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図書館

【インタビュー】支援ニーズに寄り添う~専修大学 野口武悟教授

2021年9月20日
秋の学校図書館特集

野口武悟 教授

「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法)」が2019年6月28日より施行された。「障害の有無にかかわらず全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に寄与する」ことを目的としており、学校図書館も対象としている。様々な子供たちのニーズに応じた読書が求められる中、これからの学校図書館の環境整備には何が必要か、専修大学・野口武悟教授に話を聞いた。

読む環境をカスタマイズ

――学校図書館における「視覚障害者等」とは、実際にどのようなニーズがある子供でしょうか。

「視覚障害等」とは、視覚障害の人はもちろん、視覚による表現の認識が困難な人の総称です。文字は読めるが、本を手にとって読めないといった肢体不自由の人や、文字の読み書きが難しいディスレクシアなどの発達障害の人も含まれます。様々な要因でそのままだと本が読みづらい子供たちの支援ニーズと重なる部分も多かったりします。

――11台端末によって、教育現場は大きく変わりつつあります。そうした子供たちのニーズにも活用できますか。

読書バリアフリー法のポイントの1つは、「アクセシブル電子書籍等」に注目している点です。ICTの活用は、様々な障害の特性やニーズに対し、読書しやすいようにカスタマイズできる利点があります。

端末の画面上での文字の拡大機能や、読み上げソフトなどは良く知られています。また従来は点字は紙に打ち出していましたが、今はピンディスプレイという、電子データをそのまま点字で読めるシステムも登場しました。

これまで学校で扱ってきた電子メディアは、DVDなどパッケージされたものが中心でした。今後は、11台端末によって、インターネット上のコンテンツも使いやすくなります。あわせて、読み上げ機能などのアクセシビリティが充実してくれば、支援が必要な子供にとっても、利用可能なコンテンツは確実に増えていきます。

つまり、11台端末を、様々なニーズのある子供たちの読書につなげていくためには、ハード(端末)とソフト(コンテンツ)の両面にわたってアクセシビリティをいかに実質化していくかがカギといえます。

なお読書バリアフリー法からは外れますが、広い意味でのバリアフリーに関わることとして、日本語指導が必要な子供たちの支援も重要なテーマです。文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」(2018年度)によると、公立学校における日本語指導が必要な児童生徒数は51126人で、前回調査(2016年度)より163%増加し、今後ますます増えていくでしょう。そうした子供たちのために、多様な言語のコンテンツを提供することも大切です。

――学校図書館の役割は増えていきますね。

そうですね。今後、学校図書館の重要な役割として、デジタルな面からは、良質なコンテンツを子供や教職員に橋渡しすることが求められます。しかも、それは学校図書館内にとどまるものではなく、校内のあらゆる場所で求められます。11台端末によって、学校全体を図書館化することさえできるわけです。

その際、当然ですが、アクセシビリティやバリアフリーも同時に考えていく必要があります。

もちろん、学校図書館内でも、リーディングトラッカーや拡大鏡を用意するといった、読書環境のバリアフリー化もますます重要です。

――インクルーシブ教育への流れもあります。

視覚障害や聴覚障害の子供たちは、以前は盲学校や聾学校に通うケースが多かったのですが、今は小学校や中学校段階では地域の学校に通う子供も増えています。だからといって、特別支援学校の役割が小さくなったわけではありません。様々な支援ニーズの子供たちが学ぶ地域の学校を支援する役割も特別支援学校には期待されています。

というのは、そうした子供たちが地域の学校で合理的配慮を受けながら学ぶ環境を保障することが重要だからです。SDGsの考え方に「だれ一人取り残さない」とあります。皆と同じ場所にいればいいという形式的なインクルージョンではなく、実質的に取り残さないよう、必要とされるニーズを満たせる教育の実現がポイントです。

障害のある子は他の子供たちと比べて、支援ニーズが顕在化しやすいと言えます。そのニーズからは、私たちに、様々な気づきを与えてくれます。支援ニーズのある子供に寄り添った環境を整えることは、誰もが使いやすい学校や学校図書館づくりにもつながります。

例えば車椅子の子供が入学して、段差にスロープを付ける。そうなると、怪我で松葉杖を使う子供も歩きやすい。学校図書館では、書架の高いところの本は車椅子だと手が届かない。そこで、上の棚には配架しないようにする。すると、低学年の子供も使いやすくなる。公共図書館と違い、学校図書館の利用者は限定的で、中心となる子供たちならではのニーズがあります。それを勘案した環境整備が学校図書館だからこそ必要です。

――ただ、1人の子供のために、点字の本や多言語の本、コンテンツ、教具を購入するのは、難しい場合もありませんか。

1つの大きなポイントが「連携」だと思います。公共図書館と学校図書館が連携しているなら、そこに読書バリアフリーの視点もぜひ取り入れて頂きたい。公共図書館がバリアフリー資料のセットを用意して必要に応じて提供してくれれば、学校は間違いなく助かります。これは公共図書館だからこそできることです。また、学校間での貸し出しを行っている場合、各校で少しずつ資料を揃えて相互に利用し合う方法も考えられます。

――実際に取り組む場合には、まず何から始めたら良いでしょう?

まず自校の学校図書館のバリアフリーの状況を、学校図書館の担当職員だけでなく、特別支援学級の担任や、特別支援教育コーディネーターと一緒にチェックしてみてください。(公社)日本図書館協会学校図書館部会が作成した「学校図書館における特別なサービスと資料の提供に関する基本方針図書館利用に困難のある児童生徒のために(20206)も参考になります。そして、予算や職員体制も確認した上で、公共図書館や他校との連携を進める。また紙の本の環境に加えて、整備が進む11台端末を活用して実現できることも合わせて考えて欲しい。

本に限らず、新聞や雑誌、インターネット上の配信記事などでも、文章を読むことで思考は深まります。子供たちには「読む」という行為を嫌がらずにできる大人になって欲しい。それは障害の有無に関係ありません。障害のある人もその人なりの方法で情報にアクセスできる力を子供のうちに身につけて欲しいし、そのための環境を学校図書館が提供できるようになって欲しいと思います。

参考Webサイト・コンテンツ

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教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年9月20日号掲載

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