「教職員と保護者間の連絡のデジタル化」は文部科学省が作成した「GIGAスクール構想の下での校務DXチェックリスト」において、取り組むことが望ましい項目の1つとされている。デジタル庁が示した「12のやめることリスト」にも「紙での各種調査票等の学校から保護者への配布・回収」が挙げられている。
横浜市教育委員会は、昨年度より「家庭環境調査票」のデジタル化に着手。導入済の教育現場向け連絡システム「すぐーる」の一機能として、提供者のバイザーと共に開発を進めた。現在、希望校において実証中で、次年度より全校展開する予定だ。
毎年、手書きで作成する必要がある家庭環境調査票。保護者や家族構成、緊急連絡先、住所等を記載して学校に提出・保管するものだ。個人情報保護の観点からデジタル化が遅れているものの1つでもある。
横浜市においても、「家庭環境調査票」は児童生徒を通じて紙でやり取りしていたが、書類返却時の誤配付や、児童生徒が家庭に持ち帰る際の毀損・紛失などによる個人情報漏洩のリスクがあった。
そこで、家庭環境調査票のデジタル化を進めるため、同市の全市立学校505校(小学校336校・中学校144校・義務教育学校3校・高等学校9校・特別支援学校13校)で導入している教育現場向け連絡システム「すぐーる」の機能の1つとして、提供者であるバイザーと開発を進めた。
「すぐーる」は2023年度から導入しており、約26万人の児童生徒の保護者が使用し、定着している。当初より保護者の利便性向上・教職員の働き方改革に向けて様々なデータ連携を進める考えで活用・開発を順次進めているものだ。
家庭環境調査票をデジタル化することにより、保護者はスマートフォン等で回答・送信することができ、紙への記入・提出などのやりとりや児童生徒が家庭に持ち帰る際の毀損・紛失リスクから解放される。
進級時には保護者は変更点のみを記入すればよく「毎年同じ内容を記入する」手間がなくなり、保護者にとっても大きなメリットとなる。
共同開発に向け、横浜市では昨年度中に「調査票」機能の利用を希望する実証校を募集。2025年4月から活用を開始しており、実証校の声を反映して2026年度より全校で展開予定だ。このほかこれまで保護者と紙でやりとりしていたその他の書類等も順次デジタル化を進める計画だ。
「すぐーる」の「調査票」機能を安全に運用するため、セキュリティ機能も強化している。
「調査票の記入の依頼」等のメッセージについて保護者はスマートフォン等で確認できるが、調査票にアクセス・回答する場合は二段階認証(顔、指紋、パスワード等)を求めることにより、不正アクセスを防ぐ。本仕組みは他機能にも適用可能として個人情報のセキュリティ向上を図る。
また、学校が調査票の回答内容にアクセスする場合はIPアドレスにより制限が可能。例えば職員室からの操作時のみアクセスできるようにすることもできる。
「すぐーる」は各社が提供する校務支援システムとも連携を進めている(※)。
保護者から届いた欠席連絡情報等は各社が提供する校務支援システム上に通知される。児童生徒の情報は校務支援システムから「すぐーる」に連携されるので、データの一元管理が可能だ。
※デジタル校務(内田洋行)、賢者・賢者クラウド(エスエイティーティー)、C4th(EDUCOM)、Clarinet校務(サイバーリンクス)、SchoolEngine(システムディ)、e3school校務エキスパートjr(システムリサーチ)、evanix(スズキ教育ソフト)、iFuture(東京書籍)
「教職員の働き方改革」と「地域とともにある学校」に関連した取組を支援するための教育現場向け連絡システム。
学校・家庭・地域をつなぐことを目的とし、教育現場で日々行われる各種の連絡業務を集約して教職員・保護者の負担軽減、地域協力者との協働体制構築、地域学校協働活動の推進を支援する。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年9月15日号