実践的・創造的技術者を養成することを目的とした5年一貫の高等教育機関である高等専門学校(高専)。現在、国公私立合わせて全国に58校あり、高度専門人材の輩出が期待されている。
高等専門学校制度が発足した1962年に設立された1期校12校のうちの1校が長岡工業高等専門学校(新潟県長岡市)(以下、長岡高専)だ。同校では社会の多様なニーズに対応した取組を進めるとともに、事務処理関連のDX化にも着手。
そのうちの1つが学生証のデジタル化・アプリ化だ。長岡高専では2025年度より学生証をスマートフォンで利用できる学生証アプリ「MyiD(マイディ)」を導入し、活用を開始した。同校の教務委員会に所属する蔦将哉助教に導入前の課題と成果を聞いた。
学生証をアプリ化することで事務部の負担減と出欠確認・連絡の合理化を図った
本校は人類の未来を切り拓く、感性豊かで実践力のある創造的技術者の育成を教育理念に、現在、5年一貫教育である本科の5学科(機械工学科、電気電子システム工学科、電子制御工学科、物質工学科、環境都市工学科)と、より高度な内容を引き続き2年間学び「学士(工学)」の学位を取得できる専攻科の3専攻(電子機械システム工学専攻、物質工学専攻、環境都市工学専攻)を開設。
「工学」に関わる学びを通じて、地域・世界で活躍できるイノベーション人材、グローバル人材、アントレプレナーシップ人材の育成に力を入れています。
教員の研究活動も盛んで地域企業との産学連携にも積極的です。
また異文化交流や地域連携を通じて、実践力、創造力、国際性の育成にも注力。海外協定校との連携や学生の海外派遣研修、JICAと連携した社会実装教育などに学生は参加しています。学内には国際寮があり、アジア圏を中心に30人弱の留学生を受け入れており、日常的に国際経験を積める機会を多数用意しています。
様々な取組により、それに伴う事務作業も増えていきます。中でも事務部にとって負荷が大きかったものが学生証の作成です。
学生証は当時、本科・専攻科の新入学時と3年次の更新時に合わせて約400枚を作成。学生1人ひとりから写真をもらいパウチ化しており、しかも新年度開始の繁忙期である3月末~4月上旬に集中して作成する必要がありました。
こうした負担軽減を目的に、学生証のデジタル化を図りたいという提案が事務部から上がったのが2024年5月です。そこで新潟県内や他高専で3校程度が導入済であった学生証アプリ「MyiD」の導入を検討し始めました。
MyiDには学生証をデジタル化できるだけでなく、学生が授業に出席していることを登録できる機能があるため、授業に対する学生の出欠状況をデジタルで管理することができます。
これまでも長岡高専では授業出欠状況の管理をデジタルで行ってきましたが、利用していたシステムのライセンス期限が満了することもあり、授業に対する学生の出欠状況もMyiDを利用して管理することになりました。
また、MyiDには学生が授業に欠席する場合に事前にメッセージで連絡できる機能もあります。長岡高専では、学生が単位を取得するための授業出席回数に規定があるため、学生の授業出席・欠席数を管理することは非常に重要です。
これまでは学生が欠席する場合には、保護者から学校の事務部へと連絡してもらうようにお願いしていました。これをMyiDのメッセージ機能を利用することで、保護者の学校への連絡手段が容易となり、事務部の電話対応の時間も削減することが期待できました。
学生証をデジタル化したことで、事務部ではこれまで学生証の作成に費やしていた時間を他の業務に充てることができ、繁忙期の業務全体の時間を削減することができました。
学生の授業出欠状況の管理についても、MyiDのシステムを利用して取り組んでいます。
出席登録は、授業の担当教員が持参するビーコンの電波を学生のスマートフォンが受信し、MyiDアプリから出席登録をすることで、その情報がシステムにリアルタイムに反映される仕組みです。教員はビーコンを持参するだけ、学生はスマートフォンをタップするだけなので、簡単に授業の出席登録ができます。
また、保護者もMyiDを介して学生の授業出席・欠席状況を把握することができます。この機能により「欠席連絡が届いていないのに出席していない」学生を迅速に把握できるようになり、高専、保護者による見守りの体制が明らかに充実しました。
導入時には、これまでのシステムとは使用感が異なることから、MyiDの使用感に関するいくつかの課題に直面しましたが、ビジネスチャットアプリ上で教員・事務部全体を含めたチームを立ち上げて知見を共有しながら解決していきました。
現在では、利用に関する課題はほとんど解決できたと感じているので、定常的な運用体制を構築する段階に進んでいます。
学生の授業出席・欠席数は単位取得に関わるものなので、誤りや漏れがないように管理をしなくてはいけません。MyiD導入初年度の今年度は、漏れがないよう教員による目視の出欠確認や手帳への記録も併せて行なっています。
安定的な定常運用体制が構築された後はMyiDによる管理に一本化することで更なる業務効率化が期待されます。
このほか、MyiDには学校から保護者への連絡事項の共有機能やアンケート機能も備わっています。これまで郵送する必要のあった連絡事項等をデジタル送信に置き換えることで、封入等の業務の削減や郵送コストの抑制も期待されます。
高専という教育環境で日常的に使用する中、MyiDには様々な学校種に対応できるフレームワークが備わっていると感じています。高専を始め多様な学校でも利用が進み、コミュニティが形成され、好事例を共有できるような展開を期待しています。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年8月11日号