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教育ICT

【産学連携でSociety5.0の学びを支援】企業12社・教育委員会と連携 “新たな学び”創出の拠点に~大阪教育大学

2020年9月7日
大阪教育大学 理事・事務局長 新津勝二氏

大阪教育大学   新津勝二理事・事務局長

国立大学法人大阪教育大学は、ポストコロナ期に対応する「新たな学び」の実現に貢献するため、12社(8月31日時点)の企業と包括連携協定に関する協議を行い、社会人の専門的知識・技術・経験などを活用した共同研究や人事交流などの活動を開始している。総合大学・自治体と企業の包括連携協定が増加する中、教員養成系大学と企業との連携はまだ少ないのが現状。協議した12社のうちエプソン販売、Sky、セレッソ大阪、キャノン、東京書籍等の8社は協定を既に締結し、4社は現在調整中。企業との包括連携協定により何を実現するのか。昨年4月に同学理事・事務局長に就任した新津勝二氏に聞いた。

 

教員養成系大学ならではの連携へ

新学習指導要領では、「情報活用能力」が学習の基盤となる資質・能力の1つとして明記され、各学校においてはコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切に活用した学習活動の充実を図ることとされている。政府が進めているGIGAスクール構想の前倒しにより、児童生徒11台のPC環境が整備されることとなり、デジタル教科書・教材等の活用やオンライン授業の実施、小学校段階からのプログラミング的思考の育成、個別最適化された学びの実現など、求められるものがどんどん増えてきている。コロナ禍に対応する学校現場でも試行錯誤しながら進めている状況で、新任教員がこれらをすべて現場で習得することは難しい

 同時に、新学習指導要領改訂の趣旨・内容が教員養成系大学の教職員にうまく伝わっていないのではないかという不安を前々から感じていた。加えて、今回のような新型コロナウイルス感染症や大規模な自然災害など、今後どのような事態が生じたとしても、子供たちの学びを止めることがあってはならない。対面授業を基本としながらも、同期・非同期のオンライン学習をどう組み合わせていくのか、デジタル教科書や教育ビッグデータをどのように有効活用するのか、そのような「新たな学び」の実現をリードすることが教員養成系大学や附属学校の最も重要な役割だと考えている。

 このため、従来から行ってきた教育委員会との連携を継続しつつ、先端技術の活用に様々なスキルや知見を有する民間企業等との連携を積極的に取り入れるべきと考え、様々な連携や取組をスタートした。

東京書籍と連携
デジタル教科書を共同研究

指導者用デジタル教科書は公立小中学校の半数以上で活用されているにも関わらず、2019年度当初、本学ではそれを十分に用意できていなかった。このため、同年7月に全学FDとして東京書籍に依頼して「デジタル教科書に関する勉強会」を開催したところ、教職員や学生から大きな反響と期待が寄せられ、10月以降、中学校のデジタル教科書について、本学教員から利用希望があった教科書会社とライセンス契約を結んだ。また、小学校デジタル教科書は2020年度の改訂に合わせて契約を締結した。

 そのような中、本学の学校教育教員養成課程小中教育専攻数学教育コースの学生グループが、授業の一環としてデジタル教科書の研究成果を発表した。学生目線によるデジタル教科書の効果的な活用方法や改善点が多く出されたこともあり、教科書会社である東京書籍との包括連携協定が実現した。

今後、学生と大学教員及び東京書籍との間で「デジタル教科書に関する共同研究」を進める。算数・数学で開始しており、他教科にも対象を拡げる予定だ。

■外部資金の 獲得も計画

 教員養成系大学として財政基盤を充実させるために外部資金の獲得も重要だ。このため、クラウドファンディングや広告収入に加えて、附属図書館に設置されたラーニング・コモンズ「まなびのひろば」のネーミングライツの公募も行った。同室は今後「東京書籍Edu Studioと呼称し、ネーミングライツ・パートナーである同社の協力により、デジタル教科書の体験コーナーや教科書ライブラリーを設けることなども計画している。

※「東京書籍Edu Studio」で閲覧出来るコンテンツは、学習者用デジタル教科書(教材一体版)小学校全教科全学年、小学校英語指導者用デジタルブック5~6年ほか、次が利用できる。

 ▼東書Webライブラリ▽指導者用デジタル教科書小学校国語1~6年、算数1~6年・社会5/6年,理科3~6年 ▽指導者用デジタル教科書中学校国語1~3年、書写・社会(地歴公)、理科1~3年、英語1~3年・技術/家庭 ▽問題データベース小学校5教科及び中学校5教科 ▽言葉の世界 1~3年 ▽みんなで算数 1~3年 ▽モジュール105デジタルコンテンツ ▽情報社会のモラル&リテラシー

 ▼問題データベースタブレットドリル(小学校5教科・中学校5教科)

 ▼問題データベースプリントひろば(小学校国語/算数、中学校国語/社会/数学/理科/英語)

 

クロスアポイントメント制度
本学として初導入

大阪教育大学として「クロスアポイントメント制度」を初めて導入した。これは研究者等が大学及び企業の中で雇用されつつ、一定のエフォート管理の下でそれぞれの機関における役割に応じて研究・開発及び教育に従事する仕組みだ。これまで教員養成系大学は企業連携が難しいといわれてきたが、教員養成系だからこそできる様々な方法があると考え、一つずつ実現していく。

 本年7月に、オージス総研の安松健氏を特任教員として採用。理数情報教育系に所属して主に「エビデンスに基づく教育手法・カリキュラム等の開発」の教育研究に従事する。また、附属学校改革に関わるプロジェクトの1つ「データを活用した教育の質改善プロジェクト『教育分野へのAI活用可能性の探求』」等にアドバイザーとして協力を得る予定だ。

 このほか、最新の画像処理技術などを活用した教育に関してはキャノンとも連携を検討。セレッソ大阪とは、アスリートのセカンドキャリアとして附属学校で経験を積むことでスポーツの知見を持つ教員養成の可能性を模索。

 これらのアイデアは、文部科学省情報教育振興室長として様々な企業・団体と連携した2年間の経験が生かされている。

附属学校園の環境も整備
LAN構築や学習者用PCほか

大学の教育研究・教育実習の場及び先導的モデル校としての実証の場として、本学には11の附属学校園がある。

 先端技術を活用した「新たな学び」を実現する附属学校園の役割を果たすためには、それにふさわしい環境を整備する必要があり、校内ネットワークの整備や統合型校務支援システム、11台の可動式PC、大型提示装置、Web会議システムなどのICT環境整備を目指している。

初等中等教育機関に開放されたSINET(※)も活用することとし、7月には附属学校内のLAN構築について、8月には統合型校務支援システムや学習者用PCの調達を公告した。

※国の大学、研究機関等の学術情報基盤として、国立情報学研究所(NII)が構築、運用している情報通信ネットワーク。

教育委員会との連携強化

多様な学校教育の課題と教育界のニーズに応えるため、従来から大阪府内の各教育委員会との連携を積極的に進めている。

 ここ数年は、新学習指導要領の趣旨を実現するために必要となる教員育成指標に即した教員の資質向上の取組に力を入れている。

 具体的には、大阪府・大阪市・堺市の各教育委員会と教職大学院が、現職教育を含む教員養成機能の高度化を目的とした「教員養成共同研究コミュニティ」を組織してその成果を発信している。

 大阪市教育委員会と設置した「大阪市教員養成協働研究講座」では育成指標に即した教員研修を開発・実施するとともに、海外研修も展開している。

 堺市教育委員会との連携では、育成指標を活用した教員研修の評価改善システムの開発やキャンパス(教職大学院)と教育センターを双方向遠隔講義システムで結んだ教員研修を計画している。

 この他にも池田市、柏原市、河内長野市など複数の教育委員会と協定を締結し連携を強化している。

2024年創設予定 全国初の試み
大阪アドバンスド・ラーニングセンター(仮称)

2020年1月、大阪市と「新・大阪市総合教育センター(仮称)及び連合教職大学院合築施設設置に向けた基本協定」を締結。教育センターと大阪教育大学との合築でキャンパス内に企業等との連携を前提とした研究ラボラトリーの設置も計画している。
上層階は教育センター、下層階は大学で、その中間を企業等連携のラボラトリーとする予定。研修室や今までにない「未来の教室」の設置も検討しており、「新たな学び」を創出する拠点としたい。
大学の敷地内に教育委員会の教育センターが合築された例は他になく、実現すれば全国初の試みとなる。様々な実証研究の場として企業連携も図りやすくなり、企業同士が連携するチャンスも創出できる。2024年完成を予定に計画を進めており、「大阪から日本の教育を変える」という意気込みを持って関係各所と連携していきたい。

教師の魅力向上プロジェクト~教師冥利に尽きるエッセイ~

本プロジェクトは、時代の変化とともに教員の業務量が増加し、多忙化を中心とした教師のマイナスイメージにより、教職免許を持つ人材の教員採用試験受験率の低下や、採用試験合格者の教職就任率の低下などに危惧を感じて始めたもの。

本学のクラウドファンディング第一弾として20201月に立ち上げたプロジェクトで、目標額100万円を超える協力を全国から得ることができた。既に20篇以上集まり、順次公開している。

学校種ごとにやりがいも異なり、こんな教師冥利もあるのかと発見があり、取りまとめることに喜びを感じる。

大学や高校におけるキャリア教育教材としても無料で活用できるので、日本の教育界の大きな財産になるものと期待している。

本学の上出吉則特任教授が担当する数学教育コースと技術教育コースの学生50名を対象に、教員養成課程1回生必修授業「教職入門」で、情報教育振興室長時代の知見を元に「教育の情報化」についてオンラインで講義を行った。質疑応答や講演後のレポートでは「トーク&チョークに憧れがあり教職を目指したがICT活用の必要性が良く分かった」など前向きな感想が数多く届いた。

さらに翌週は「教師冥利に尽きるエッセイ」を教材にしたオンライン講義を実施。学生からは「目指した夢は間違いではなかったと確信した」「教職に就いた人にしか経験できない喜びや感動があることがわかった」「一層教師になりたい気持ちが増した」など、キャリア教育教材としての有効性が実証された。

教師冥利に尽きるエッセイ」は12月31日まで応募できる。スピンオフ企画「恩師への手紙」の募集も開始。

拡がる産学連携

最先端テクノロジーを活用した教育環境の構築や地方創出に関して多くの大学や地方自治体、教育委員会が産学連携を進めている。

■北海道教育委員会

北海道教育委員会とNTTドコモ北海道支社は、道内高等学校の教育活動の充実をめざし、「ICTを活用した教育の推進に関する連携協定」を821日に締結。北海道立札幌北高等学校をモデル校に指定し、91日より実証事業を開始。LTE回線を利用できるChromebook80台の提供、クラウドサービスの利用方法の提案、効果の検証、ICTを活用した授業や家庭学習を支援。道立学校教育情報通信ネットワークに接続したWiFiLTE回線の併用も検証。

■東北大学

AIを開発活用できる人材の育成に向けて、東北大学データ駆動科学・AI教育研究センターとaiforce solutions62日にデータ科学・AI教育の促進に関する共同研究契約を締結。新入生2400人向けのAI教育教材「AIMD for Future」を共同開発し、6月より提供。今後は教材を追加開発して学部生まで拡充。共同開発した教育コンテンツ等を東北の企業や大学に提供する予定。

■長野県立大学

長野県教育委員会、長野県立大学、KDDI84日、「包括的連携協定」を締結。5Gなどの通信やICTを活用した遠隔教育プラットフォームの構築、地域を担う人の育成に必要なコンテンツの企画・開発、「起業家クラブ」(仮称)の創設などを支援する。

■新潟県長岡市

新潟県長岡市、高等専門学校機構長岡工業高等専門学校、KDDI85日に連携協定を締結。5Gを活用したオンライン教育に関する共同研究、IoT先端技術を活用した体験型教育の共同研究、IoT先端技術を活用したバイオマス、農林水産品、観光資源などの地域資源の価値向上などに取り組む。長岡市では市内4大学1高専と「人づくり・産業振興」を目指す「NaDeC構想」に取り組んでいる。

■東京学芸大学

東京学芸大学、東京学芸大学附属学校(竹早地区)と岡山県津山市、岩手県山田町ほかの教育委員会、内田洋行、NECほか20社以上の企業(後述)が連携。企画中も含めて学校運営やデジタル教育システム開発等15以上のプロジェクトを進行中だ。プロジェクト・ビジョンは「好きに、挑む。」連携する企業、教育委員会等を継続して募集中。連絡先=icbtguu-gakugei.ac.jp

主な連携内容は以下。▽職員室に、企業・外部人材とのコワーキングが可能なコワーキングスペースを設置 ▽出欠の自動化、子供の行動・状況把握、安全安心を守るシステムを開発 ▽教科を超えた学びをつなげるICTシステムの開発 ▽PBLや探究学習をオンラインで汎用化するシステムの開発と環境整備 不登校等の子供に対する支援システムを開発・整備 ▽ARVR実験ルームを開設。教材開発と物理的な制約を超えた学びのを設計 ▽Society50時代の新しい図書館システムを開発 リモートクラスルーム・授業の実施 指導案と授業履歴のAI分析システムを開発 企業人等のダブルワーク化と小中版「クロスアポイントメント制度」の開発 習得学習について学校・塾・家庭のデータ共有システムを開発 家族ユニットでの「ワーケーション」実現

【参加企業】内田洋行、学研教育みらい、カモマン、コクヨ、ジブラルタ生命保険、tanQTeach For Japan、出島プランニング、東京学芸大こども未来研究所、凸版印刷、日本能率協会マネジメントセンター、NECNOLTYプランナーズ、博報堂、NTT東日本、FIREBUGFiveforMistletoe Japan、三菱みらい育成財団、リクルートマーケティングパートナーズ

■京都府京丹後市

京都府京丹後市・京丹後市教育委員会は729日、情報経営イノベーション専門職大学(iU)と地方創生協定を締結。AIを含むICTを活用した連携を進める。デジタル教育ツール「iU mobile」を活用した客員教授と学生をつなげる「バーチャル研究室」による遠隔共同プロジェクトやインターンシップ、小中学校教員等に対する勉強会、教育コンテンツの提供、市内高校生への大学紹介など。

■愛知教育大学

愛知教育大学とソフトバンクは、愛知県におけるICT教育推進を目的とした相互連携に関する協定を228日に締結。人型ロボット「Pepper」によるプログラミング教育の推進、教育分野における5Gインフラの利活用方法の共創、授業でのICT機器の活用をサポートできる高度授業支援員の育成やオンライン授業を推進。

■鳥取大学

鳥取県日南町と鳥取大学、ソフトバンクは821日、中山間地域における課題解決及びSDGs推進に関する連携協定を締結。

■香川大学教育学部

香川大学とソフトバンクは728日、障がい者の生活の質向上や社会参加を促進するための共同研究を実施すると発表。香川大学教育学部では、自閉症や知的障がいのある子供がICTを活用することで本来の能力を発揮できるようにする支援技術や研究に取り組んでいることから、ソフトバンクのアプリ「アシストガイド」機能向上や教育現場での試用と検証、課題の発見に取り組む。

■九州大学

九州大学、AtCoder、電通、電通九州、イマーゴが連携。アルゴリズム思考の学習を効率的に行う教育サービスの共同研究、数理モデルを用いた地域課題解決の産学連携プロジェクト等を行う。講義やセミナーにAtCoderを活用して学生はオンラインコンテストに挑戦。学習履歴のデータを分析する。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年9月7日号掲載

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