デジタル技術で教育改革を進めるシンガポール。教育省のTey Kah Hwee氏と山⻄潤一会長(一社・日本教育情報化振興会)が、6月6日のNEW EDUCATION EXPO2025で、同国の政策と次世代の教育について議論した。
Tey Kah Hwee氏(Ministry of Education, Singapore Director/Learning Partnerships in Education)
シンガポール教育省(MOE)は1997年以降段階的にICT教育を推進。2024年にはAI・IoTなど急速に技術革新が進む世界に対応できる人材育成のため「テクノロジーによる教育の変革マスタープラン2030」を発表。
具体的には、オンラインプラットフォーム「スチューデント・ラーニング・スペース(SLS)」の拡充、双方向型のデジタル教科書の活用、教員のオンラインコミュニティ構築、教員養成段階でのスキル習得強化などに取り組む。
MOEは①教員・学校の意思決定のための学習分析やデータ活用、②インフラなど学校の環境整備、③企業や研究機関と協働するエコシステムの構築、④保護者との連携を支援。
各校の判断で実施が進められ、2025年に半数が開始、2030年までに全校で完全実施する計画だ。
スチューデント・ラーニング・スペース(SLS)は教員と生徒の学びを支援するオンラインプラットフォームで、2018年の導入以来継続的な改善を重ね、250以上のコンテンツを提供。
デジタルとアナログを組み合わせた学習設計や教育データ活用を支援し、生徒はカリキュラム準拠の教材で自主学習や協働学習を自律的に進め、教員は指導の個別化を図ることができる。
コロナ禍にも活用され、現在も中高生は隔週5時間の家庭学習に取り組んでいる。うち4時間は教員指定の教科学習で、1時間はギターや編み物など自由なテーマで意欲を高める時間が設定されている。
SLSにはAI対応機能も実装し、指導や授業設計、学習の見直しを支援。生徒の学習状況に応じて問題を提案し教員が進捗を把握できるアダプティブ・ラーニング・システムや、生徒の活動に対する評価を自動生成し教員の確認後に返却するラーニング・フィードバック・アシスタントなどの機能がある。
さらに、ティーチング&ラーニング・アシスタントには授業設計を支援するオーサリングコパイロット、生徒の回答分析を行うデータアシスタント、AIとの対話を通して学びを促すラーニング・アシスタントの機能を備える。
AI活用はe-pedagogy(電子教育学)を基本理念に人間の主体的な意思決定を重視し、主体性・公平性・包括性・安全性の4原則に基づく倫理的枠組みを設定。
過度な利用を防ぐため質問回数の制限や不適切な質問への対応策を設け、生徒の自ら考える力を妨げない。
教員は生徒のチャットログを確認でき、活用前にはAIガイダンスを受講。独自アプリの開発時にはMOEがリスク評価を行っている。
校務改善に向けた包括的なシステムも構築。MOEアイデンティティ管理システムにより、すべてのMOEアプリに1つのID・パスワードでログインできる。
スクールコックピットは生徒・学校情報、成績、出席などを一元管理するポータルサイトで、教員は生徒・学級、管理職は学校全体や全国試験の成績分析に活用できる。
学校と家庭をつなぐペアレンツゲートウェイ、成績表へのコメントを支援するAppraiserなども提供している。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年7月21日号