求人倍率の高さでしばしば評価される高等専門学校だが、熊本高等専門学校は特に高く、本科は40倍、専攻科は100倍以上にものぼる。半導体教育や情報教育の強化が認められ、定員も増えているという。同校の情報教育セキュリティセンターの副センター長である藤井准教授と学生課の一鷓課長に、同校の教育の特色とそれを支える業務DXについて聞いた。

一鷓課長(左)と藤井准教授(右)
本校は、2009年10月に熊本電波工業高等専門学校と八代工業高等専門学校が高度化再編し、熊本高等専門学校に統合されました。前者のあった場所を熊本キャンパス、後者のあった場所を八代キャンパスと呼んでいます。
熊本キャンパスでは、特に半導体を始めとする情報技術やAI・データサイエンスなどを課題解決に活かす情報探究系人材(情報技術を中心に課題解決を行う)の育成に取り組み、八代キャンパスでは、生物・化学や建築、機械設計において情報技術を駆使できる情報融合系人材(専門分野+情報技術を組み合わせる)の育成に取り組んでいます。

写真は熊本キャンパス
本校は、2025年度に新設された大学・高専機能強化支援事業(高専機能強化支援事業)に採択されており、今年度から新しい教育体制で新入生を受け入れています。また2022年度から佐世保高専と共に半導体人材育成の拠点校として各高専と連携して活動しています。
大学や企業との連携についても積極的に取り組んでいます。大学連携では、本校専攻科と大学工学部の両方に学籍を置き、大学の学位取得と本校専攻科修了を並行して目指す取組を行っています。現在連携している大学は、九州大学工学部(編入定員20人)、熊本大学工学部(編入定員5人)となります。
企業やOBも利用できるコワーキングスペースや、試作品製作のためのファブリケーションラボも設置しており、協創の場としての役割も果たしています。
学校の特色化が図られる一方で、業務のDX化が遅れており、主に次の課題がありました。
【課題1】学生の安否確認と各授業の出欠管理
現在本校では学生との日常的な連絡手段としてTeamsを使っており、毎日さまざまなメッセージが飛び交っています。一方で安否確認のような、非日常的でかつ全員に確実に届けたい事柄については別の連絡手段を確立しておく必要があると考えていました。
また、授業開始時に教員が点呼を行っていましたが、3~5分程度の時間を要しており、授業終了後、教員は確認した結果を教務システムに手入力していました。
学生が欠席したとしても、欠席理由がきちんと届いているのか、担任や科目担当教員にはすぐにはわかりませんでした。
欠課時数が一定数を超えると単位が取得できなくなるため、欠席の多い学生への迅速な連絡も必要ですが、これも教員が都度計算して、学生に注意を促していました。
【課題2】成績通知書等の郵送について
本校では、年4回、成績通知書等の書類を学生の人数分(両キャンパス合わせて1400人超)を印刷し、各保護者に郵送していました。郵便物の封入作業には、多くの人手と時間が必要です。
【課題3】保護者とのコミュニケーション
学生には主にTeamsを利用して連絡をしていますが、保護者には、電子メール、もしくは電話で連絡を行っていました。電子メールの場合、送信相手が内容を確認したかどうかの確認ができず、加えて、SNSの広がりにより、電子メールを活用する保護者も減っていると思われます。
実際に、電子メールによる連絡システムの登録率は7割くらいでした。電話連絡の場合も不在が多く、連絡がなかなかつきませんでした。一方で、保護者から学校への連絡も、電子メールや学校に電話で連絡いただくしかありませんでした。
本校では、前記の問題を解決するため、スマートフォンで利用できるデジタル学生証の導入を決め、検討の結果、デジタル学生証「MyiD(マイディ)」を選定することになりました。国立高専機構が実施する高専改善事業(高専DX化推進事業)の支援を受けることもできました。

さまざまな機能をもつ
デジタル学生証「MyiD」
MyiDの導入により、前述の課題をほぼ解決することができました。
7月28日16時27分に発生した「令和8年度熊本地震」が発災後の安否確認では、MyiDに標準搭載されている安否確認システムがとても役立ちました。定期試験期間中のため発災時には約2/3が下校していたにもかかわらず、発災から1時間後に87%、2時間後に96%の学生の安否を確認できました。
安否確認システムには日常点検機能もあり、学生が1時限目を無断欠席した場合、当該学生の情報を担任に自動的に通知する機能があります。学生に対しても欠席理由を届けるように自動的に通知されます。
また、MyiDにはデジタル保護者証機能があります。学生にのみの通知では不安な場合、保護者にカーボンコピーで併せて通知することも可能です。もちろん保護者だけに通知することもできます。また、Push通知の閲覧状況も送信者がシステムで把握できるため便利です。
本校の各教室にはビーコンが設置されており、学生は始業時間直前に、デジタル学生証アプリを教室で開き、ビーコンの電波を受信できる範囲内で出席登録をすることで、出席になります。学生はその場で出席登録できたかを確認することも可能です。欠席する場合は、デジタル学生証アプリの連絡機能で学校に連絡できます。デジタル学生証で、学生自身が常日頃から出欠情報を確認できるようになり、授業への出席に対する意識が高まり、欠課を防ぐ一助にもなっていると思います。
出欠状況については、デジタル保護者証でも確認することができ、学生・保護者・学校の三者のつながりと保護者の安心感に貢献しています。
アカウント利用料については、校内で検討の結果、学生・保護者の負担としました。特に、保護者の理解を得るため、丁寧に導入のメリットを説明しました。
MyiDの導入により、学校からの連絡や通知に対して保護者もよく目を通していただき、連絡事項がある時もスムーズなやりとりが可能になりました。
MyiDはクラウドシステムのため、校内にサーバの設置は不要です。導入後の保守に係る人的コストや機器更新費用が不要な点は大きなメリットです。
教室に設置するビーコンの初期導入費用は、高専DX化推進事業の支援を得、予算を確保することができました。
デジタル学生証ではコード表示を使って電子錠などさまざまなシステムと連携することが可能です。本校学生は、図書館の入退館や本を借りる際にもデジタル学生証を利用しています。今後、ワーキングコモンズや学生寮の入退管理システムと連携するなど、MyiDを基軸とした、さらなる業務DX化を検討しているところです。MyiD導入をきっかけに、業務DX化の大いなる前進と、教育環境の改善を日々感じています。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2026年8月24日号