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教育ICT

学びの主役は「自分」 全学年一斉に単元内自由進度学習~加賀市立庄小学校・石川県

2024年11月7日

加賀市立庄小学校では単元内自由進度学習「マイプラン学習」に取り組んでいる

加賀市立庄小学校(石川県・野田美由紀校長)では昨年度より単元内自由進度学習「マイプラン学習」に取り組んでおり、今年度は2学期と3学期に1回ずつ、全学年一斉に行う「マイプラン学習」に挑戦している。

野田校長は「子供はもちろん教員も大きく成長した。学力も自己効力感も伸び、教員の教材研究に対する熱量がさらに高まった」と話す。

10月末には2日間にわたり全国から教育長や教育委員会、教員など約180人が学校公開の視察に訪れるという同校のマイプラン学習の様子を紹介する。

 

「マイプラン」で教員も試行錯誤 日々感動が生まれる

同校の廊下や図書室、図工室、音楽室には自由進度で学ぶための「教材」があふれている。

学習計画表を見ると、

  • 2年生は「算数11時間」「国語8時間」
  • 3年生は「算数9時間」「理科7時間」
  • 4年生は「算数10時間」「国語4時間」
  • 5年生は「算数13時間」「社会7時間」
  • 6年生は「社会6時間」「算数9時間」

これらを組み合わせて自由進度で展開していた。

さらに算数では学習範囲を全学年で図形領域に統一し、他学年の教材も利用できるようにしている。それに加えて6年生は算数で習熟度別コースも設けていた。

この挑戦は今年度からのもので、昨年度は算数を主体として国語の小単元を組み合わせていたそうだ。今年度は教科の幅を広げ、2学期と3学期に1回ずつ、23週間を「マイプラン学習」のタームとしている。

「マイプランは何のためにやっているの?」と教員が3年生に問うと、児童は「自分で行動できるようになるため」「困ったときにどうしたら良いか考える力をつけるため」「最後まであきらめないでやり抜くため」と答えた。これらの目標も、日々目につく場所に大きく掲示されている。

 

ふり返りの大切さや身につけたい力を全校で日々確認

 

学習は「昨日のふり返りでいいなと思ったものを紹介するね」と、具体的なふり返りが求められていることを皆で確認してから始めた。ふり返りを毎時間紹介することは質の高まりにつながっているようだ。

 

ふり返りの質を高めるため、毎時間前時の「良かったふり返り」を共有

 

児童は端末を中心にデジタルツール「学習カード」で学びを進め、教員自作の解説動画を見たり教科書の二次元コードに格納されている動画を見ながら問題を解いたり、図形領域のワークに取り組んだり、自分が立てた学習計画に沿って各自のペースで進めている。

廊下の立体パズルの前で端末を使って学習している児童は「実物を触りながら解くとわかりやすい」、図書室にいる児童は「図鑑を見ながらまとめたいからここに来た」と話す。

予定より早く終わった児童は計画を作り直しており、学習のまとめとして円の面積の求め方の説明動画作りに取り組む児童もいた。動画制作は、発表機会の確保の1つでもある。

 

廊下や音楽室、図書室、図工室など学校中が学びの空間 児童は自分の学習計画に沿って様々な場で学びを進める

 

教員は常に端末を携帯。児童から成果物が届いたり質問が届いた際に即対応するためだ。

1年生のある児童は授業の終わりに「つくろうこーなーではよくかんがえたらつくれました。かたちあてこーなーでは、はこのなかみをさわってくふうしました。でも2こわからなかったです」とこの日の学びをふり返り、満足そうだ。

研究主任の永井教諭は「教科の学びと自律した学び手の育成という2つのねらいを達成するため、一斉授業と単元内自由進度学習を意図的に組み合わせて単元をつくっている」と話す。

SCTN質問紙によると「授業を進めるのは先生ではなく自分」と感じている子は80%、「学習のペースを自分で選んだり決めたりしながら学んでいる」と感じている子は85%。「失敗を繰り返しながら問いや課題を解決している」「他の人の考えや意見を自分の学びに活かしている」と考えている子はいずれも84%。

さらに「主役度」を評価する加速度計による分析によると、マイプラン学習の方が一斉授業よりも主役度、安定度、活発度が高い。全国学力学習状況調査でも昨年と比較して明らかな成果が出ている。

 

「すべての子供を伸ばす学び」へ

日課を見直して時間を確保 野田美由紀校長

野田美由紀校長

教育委員会で指導課長をしていた2022年、天童中部小学校(山形県)の自由進度学習を見て衝撃を受け、「ぜひ市内の学校で取り組みたい」と考えていたところ、昨年度より本校校長として就任。研究推進校として「子供に委ねる学び」に取り組むこととなり、自由進度学習しかないと考えて単元内自由進度学習について研究している佐野亮子先生(東京学芸大学)に講師を依頼して取り組み始めました。

本校では、同じ進度で子供に委ね、最後は一斉授業でまとめる「スタンダードスタイル」と、教科も進度も学び方も自由とする「マイプラン学習」の2つに取り組んでおり、まず「スタンダードスタイル」から始めました。当初は、わからない子供は教員の周囲に集まって部分的な一斉授業になる、好きな人同士でただ集まるだけで学びや考えの変革が起きない、協働の質が高まらないという失敗もありました。

ところがマイプラン学習を思い切って始めたことで、子供は次第に「自分の学びの質を高めたい」「誰と学ぶことで学びが広がるのか」と考えるようになり、相乗効果でスタンダードスタイルの質も向上。それに影響されるようにマイプラン学習の質も高まりました。

これには教員の試行錯誤による介入や工夫が大きく寄与しており「こんなふうに取り組んだらふり返りの質が高まった」「多様な学び合いになった」等を日々職員室で共有しています。

一斉授業に参加できなかった子、ノートを取れなかった子がマイプラン学習で自分なりのペースで学びを進めることができるようになっていくのです。

「今日の導入はうまくいった」と大喜びで職員室に飛び込んでくる教員、「これまで学びに前向きではなかった子が自らノートを取り出した」と涙ぐむ教員など、感動の中で日々過ごしています。

教員の教材研究の時間の確保のため日課も見直しました。モジュールタイムをなくして15時に全員下校するようにし、さらに毎週水曜日は1345分に全員下校。その後は教材研究の時間としています。研究授業やそのための指導案もなくし、マイプラン学習の作成に注力しています。

全校が学びの空間になるように物品も整理して空き教室を増やしました。「すぐに助けに行かない」「児童が失敗する経験を奪わない、試行錯誤を邪魔しない」、そのために「すぐに大仰に褒めない」など教員としての在り方も職員室で日々共有しています。

当初は不安に感じていた保護者もいましたが、教材の質と前向きに学習に取り組む児童を見て今では感謝の声が届いています。今後は「誰ひとり取り残さない学び」から「すべての子供を伸ばす学び」へ進化したいと考えています。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年11月4日号掲載

 

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