GIGAスクール構想により、学習者用端末は小学校低学年から必須となった。低学年から安全かつ効果的に活用するためには保護者の理解や対応が重要である。
教育工学、ICT活用、教師教育などを専門とする八木澤史子氏は、「特に低学年の情報端末活用は保護者と協力体制を築くことが必要」と語る。その方法を聞いた。八木澤氏は元小学校教員で自身も2人の子供の保護者でもある。
八木澤史子 千葉大学教育学部助教
八木澤氏は「未就学期の児童は家庭で情報端末(※)を遊びなどで利用している。しかし学校が始まると、端末は学習で利用するものとされ、これまで日常的に行っていた利用を制限されることもある。低学年の早期に、このギャップを埋める必要がある」と考え、低学年を対象に情報モラルに関する出前授業を行った。
※インターネットが利用できるテレビやスマートフォン、家庭所有のPC等。2024年度こども家庭庁の調査によると5歳の未就学児の8割、小学校低学年にあたる6~9歳の9割がインターネットを利用
出前授業は公立小学校1年生全クラスを対象に、1学期の参観日に実施(2024年度)。
情報モラル教材「事例で学ぶNetモラル」(広島県教科用図書販売・以下「広教」)のアニメーションを視聴しながら、望ましい活用方法、個人情報保護、身体への影響の配慮について、自分で考えたり周囲と話し合ったりしながら進めた。
家庭での使い方やルールをふり返り、今後、配慮すべき点について、保護者も含めて話し合った。参観日に行うことで、保護者も情報モラルについて理解を深めることができ、子供と話し合うきっかけにもなる。
授業後の保護者会では情報モラル教育を価値づけるため八木澤氏による講演も行った。
後日、講演も含めて全35分程度にまとめた授業動画を、保護者を対象に限定公開で配信。さらに動画視聴による意識の変容を比較するために、視聴前後でアンケートを行った。
すると、授業動画視聴前の保護者は「決まり」「約束」を守ることに最も関心があったが、視聴後はこれらに加えて「自分で使い方を考えながら使ってほしい」が特に増加。子供と情報端末の活用について話し合うきっかけになったという回答も9割に上った。
八木澤氏は「情報端末の自律的な活用が求められている。そのためには、家庭において、低学年が自律的に活用するというイメージを醸成する必要があり、保護者も共に学び、そのイメージを共有する機会を提供することが大切。情報端末を遊びに使うことを禁止する必要はなく、使いすぎないことが重要。ルールはそのためにも必要」と話す。
さらに、昨年度出前授業を行った1年生が2年生に進級した際にも出前授業を実施。学校の実態を踏まえ、端末と目の距離や姿勢など健康面を中心に行った。保護者への授業動画の配信も継続。「学校の取組の発信は継続が重要」と考えているためだ。
今年度は学校からの要望で、同校の4年生を対象にした出前授業も追加。内容は持ち帰り学習と調べ学習の際の著作権、フェイクニュースなどで、参観日に行った。
八木澤氏は「保護者アンケートによると、学年が上がるにつれて情報モラルについて何をどう伝えればよいのかわからないという傾向が見られた。低学年の保護者以上に、共に学ぶ機会を必要としているようだ。
発達段階によって求められる情報モラルは変わる。継続して行うことで実態に応じた内容を行うことができる。また、その内容を保護者にも発信することが大切。
情報モラルに関する専門家という第三者からの発信は、学校教員からは伝えにくい内容を盛り込むことができる」と語った。
八木澤氏は、出前授業で利用した教材「事例で学ぶ Netモラル」の開発に小学校教員時代から携わっている。
教材では、「日常生活で起こっているが、実はよく仕組みを理解していないシチュエーション」「日常生活で起こりそうだが、実際に起こると困るシチュエーション」などの様々な状況をアニメで疑似的に体験することができる。
本内容はJAET大会研究発表で今年度の実践を含めて報告する。
なお情報モラル教育に関する出前授業は随時受付中。
詳細=児童・生徒向け 情報活用能力育成サポート教材「事例で学ぶ Netモラル」
問合せ=☎082・291・1088/
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年10月20日号