東京大学松尾・岩澤研究室では、AI人材の早期育成と社会実装を目指す公開講座などを幅広い層に無料で提供している。本講座の夏期プログラムである東京大学グローバル消費インテリジェンス講座「GCI2025Summer」の修了式が9月21日、東京大学構内で開催された。修了生には大学生や院生のほか、高校生や中学生もいる。
GCI2025Summerの受講者数は1万579人。うち最終課題提出数は約20%の2174人。最終課題の審査を経て約14%にあたる1495人が修了証を得た。
松尾豊教授は「最終課題については成果があった受講生のみに修了証を出している。その結果、約3割が不合格となった。修了者はAIスタートアップの標準レベルと考えられる。
今後の実践の場や学びの場も提供しており、修了生であることに自信をもって学び続け、共同研究の参加などの新たなステージへの挑戦を期待したい」と祝辞を述べた。
修了生は松尾研AIコミュニティに参加でき、共同研究プロジェクト参加のチャンスが拡大する。また、修了生から優秀生に選出された15人はシリコンバレーなどでの海外研修を検討している。
優秀生に選出された京都大学工学部物理工学科の徳永凛太郎さんは「大学でPythonを学んでいる際にGCIを知った。機械学習の知識はゼロだったが、最終課題では自分がクライアントになったつもりでデータ分析と提案が矛盾なくつながるように質を磨いた」とコメント。
同様に優秀生である大阪府立大学工学域電気電子系学類の坂上真寛さんは、情報学を体系的に学ぶためにGCIを受講した。
修了生には高校生や中学生もいる。かえつ有明高等学校の1年生は「物理の時間にGCIを紹介されて興味をもった。情報の時間で学んだPythonが役立った」と話す。
早稲田実業高等学校の1年生と愛媛大学附属中学校の1年生は、SNSで本講座を知った母親からの紹介で受講したそうだ。
高校生は「思っていたより難しかったが視野が広がった。今後は次の講座を受講したい」、中学生は「難しい内容は生成AIに聞いたりSlackでやりとりしたりしながら進めた」と話した。
GCIは毎年4月と10月に開講するAI入門講座。データの前処理、可視化、教師あり学習、予測モデルなどを15回で学び、最終課題は企業のマーケティングデータを分析して戦略的提案を行う内容だ。
GCIは表や数値などを中心に取り扱う。GCI学習後の講座として、画像や自然言語などを扱うDeepLearning講座、AIエンジニアリング講座(次回開講は来春)も用意しており、事前学習動画や補足資料を提供。コミュニティでの伴走支援も行っている。
教育は可能な限り無償であるべきという考えのもと、本講座の受講は無料。これは協力企業の支援により実現している。なお協力企業は継続して募集している。
協力企業であるリクルートではデータ利活用にコミットした事業を展開しており、データサイエンティストも募集。カルチュア・コンビニエンス・クラブCIOではVポイント事業などを展開。また、東海東京証券では毎年、同社の社員約50人が本講座を受講している。
東京大学 松尾豊教授
講座の受講者は口コミを中心に広がってきた。SNSでも紹介したところ、自分の子供に受講を勧める保護者もおり、生成AI活用に自身は慎重であっても、自分の子供には正しく理解して活用してほしいという気持ちをもっているようだ。
生成AIなどの技術が今後、重要であると理解していることの表れではないか。
GCI修了後、共同研究でのOJTや、起業支援などの選択肢も提供し、ギフテッドへの教育機会の一つにもなると考えている。
現状存在する生成AI技術が社会実装されるだけでビジネス現場は大きく変わると考えている。松尾研発スタートアップは36社となり、大企業との連携も増えた。今後はこの流れをさらに拡大していきたい。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年10月20日号