第51回全日本教育工学研究協議会 全国大会 茨城つくば大会が11月14・15日につくば国際会議場及び市内の幼少中高等学校・義務教育学校で行われる。
大会テーマは「つくばから発信!未来を創造する次世代の学び」。全体会と研究発表は当日申込も受け付けており、茨城県内教育関係者・学生は無料で参加できる。主催は日本教育工学協会(JAET)。
JAET会長である高橋純教授(東京学芸大学)に本大会の見所と学校現場の変革の様子を聞いた。なお次年度の第52回大会は相模原市(神奈川県)で開催される。
高橋純教授 東京学芸大学
学校現場では日々、子供たちに高い資質能力を育成することを目標に取り組んでいることと思います。
これまで様々な授業を参観して感じることは、それぞれの子供の成果物の質は、どのような情報にどの程度触れているかによって左右されるということです。成果物とは、意見や感想、思考すべてです。
高い資質能力育成のためには、より多くの情報や他者の意見に触れるなど、日々多様な種類の情報にいかに多く触れて考えることができるかが重要ではないかと考えています。
様々な情報が教室にあふれ、それを積極的に取捨選択している子供の様子には圧倒されます。
特に、子供同士でChatツールや生成AIの活用を許されている学校では劇的に学びの在り方が変わっています。教員の工夫により、遊んでいる子供はおらず、生成AIを使って理解してから問題を解いたり、論点を整理しながら自然にグループができて討議したりしています。
私自身、生成AIを利用することで学ぶ量や質が変わり、行動範囲も広がりました。海外の論文からの情報収集も海外の学会参加もこれまで以上に増え、取得できる情報量が増えています。
情報量が多すぎると処理しきれなくなる、という意見もありますが、そこを自己調整・判断する力も資質・能力の一つ。
そして、より自然により多くの情報に子供自身が触れるためには、学校や授業の中で情報をスムーズに流れるしかけを作ることが必要です。
OECDが2025年5月30日に公表したOECD TeachingCompassでは教員の専門性・主体性・ウェルビーイングを再定義しています。
このうち教員のエージェンシー(主体性)とは、教員が教育の設計・実践において、自律的・創造的に取り組む力を指しています。また、エージェンシーの構成要素として三つの取組(※)が示され、そのうち「共同エージェンシー」では、生徒や同僚、保護者に加えてAIも協働の対象とされています。AIはこのほかにも様々な場面でその役割が示されています。(※個人エージェンシー・共同エージェンシー・集団エージェンシー)
技術の進展は極めて速く、それに触れる場合と触れない場合では感覚にズレが生じると感じており、これは授業研究にも影響を与えています。
かつての授業は、教員が情報の量と質をコントロールしてイメージ通りの結論を得るものでした。児童生徒観察も抽出が中心で指名も意図的でした。
しかし個別最適な学びや自由進度学習などの新たな学びに挑戦するほど、状況に合わせて方法を変え切磋琢磨していく過程やデータの利活用が重要になります。授業づくりの技術が変わってきているのです。
それに伴い発問も変わります。
ある学生が「1人ひとりの子供の顔を浮かべると発問を考えることが難しい」と言っていました。個別最適な学びを目指すほど、自ら問いをつくることに向かうため発問も異なっていくのではないでしょうか。
その反面、問いを求めすぎることに危険を感じてもいます。問いを見つけることが最終目的ではないためです。問いは、よりよい自分もしくは社会の実現という人間ならではの理想(もしくは欲求)に向かうための過程の一つです。今、これまでの「PDCA」に代わるものが求められていると感じています。
良い授業では主体的・対話的で深い学びが実現されています。しかし主体的・対話的で深い学びに取り組めば必ずしも良い授業になるわけではありません。
子供が自己調整しながら学ぶ力を育むためにも、部分のみに着目するのではなく、全体最適を目指すこと。そのためにも教員自身の柔軟なエージェンシーが肝となるでしょう。
1977年に日本初のコンピュータ活用を開始して以来、先進的な取組を一貫して継続してきたつくば市で第51回全日本教育工学研究協議会を開催します。2009年度に本大会をつくば市で開催して以来、2回目となります。
当日は幼稚園、小中学校、義務教育学校、高等学校とすべての校種で公開授業を行います。
赤堀侃司東京工業大学名誉教授、山西潤一富山大学名誉教授、吉崎静夫日本女子大学名誉教授、堀田博史園田学園大学教授を始めとするコンピュータ活用に初期から取り組んでいる研究者が公開授業校の助言者を務めている点も、伝統的にICT活用に積極的であるつくば市ならではです。
次の学習指導要領では「探究的な学び」に情報活用能力を活かすことが重視される予定です。探究的な学びやICT活用に早期から取り組んでいる学校の様子を見ることができるでしょう。
2日目には約150の研究発表が行われます。今年は生成AI活用の実践が大幅に増え、ユニークな実践が数多くみられます。いずれも、GIGAスクール構想を前提としており、情報端末活用が日常的になってきたことがうかがえます。
本大会の研究発表は当初から、より多くの方が発表する機会を提供することを重視しています。発表することで探究的な学びや自己調整の学びの方向性がより明確になる可能性もあり、積極的に利用し、教員のエージェンシー発揮に役立てていただきたいと考えています。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年10月20日号