタイトルで様々な動画が届いた。
パスワードについて「忘れたら困るもの」「誰にも教えてはいけないもの」と説明すると、自分なりの数字をきちんと決めて、親にも見られないように入力。2日目からは、音声による検索や入力が始まった。
Scratchも、保護者のサポートは必要だったが、取り組んでいた。使えば使うほど、画面が大きい方に人気が集まるということもわかった。今回の実験では、Chromebookの方が、明らかに画面が大きかった。アルファベットの小文字の「a」や漢字に苦労することなどもわかった。
次年度は大型提示環境の整備と、学校インターネットを調達する。これも県域で進める予定だ。【講師】奈良県教育委員会・県立教育研究所主幹・小崎誠二氏
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教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年9月7日号掲載