「ゼロから1をつくる」「社会をつくる」主体となることを目指している立命館宇治中学校・高等学校(京都府)では今年度の高校3年生の卒業証書を再生紙で作成する「卒業証書作成プロジェクト」が進行中だ。
その一環で古紙から再生紙を成形する乾式の製紙機「PaperLab(ペーパーラボ)」を販売しているエプソン販売と、社内のリサイクル環境向上の一環でPaperLabを導入している島津製作所と連携。環境教育やリサイクルに興味を持つ同校の中高生が7月28日、島津製作所を見学した。
卒業証書制作プロジェクトのきっかけは、現在高校3年の遠藤誠也さんが昨年度、生徒会役員として福岡県立中間高等学校のSDGs委員会と交流したことから始まった。
中間高校では古紙を北九州地区で再生し循環させる地域共創プロジェクト「KAMIKURU(カミクル)」(エプソン販売)に参加しており、そこで卒業証書を再生紙により制作。このプロジェクトの中心となっているものが、その場で古紙を再生できるPaperLabである。
中間高校のような取組を立命館宇治中・高でも実現したいと考え、校内で収集した古紙を、PaperLabがある北九州のKAMIKURUプロジェクトに送付して再生紙を作成した。
当時、PaperLabを設置している企業が京都市内や近郊になかったためだ。卒業証書を再生紙で制作したいと考えたものの、古紙郵送の際にはCO2が排出される=省エネにはつながらないという判断から、当時はイベント時に使用する際の賞状制作にとどまったという。
しかし昨年2月、京都市内に本社がある島津製作所にPaperLabが導入されたことから「再生紙による卒業証書制作が実現できる」と考え、遠藤さんはこれを個人探究のテーマとした。
同校では課題探究の充実を図っており、高校3年では「社会貢献に役立つ」ことを目指した課題を各自で設定して社会に発信する課題探究に取り組んでいる。7月の中間発表で再生紙による卒業証書作成について校内に提案し実施の意向について3年生を対象にアンケートも行うなど実現に向けて準備を進めている。
立命館宇治高で生徒会顧問をしている大西祥太郎教諭も遠藤さんの企画をサポートする。7月14日にはエプソン販売から髙田健二氏を招き、PaperLabについての出前講演を実施。
そこで興味関心をもった生徒を中心に島津製作所のPaperLabを利用する一環で同社の三条工場見学プログラムを企画・募集。SDGsや古紙のアップサイクルに関心のある高校生12人、中学生3人が集まった。
同社では環境経営の実現に向け廃プラスチックや古紙の社内リサイクル等に取り組んでいる。
古紙から再生紙を成形するPaperLabを見学・体験。生徒たちは本仕組みを利用して作成した様々な大きさ・厚みの再生紙を触って確かめた
今後のプロジェクト進行について大西教諭は「1人の生徒から始まった企画が日本を代表する企業からも協力を得られるまでに発展している。3月にはぜひ再生紙の卒業証書を受け取ってもらいたい。今後は全員を対象にするのか、希望者のみにするのかについて、アンケート結果等もみて調整していく」と話す。
遠藤さんは「7月のアンケートでは未回答が6割あり、どのような紙質なのか等の質問も届いた。これらに対応できるような発信をしたうえでさらに調査を進め、より多くの賛同を得られるようにする」と話した。
創業150周年を迎える島津製作所は、もともとは仏具を製作しており、その技術を生かして理科教育機器や様々な計測機器を製作。近年では世界初のTOF-PET装置(乳がん検査に特化した装置)も開発した。
科学技術で社会に貢献するという社是、人と地球の健康への願いを実現するという経営理念の下、環境保全に取り組んでおり、電力はすべて再生エネルギーを利用。社内で排出される廃プラスチックや廃紙のアップサイクルに取り組んでいる。
回収した古紙は部署ごとに計量して見える化した後、その一部をPaperLabで再生。今後は再生紙を利用した対外的なアピールツール製作の拡大も検討しているという。
島津の森を見学
中学校・高等学校との連携は今回が初。
見学会では同社の環境経営について説明した後、生徒は社内リサイクルを行っている現場やPaperLabの稼働状況、敷地内の「島津の森」を見学した。
同社では生物多様性の取組の一環で本社に約8000平米の島津の森を設置。約100種1000本を植樹して京都の伝統文化を継承できる森作りを目指している。
同社の三ツ松昭彦氏(環境経営統括室サーキュラーエコノミー推進グループグループ長)は「PaperLabの導入をきっかけに本日のような企画が実現した。今後、地域貢献活動の一環として一層尽力したい」と語る。
古紙を写真のように繊維化。染色剤を混ぜた凝固剤で紙に再生する
古紙をほぼ水なしで再生紙として生産できる世界初の乾式オフィス製紙機。
古紙を繊維化してさまざまな厚み・色・大きさの再生紙にアップサイクルできる。建物内での機密文書の完全抹消も可能。普通紙の厚みでは1時間に約720枚作成可。
現在、国内で約80台が稼働中。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年8月11日号掲載