教職員が安全・安心かつ快適に業務を行える環境の実現は、教職員の業務改革の基盤である。東京都府中市では、約2万1000人(教職員約2000人・児童生徒1万9000人、小学校22校・中学校11校)が利用する次世代校務DX基盤を構築。今年1月より教職員環境の運用を、4月より児童・生徒環境を含めた全面展開を開始している。
6月1日、本基盤構築を担当した内田洋行が発表するとともに NEW EDUCATION EXPO 2026東京会場でも説明会を実施。府中市は、本イベント2日目の学校ネットワーク構築をテーマとしたセミナーに登壇。環境更改に至った経緯とゼロトラスト導入の効果を報告した。本セッションには草加市教育委員会と兵庫県南あわじ市教育委員会も登壇し、ゼロトラストに対応したネットワーク環境構築と運用の成果について話した。

府中市では、ゼロトラストの考え方に基づき、ネットワーク(NW)構成を抜本的に見直し。NWとセキュリティをクラウド上で一体運用するSASE(Secure Access Service Edge)を中核としたゼロトラスト型NW環境を構築した。
SASEの技術により通信経路を常時暗号化。利用者や端末の状態を確認したうえでアクセスを許可する仕組みとした。
通信そのものを保護する設計で、盗聴や不正侵入リスクも低減。教員用端末は24時間365日体制で監視され、サイバー攻撃への備えも強化されている。これにより、教職員用端末1台で校務と学習の双方を校内のどの場所でも行うことが可能になった。
内田洋行の河合副事業部長(ネットワークサポートセンター)は、「すべての通信(アクセス)を疑い、その都度検証するゼロトラストは、単なるセキュリティ対策ではなく、セキュリティの新しい考え方。学校現場を変える大きな基盤である。ゼロトラスト環境で重要なのは運用。弊社ではゼロトラスト環境の構築・運用について大規模自治体から小規模自治体まで幅広く対応している」と語る。
教職員用端末は登録済み端末のみから利用可能とするデバイス認証(デジタル証明書)及び顔認証とPINコードを組み合わせた多要素認証を導入。
児童・生徒にも、端末ごとの証明書認証(デジタル証明書)を導入し、安心してクラウドサービスを利用できるようにした。
Microsoft 365 Education A5やGoogle Workspace for Educationなど複数環境のアカウント情報や権限を統合し、1つのIDで各種サービスへアクセスできるシングルサインオン環境を実現。これによりログイン時の煩雑さを解消している。
ダッシュボードも構築。複数事業者の教材について、教科別やプラットフォーム別、教材別の活用状況などを学校・学年・教科単位で可視化・分析ができるようにする。
将来的には学習履歴やICT活用データと連携し、エビデンスに基づく政策立案を支える基盤へ発展させる構想だ。
生成AI(Microsoft 365 Copilot)を活用した校務支援も開始。市内すべての小・中学校において、各校7人の教職員が利用できるようにした。校長、副校長、主幹教諭、ICT担当教員などを想定している。
さらにMicrosoft Copilot Studioを活用し、校内の知見を活かせるAIエージェントの構築を進める。
校内規定や申請手続き、セキュリティポリシー等に関する質問に即座に回答できる仕組みを想定しており、教職員が必要な情報へ迅速にアクセスすることを目指す。

府中市教育委員会教育部指導室 隅内裕室長補佐
本市では、学習者主体の教育活動を意識した授業構成とし、学校が主体的に様々な支援員を配置できるようにするなど、教職員の働き方改革と教育の充実に取り組んできた。しかしこれの唯一の課題が境界分離型であるNW構成であった。
教員は端末を2台所有し、校務を行えるのは職員室のみ。データ移動のために各校に5本のUSBメモリを配備していたが、学期末や年度末などの繁忙期には順番待ちが起こっていた。
回線速度も課題で、一人1台端末配備後も児童生徒用端末がうまく動かず、授業活用に支障があった。
そこで、文科省ゼロトラストセキュリティに関する要素技術を満たす環境を整備することとし、職員室を始めとして無線環境を構築。別プロジェクトで敷設済のインターネット回線(10Gベストエフォート)につなげることを想定して公募型プロポーザルを実施した。
NW構築委託契約の際にGIGAスクールサポートセンター、ICT支援員、ポータルサイトも含めて一括調達。運用保守委託も含めた。
NWを統合したことでデータ移行がスムーズになった。
ダッシュボードについては、まずはデジタル教科書活用状況を可視化したいと考えている。
コールセンターを一元管理し、よくある質問は適宜ICT支援員と連携している。一括調達だからこそ上手く連携が取れたと考えている。
8か月という短い納期であるにもかかわらず安定稼働までは早かった。
2日目のセッションで府中市と共に登壇した埼玉県草加市、兵庫県南あわじ市もゼロトラスト環境を構築している。構築前の課題と導入後の成果を報告した。
草加市教育委員会 指導課 秋本 貴弘主査 兼 指導主事

草加市教育委員会 指導課 秋本 貴弘主査 兼 指導主事
草加市(小学校21校・中学校11校)では、校務系・校務外部系それぞれにストレージをもっており、校務外部系の容量が圧倒的に増えていた。その理由が、NW分離環境が不便であり、データ移動のしにくさにあると考えていた。
不具合が生じるたびにサーバを設置した市内施設に出張する必要もあった。
加えて、校務用端末からデータを取り出すのは管理職のみとされており、校務用端末で作成した教材を取り出すために管理職端末に行列ができる、という状況であった。
そこで、教育DXにふさわしいNW環境について真剣に検討。
データそのものを紛失しても内容がわからないようにするというゼロトラストの考え方が校務と教務の一体化に適しているということになり、仕様書の作成に着手。
ポイントは次の通り。▼校務端末と教育用端末の一本化 ▼センターサーバへの専用線廃止 ▼フルクラウド化、ゼロトラスト化 ▼校務支援システムの内容の充実 ▼教育情報に関するセキュリティポリシーの準拠 ▼教育の情報化を見据えた学習状況の把握 ▼Windows11への対応
検討の結果、認証基盤をMicrosof Entra IDとしたクラウド型(SaaS)の基盤システムとし、クラウド型の統合型校務支援システムを導入することで、シンプルなシステム構成を実現。自宅でも職員室・教室と同じように端末を利用できるようになった。
南あわじ市教育委員会 学校教育課 山口 実富雄主査/武田 照彦 主幹 兼 学校教育指導主事

南あわじ市教育委員会 学校教育課 山口 実富雄主査
ゼロトラスト環境を構築してから3年を経ている南あわじ市及び洲本市(小学校15校・中学校5校)。既に校務も学習もクラウド環境を前提として学習や業務が行われている。
ゼロトラスト環境の要素となる多要素認証、リスクベース認証、シングルサインオン、通信経路の暗号化、Webフィルタリング、MDM、アンチウイルス、データ暗号化、EDR、IDS/IPSについてはCiscoとMicrosoftにより構築している。
本環境整備以前は市役所経由のセンター集約型であり、画面のフリーズやアプリが立ち上がらないなど、授業に支障があった。原因もどこにあるのかがわからない状況であった。
そこでNW環境を見直し。各校はローカルブレイクアウトで直接クラウドにアクセスできるようにし、「上限なし」の1

南あわじ市教育委員会 学校教育課 武田 照彦 主幹 兼 学校教育指導主事
Gbps回線に加えてサブ回線(1Gbps)も契約。なお3年を経た現在は、両回線実測の上、「上限なし」の1Gbps回線のみで運用している。
この判断がすぐにできたのは、教育委員会からネットワーク環境を可視化できるように構築したためだ。
APごとの接続やトラフィック状況や利用ピークなどがすべてリアルタイムで確認でき、各校の利用状況を把握できる。
さらに窓口も一本化を図り、トラブル対応を専門家に迅速に任せることができるようにした。
ICT支援員も重要だ。教育委員会がどんなによい仕組みを整備したとしても、現場で使われなければ意味がない。教育委員会の思いや意図を学校に伝える役割がICT支援員であると語った。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2026年6月22日号掲載