生成AIの利用に関する夏季公開学習会が7月29日、オンラインと対面で開催され、松尾豊教授(東京大学大学院工学系研究科)がAIの最新動向とAI時代に活躍する松尾研究室の人材育成について講演した。
松尾豊教授 東京大学大学院工学系研究科
松尾研では「知能を創り、未来を拓く」をビジョンに「時代の先を見据えた基礎研究」「研究成果に基づく先進的な講義」「日本の産業を強くするための共同研究」「若手が活躍する機会を創出するインキュベーション」に取り組み、世界で戦える技術大国のエコシステムづくりに挑戦している。
まず、研究室のスタッフは学生・研究員・教員含め約400人所属と年々増加。
論文採録は直近4年で50本あり、2024年度は18本であった。
講義は年間30本以上をオンラインで提供。昨年度は2万7000人、今年度は約7万人と受講者も年々増加。東京大学のほか、他学の学生や高校生、中学生も受講。今年は小学生も数人いる。
最も人気が高い講義が「グローバル消費インテリジェンス(GCI)」だ。2014年度から提供し年2回(4月/10月)開講しており、これまでに約3万人が受講。AIの入門から企業への提案まで学ぶことができる。
GPUを提供してLLM(大規模言語モデル)の開発を学ぶ講座は、昨年度は約4000人が受講した。
受講者のうち優秀な学生は共同研究に招待され、希望すればプロジェクトに参加できる。プロジェクトでは企業向けのAIシステムを設計。過去には大手メーカーやメディア企業、医療関連企業などに提案している。
さらにプロジェクトマネージャーとして企業と交渉したりマネジメントしたりという経験も可能。そこから起業につながる例もあり松尾研発のスタートアップは現在30以上でうち2社が上場。3社がM&Aされた。20代での起業も多く、起業後2年でM&Aに至った例もある。
この「AI人材を育成し起業を支援する」仕組みは海外にも展開。マレーシア工科大学、インドネシアのバンドン工科大学、ケニアのナイロビ大学ほかと連携。どの国も提案すると興味を示す。
AI人材育成後には地元企業をAIテクノロジーで支援したり、地元でスタートアップを創出したりすることで地域経済を強化できる点が評価されているようだ。
ロボットの進化も目覚ましい。山を駆け降りたり、洗濯物をたたんだり、コンベヤで運ばれてくる荷物を分別してバーコードを読み取ったりといった作業ができるロボットが開発されている。日本はロボット分野に強みがあるといわれているが、製造業や介護、物流、農業などさまざまな分野で活躍するロボット開発のためのデータ取得が今後、一層重要になるだろう。
2025年1月に中国が発表した生成AIであるDeepSeekの性能の高さが注目されている。東大理科Ⅲ類数学の入試問題をDeepSeekとOpenAIに解かせるといずれも合格最低点を上回っている。
AIエージェントの開発も進んでいる。例えばユーザの指示を基にブラウザを開きECサイトを検索し、評価の高いものを選択してカートに投入するまでを一気通貫で行うなどだ。この仕組みは今後、さまざまな仕事に応用される可能性がある。
今後は人間と同等以上の知能をもつAGI(汎用人工知能)の登場が予測されている。これはさまざまな産業変化、社会変化を引き起こすだろう。ノウハウが人ではなくAIに集積されていく可能性もある。
そのような中、どのような人材を育成していけばよいのか。AIの基礎知識を身につけること、使いこなすことはもちろんだが、組織や社会に変革をもたらす実行力を育むことが重要なのではないか。松尾研でもそのような人材育成に貢献していきたいと考えている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年8月11日号