岐阜県飛騨市は、全国でも初となる小中学校に作業療法士(OT)を配置する「学校作業療法室」を市内すべての小中学校に設置。今年10月から、学校教育体制に作業療法士と行政が関わる「学校作業療法」を他の地域にも横展開できるインクルーシブ教育システ厶として確立することを目指すプロジェクトを、名古屋市立大学研究チームと共同で開始した。

飛騨市では、市内に拠点のあるNPO法人はびりす(大垣市)に委託し、2023年度より市内の小中学校全8校に、「作業療法士(OT)」が月2回訪問し、子供たちの学習や生活の困りごと、教員の子供たちへの対応等での困りごとなどの相談にのり、子供がいきいきと学校生活を送るサポートをしている。学校内にはOTが学校滞在時に拠点とするOT室も配置しており、作戦ルームなどと呼んで子供たちに浸透している学校もあるという。
単に身体機能の回復を目指すだけでなく、その人が望む「自分らしい生活」を送れるように、身体、心、認知機能に加え、生活を取り巻く環境など全体的な視点からその人の望む生活の支援を行い、健康と幸福を促進していくリハビリテーションの専門職。
文部科学省の調査によると特別な教育的支援を要する児童生徒の割合6.5%(2012年)から8.8%(2022年)に急増している。加えて、教員の過重労働・メンタルヘルス不調、さらには児童生徒の不登校の増加といった問題が深刻化しており、学校現場における大きな社会問題となっている。さらに、小中学生の自殺は近年増加傾向で、過去最多の数値になっている。
地域格差なく、児童生徒が安心して学びに参加でき、教員が本来の学校教育活動に専念できる持続可能なインクルーシブ教育システムの構築は喫緊の課題だ。
飛騨市でも、この全国的な傾向と同様に、学習や学校生活に参加しづらいという特別な支援を要する児童生徒が増加し、教員の業務負担が深刻化。そこで「学校作業療法室」を2023から開始したところ、児童生徒の活動・参加スコアの改善、児童生徒の主体的な取組み姿勢の増加、教員の負担軽減といった結果に繋がった(名古屋市立大学塩津裕康講師の研究)。
全国各地より学校作業療法室の設置について視察や問い合わせを受けることも多くなり、こうした社会課題に対応できる学校作業療法室の取組みを他の自治体でも実施できるよう仕組み化していくことも考えていこうと、社会技術研究開発センター(RISTEX)による「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラムシナリオ創出フェーズ」の研究提案の募集に、名古屋市立大学塩津裕康講師が研究代表者、飛騨市長が協働実施者となり、「学校作業療法室」を核としたインクルーシブ教育システムのモデル構築と多地域展開の研究プロジェクトを提案。
これが採択され、今年10月から2年間にわたり社会実装にかかる研究を進めることとなった。
学びや学校生活の参加に特別な支援を必要とする児童生徒の増加や教員の過重労働など教育現場を取り巻く社会課題に対応するために教育・保健医療・行政の3分野が連携し、具体的に次の項目について実施する。
不登校数や医療受診動向、福祉相談件数・内容などを調査し、学校作業療法の効果を個人、学級、学校、自治体など多角的に検証する。
多地域展開を見据え、教育現場で支援するOTの質を向上・保障するためのICTシステムの開発を進める。
飛騨市での学校現場で実際に作業療法を展開している作業療法士による学校OTのOJT育成の実践を通じ、その方法、実践ツールなどを確立する。
教育・保健医療・行政連携によるインクルーシブ教育システムを多地域展開するために、コンソーシアム設立を目指す。実践水準の標準化、人材育成の共同運営などに取り組みます。作業療法の導入を見据える長野県駒ケ根市や長崎市、福島市などの参画を想定して進める。