都立高校の学びを根本から見直す大規模改革に着手している東京都。そのうち専門高校では、機器更新や設備整備をはじめとする教育内容の大幅強化が進み、特色を都として積極的に発信することで学校の価値向上と進路の多様化に対応している。
産業界との連携も強化され、実践的な学びの幅が広がるなか、都立工科高校に焦点を当てた「都立工科高校ドリーム・フェスタ2026」と、都立商業高校に焦点を当てた「NEXT都立商業高校セッション あなたの商業高校のイメージをアップデート」を取材した。
8月9日、「NEXT都立商業高校セッション あなたの商業高校のイメージをアップデート」が開催され、商業高校の教員と卒業生のパネル討議や模擬授業、現役高校生によるプレゼンテーションが行われた。

都立商業高校の学校長と卒業生、研究者が商業高校の魅力を語った
<パネル討論>
名古屋産業大学・石山教授、都立芝商業高校・山田校長と同校の卒業生で現在国学院大学経済学部1年の持井さん、都立第三商業高校・智片校長と同校の卒業生であり教員でもある鹿野さん、都立商業高校出身で現在、上場企業㈱ガーデン代表取締役の川島さんに、都立荒川商業高校出身のタレント・みやぞんさんが加わった。この日の司会を務めたアナウンサーも商業高校出身だ。
石山教授は「今の商業高校の学びを知ることで将来の選択肢が広がる。都立商業高校生の約半数が大学や専門学校に進学している。商業高校生は志望動機が明確なことが多く、会計やマーケティングなどの専門知識があり、資格も取得しているため、推薦入試や総合型選抜入試で強みを発揮している。進学後も目的をもって学んでいる」と語り、山田校長も「商業高校の授業の3分の1はビジネスに関する専門科目。PCスキルや簿記、ビジネスマナーや商品流通の仕組みの理解など、ビジネスや経営、起業の知識を在学中に身に付けることができるため、就職希望者の就職率はほぼ100%」と説明。
川島社長は「商業高校は地元の企業と連携した学びや取組も多く、就職に強みを発揮する。私が在校当時は日銀や日本経済新聞などの求人があった」と進路の広がりを指摘。
持井さんは「商業高校はチームで協力して企画を考えるなど、プレゼンテーションの機会が多い。大学の推薦入試の際にこれらの経験が役立った。進学後も、経済学部の内容を高校時代にある程度学んでいるため、楽しく学ぶことができた」と語った。
起業についても商業高校の学びは役立つ。
川島社長は「企業と連携した授業は社会体験に似ており、社会のリアルの一端を学ぶことができる。イトーヨーカドーやセブン‐イレブンの創業者が都立商業高校出身だったこともあり、著書に触れながら経営者の考え方を学ぶきっかけになった。高校時代に起業したいと考えるようになり、起業の際には簿記の知識が役立った。会社には経営企画部や経理部、システム部と多くの部署があるが、どの部署であってもビジネスの授業は役立つ」と話す。司会者も「フリーアナウンサーの登録・派遣会社を起業する際、簿記やマーケティングなどのビジネスの授業が役立った」と述べ、みやぞんさんも「起業の際に簿記の知識があると、仕入れ値や売値を具体的に検討できる。赤字の際の予行演習もできた。高校時代はアルバイトにもすぐに合格した。商業高校で学んでいるとマナーやスキルが身についていると評価されやすいようだ」と話した。
体験授業では市場分析ツール「STP分析」について学んだ。
これはSegmentation(市場細分化)、Targeting(狙う市場の決定)、Positioning(自社の立ち位置の明確化)の頭文字で、製品・サービスの価値や価格などを整理し、意思決定の参考にする際に利用されるもの。
第一商業高校の林敏昭教諭は「前任校である芝商業高校では東京タワーと連携し、外国人観光客に上まで上がってもらうためのアイデアを検討した。ソフトバンクと連携した際は若い投資家を増やすアイデアを検討した。その際にSTP分析を利用した」と説明した。

「何を食べるか」ではなく「誰とどう食べるか」に焦点を当てて商品を企画・開発した江東商業高校
江東商業高校の3年生は、昨年度、都立商業高校が一堂に会する「ビジネスアイデア発表会」(東京都商業教育研究会主催)で最優秀賞を獲得した商品企画「キミと半分こ」をプレゼンテーションした。
ランチパックのバレンタイン限定商品企画で「競合商品はほとんどがご褒美スイーツとしてモノの価値を追究している。本企画ではコミュニケーションの充実を目的に、『共有・共感』を前提とした製品開発やプロモーションを検討した」と説明。対象店舗や販売期間、PR方法などの販売戦略も考えた。

第五商業高等学校の継続的なビジネスについて発表
第五商業高等学校は、全国の商業高校で行われている企業との商品開発の多くが単発で終わるなか、先輩から受け継ぎながら挑戦する継続的な取組について3年生が報告した。
このうち、コーヒー会社と連携したドリップパック事業は今年で4年目。豆の配合や販売数、販売場所をアップデートしながら継続している。東京都商業教育研究会の支援制度を活用して15万円の資金も調達しているという。
発表者は「マーケティングをさらに学ぶために進学し、社会課題の解決に貢献できるようなビジネスで起業したい」、「地元の企業を応援できるような金融機関に就職したい」と話した。
発表を聞いたみやぞんさんは「芸人としても、他と異なる価値をいつも考えている。高校時代の学びが身についているせいかもしれない。商業高校出身でよかったと思うことはたくさんある」とコメント。司会者も「とっさのコミュニケーション力が高い。さまざまな企業と連携・協力したり発表したりする経験が豊富なためでは」と、商業高校で培われる実践的な力を指摘した。
商業高校の学びは、資格やスキルだけでなく、企画力・協働力・コミュニケーション力といった「社会で価値を生み出す力」へとつながっている。
東京都教育委員会は8月2日、小中学生と保護者に都立工科高校の魅力を伝える「都立工科高校ドリーム・フェスタ2026」を開催。22校の工科高校が参加し、在校生による実演、展示、ドローンやロボットなどの先端技術体験を通して、工科高校の学びを体感した。在校生が自校の魅力を語るPRタイムや、教員と直接話せる個別相談ブースも設置。進路選択を考える中学生にとって貴重な機会となった。

来場者の注目を集めた海洋未来都市構想の展示高さ700メートル以上が日常生活ゾーンだ
会場入り口には建設業界ブースが設置され、「AI時代でも人にしかできない仕事」「巨大構造物をつくる感動」などのテーマ展示が来場者の注目を集めた。
特に、シミズ・ドリーム海洋未来都市構想「GREEN FLOAT」は多くの子供たちが足を止めた展示である。海に浮かぶ環境アイランドの構想だが、担当者によれば既存技術で実現可能とのこと。
このほか、アーチ橋や斜張橋の仕組みを理解できる展示など、建設業界への興味を刺激する内容が並んだ。
各校が自校の魅力を3分で伝えるプレゼン大会では、練馬工科がベストPR賞を受賞した。
同校は、工業科のエンカレッジスクールとして希望の進路を実現できること、数多くの資格取得を目指せることを紹介。さらに、受験者から選ばれる理由として以下の6点を挙げた。 ①第一種電気工事士合格者数全国第2位 ②授業で運転免許取得が可能 ③海外スタディツアー ④1学年2人担任制 ⑤快適で美しい校舎 ⑥ものづくり教育
最後に「人として成長できる環境」であることを強調した。
都立工科高校は学校ごとに学べる分野が大きく異なる。特徴的な学科を以下に紹介する。
【デュアルシステム科】(総合工科・葛西工科・多摩工科・六郷工科)学校で学びながら企業実習を行い、技術・技能を身につける。卒業後すぐに働ける力を育成する。
【産業科】(橘・八王子桑志)工業高校と商業高校が統合して誕生した学科。ものづくりから流通・販売までを横断的に学び、社会に価値を届ける力を養う。
【自動車系】(墨田工科・六郷工科・総合工科)自動車の基礎・整備・計測・制御・製図などを専門的に学べる。
蔵前工科には、ロボットシステムインテグレータを目指せる機械科ロボティクスコースや、都内唯一の設備工業科を設置。空調設備、衛生・防災設備など建設業の基盤を学び、社会に貢献できる人材を育成する。
北豊島工科は全国初の都市防災技術科を設置し、工学×防災を学ぶ。
中野工科は都立で唯一、食品工業を専門に学べる食品サイエンス科を設置。
杉並工科のIT・環境科は大学進学を視野に、ITスキルと環境リテラシーを身につける学科としてスタートしている。
各校には多様な専門分野があり、進路の選択肢は幅広い。

モビリティ体験コーナーではタイヤ交換や電気自動車の乗車を体験できる
墨田工科の進路指導部によると、同校は「進路実現率は100%」。この継続を目標としている。2025年度の求人依頼は2896社・6306件と年々増加。工科高校生は技術を身につけて入社するため即戦力として評価が高く、大手企業からの求人も多いという。簡単に辞めず長く勤める傾向も評価されている。
キャリア教育は1年生の1学期からスタートする。1年は「調べて研究」、2年で「活動し考える」、3年で「自己実現」という段階的な指導を実施。朝学習、資格指導、インターンシップ、部活動、生活指導など多面的な教育で、企業が求める人材を育成している。
都立工科高校の求人倍率は61倍(2025年度・16校集計)。工科高校で身につけた専門性は社会から高く評価されている。
大学や専門学校に進学する生徒は約50%。
取得できる資格も多く、資格取得にかかる費用を最大半額補助する「工科高校資格取得アシスト制度」など、生徒の挑戦を支援している。対象資格は工業系分野の約150種類で、年度につき1資格まで補助される。
蔵前工科・機械科ロボティクスコース3年の男子生徒は、工科高校と商業高校で迷ったが、計算が苦手でもものづくりが好きだったため工科高校を選んだという。
資格が多く取れる点も魅力と語り、課題研究では3Dプリンターを使った研究に挑戦。将来はITと義手の研究を志望している。
公開座談会では在校生から次のようなメッセージが寄せられた。▼手に職を付けられることが魅力。興味を突き詰めてほしい ▼モチベーションが成績にもつながる。何をしたいかで高校を選んでほしい ▼将来の夢を見つけられる場所 ▼頑張りたいことを評価してくれる学校
工科高校が「自分の可能性を広げる場」であることが伝わる言葉だった。
工科高校の学びを”体験を通して理解できる”ドリーム・フェスタ2026では、専門分野の多様性、確かな進路実績、在校生のリアルな声を通じて、工科高校が「未来の選択肢を広げる教育」であることが示された。

座談会では在校生が工科高校の魅力を語った
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2026年8月24日号掲載