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教育ICT

メンタルヘルスで未来志向に~ポートフォリオで学校が元気になる

2024年1月1日

ウェルビーイング(Well Being)とは自分の実現したいことに向かいながら幸せを感じる状態でいること。ウェルビーイング実現のためにはメンタルヘルス(心の健やかさ)が欠かせない。小中高等学校において現行の学習指導要領では精神疾患に関する内容を取り扱うこととなっている。シンクタンク未来教育ビジョン(鈴木敏恵代表・未来教育クリエイター・一級建築士)は「意志ある学び―未来教育全国大会(オンラインセミナー)」を2023年10月21・22日に開催。2日目は「大人にも子どもにも役立つ!メンタルヘルス教育」をテーマに林輝男医師(清和会西川病院・島根県浜田市)が登壇。チームで学校に実践したメンタルヘルス教育プログラムなどを紹介した。全国から教育関係者も参加し、学習者のメンタルヘルスや自己効力感を高めるポートフォリオやプロジェクト学習の効果について意見を交わした。参加者からは「心が折れそうな教職員に伝えたい」「子供たちにメンタルヘルス教育をやってみたい」と、様々な年代への効果が示唆された。当日の報告と、事後の林医師と鈴木氏の対話を紹介する。各種資料=「未来教育ライブラリ」と検索するとDLできる(https://suzuki-toshie.net)

内発的な動機で自ら学び成長

鈴木敏恵氏

鈴木敏恵氏

■鈴木 メンタルヘルスにおいて、リカバリー(回復)の新しい考え方では、その人のストレングス(長所・強みなど)を活かすことが生きる希望にも、やる気やモチベーションにもなるとのことでした。学校では今、自ら学びに向かう力が求められており、このリカバリーの考え方が生きると感じます。

■林 自ら学びたい気持ちになるためには、内発的な動機付けを大事にすることです。子供のストレングスを尊重し、否定しないことが肝心です。ストレングスは大きく4つに分類することができます(下参照)

ストレングス4分類
  1.  個人の性質・性格
  2.  才能・技能
  3.  環境・資源
  4.  関心・熱望
1人ひとりのストレングス(長所)を見出す

■鈴木 ストレングスをたくさん書き出してみることも楽しく有効そうですね。大人の場合、やる気が出るのであれば、例えば麻雀が上手いこともストレングスであるとのことですが、学校という場での子供の長所や強みというと教科の成績や部活のリーダーやボランティア活動などだけが挙がりそうで懸念します。

鍵は「エンパワーメント」
林輝男医師

林輝男医師

■林 そればかりではありません。特に4つ目の「関心・熱望」について具体例をいくつか挙げてみましょう。「カードゲームが強い」「AKBに入りたい」「YouTuberになりたい」などもいいですよね。なりたい、やってみたいというものがあれば学びや成長につながります。

例えば県外のカードゲーム大会に出ると、これまで出会うはずのない人と出会うことができ、世界が広がります。

クラスで自分や友達のストレングスを語る機会を設ければ、「どうしたらみんなにうまく伝わるか、みんなも好きになってもらえるかな」「友達はこんなことを考えているのか」と考える力や自己効力感、自信の醸成や互いを尊重し合う場づくりにもつながります。

朝の会などで、今週こんな良いことがあったよというグッドニュースタイムから始めることもメンタルヘルスにいいでしょう。お弁当に好きなおかずが入っていた、花壇の花が咲きそうなど些細なことで良いのです。先生からグッドニュースを発信することで、子供も安心して前向きな考えや発見を言えるようになるのではないでしょうか。

ゴールは天性を見つけること

■鈴木 先生のお話の中で最も胸にぐっときたのは、Patricia Deegan氏のリカバリー(回復)の概念の林先生の訳文です。『リカバリーのゴールは、ノーマルになることではありません。そのゴールは、もっと深く、もっと豊かな人間になりたいという人間の本来持っている天性を抱きしめることです(林訳)』。これを「人生のゴールは」に置き換えることで、学校で標準的であろうと自分らしさを出せずに悩む若者の胸にも響くのではないでしょうか。

《メンタルヘルスリテラシーとは》

(Mental health Literacy)精神疾患に関する正しい知識を取得し、理解することで、精神的不調に気付き、対処し、予防することができること

《プロフィール》

■鈴木敏恵=ポートフォリオ・プロジェクト学習の第一人者。国立大学法人北海道教育大学[教職論PBL]特別講師。一級建築士。著作『DXとポートフォリオで未来教育』『AI時代の教育と評価』【公職歴】内閣府中央防災会議専門委員・千葉大学特命教授ほか。「意志ある学び」を理念に教育の未来化を先導。

■林輝男=精神科医師。2021年「S・IPS個別就労支援チーム」にて精神医療奨励賞。著作『IPS援助付き雇用:精神障害者の仕事がある人生のサポート』『IPS就労支援プログラム導入ガイド』【公職歴】世界最大規模医学研究所「NIH:アメリカ国立衛生研究所」正規研究員を経た後、主任研究員として活躍。現在、清和会西川病院理事長。

ポートフォリオメンタルヘルス教育DL資料


ご自由にご活用下さい 林医師と鈴木氏の対談

□メンタルヘルス教育 [教員研修][授業]に使えます

□メンタルヘルスに役立つポートフォリオ 実践・作り方

 

精神疾患は7割が25歳以下に発症~林医師講義より

厚労省調査によると精神疾患を発症する人の7割が25歳以下。病院に相談することを「小学生では早すぎる」と考えない方が良い。受診が遅れる理由には、子供が自身の精神的不調に気付きにくいことに加え、「感情の弱さが原因」「自分の意志で克服すべき」など精神的疾患への周囲の無理解がある。こうした事態を防ぐためにはメンタルヘルスに関する正しい知識を持つことだ。

治療とは、抱えているストレスや悩みに対処することである。心にストレスが加わると、それを跳ね返して心が元に戻ろうとする。しかし多くのストレスが加わりすぎると耐えられなくなり心の病気になる。ストレスが蓄積すると「食欲がなくなる」「イライラする」「学校に行きたくなくなる」など、身体や気持ち、行動に何等かの変化が現れる。その際は「健康状態はどうか」「安心できる場所があるか」「社会参加しているか」「心の友がいるか」、何より「希望」つまりこうなりたい、こうなればいいなという願いを持っているかという視点を持って対話することが必要だ。これらを「リカバリー支援の4要素」と呼んでいる。

また、自分の心身に変化を感じた当事者は、1人で悩まず相談することが大切だ。

 

ポートフォリオで学校が元気になる

ポートフォリオ作成に取り組んでいる山口県岩国市立灘小学校では今年度、ポートフォリオを授業に盛り込むことに挑戦し、授業の成果を高塚正昭教諭が報告した。また、中学校3年生が自身のポートフォリオを用いてプレゼンした。

ポートフォリオを「自分の未来」に活かす

ポートフォリオでストレングスが見える

ポートフォリオでストレングスが見える

◇・◇・◇

児童には、年度当初にポートフォリオにどのようなものを入れるのか、なぜポートフォリオを作成するのかについて共有している。単なる授業のふり返りではなく、自分の学びの軌跡として作成・活用することで、伝えたいことが増えたり、自分に自信がついたり、相手を尊敬する気持ちが生まれたり、他人の話を聞いて良いところを見つける力が鍛えられると感じている。バラエティに富む充実したポートフォリオとなり、個性や努力の見える化につながった。

中学校3年生がポートフォリオを紹介

小学生の時にポートフォリオに出会った水津真稀さんは現在中学校3年生。将来は医師になりたいと考えている。現在も継続している小学生の時からのポートフォリオをプレゼン。自分が苗や種から育てた野菜を使った野菜カルタ、小学校5年生の時に材料から制作した学習机、卒業生代表としてまとめた式辞、絵画コンクールでの受賞作品ほかをエピソードと共に伝えた。自分の良さは「野菜作りが好き」「異年齢とのコミュニケーションがスムーズ」など10以上列挙されている。

ポートフォリオで自己効力感が高まる

水津さんのポートフォリオとプレゼンを見た前述の林医師は「彼のプレゼンを聞いているだけですごいな、とわくわくし、彼のことに興味を持った。ポートフォリオが心のエンジンとなり、彼の自己効力感を高めている。ポートフォリオを継続することでこれまでの経験をポジティブに捉えることができるようになるのではないか。これまでの経験から、気持ちが折れている人で回復する人の共通点は、好きなものや好きなことがあるなどの内発的な動機付けを持っていること。それをポートフォリオやプロジェクト学習が後押しして自己効力感を高める可能性があると感じる」とコメントした。

教育家庭新聞 新春特別号 2024年1月1日号掲載

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