JAET大会2日目のワークショップは計6つのワークショップを開催。公財・教科書研究センターは、次期学習指導要領に向けた「教科書活用」をテーマに、ワークショップ「情報活用能力の抜本的な向上へ向けた教科書の構造的な理解と授業デザイン」を実施。講師は教科書研究センター特別研究員である佐藤和紀・信州大学准教授と三井一希・山梨大学准教授が務めた。本ワークショップはこれまでに、東京都港区や愛知県春日井市などでも行っており、次年度も実施を予定している。
佐藤准教授は教科書を「読解」する力を育むためのワークショップを提案。参加者には社会科の教科書見開きを配布(著作権処理済み)した。

教科書紙面で関連のあるそれぞれの要素を線でつないだ
次期学習指導要領では、自己調整学習が一層、重視されている。自ら学ぶためには、教科書の読み方を身につけていることが必要であり、教科書を読解するためには段階的に行うことが有効。多くの場合、教員が『はじめ・中・終わり』などと構造分解を示すことにとどまっているのではないか。これは、子供が身につけた力を発揮する機会を奪っている可能性があり、情報活用能力の育成と発揮が、教科書の読解の質を高めるであろうと考えて本ワークショップを企画した。概ね1時間程度でできる内容なので、学校でも試してほしい。
教科書は「本文」「単元の目当て」「資料」でできており、全国学力・学習状況調査や大学入学共通テストも概ねこの構造が採用される傾向がみられる。教科書の読解ワークショップのステップは次。① 教科書の見開きを1分で把握し隣の人と共有② 教科書の文章、写真やグラフ、図などの情報が何についての説明なのかを考えてラベリングし、隣の人と共有③ それぞれの情報について関連のあるものを線でつなぎ(同定)、隣の人と共有
まずは全体を把握する活動を行う。教科書の見開きがどう構造化されており、子供はどこから読み、どこを読んでいないのか、グラフや図、写真などの非連続テキストから何を読み取れているのか、それは文章とどうつながっており、何が教科書紙面で読めて、何は他のメディアを参照しないと読解できないのか、何を見落としているのかを把握する。
文章を補足したりわかりやすくしたりするものが図やグラフ、写真などの非連続テキスト。それと本文を結びつけることで教科書の読解は一段、深まっていく。
現行の学習指導要領で目標とされている「主体的・対話的で深い学び」のうち「深い学び」に着目すると、「見方・考え方を働かせる」「知識を相互に関連付ける」「情報を取捨選択して考えを形成する」ことが、深い学びのために重要だ。教科書の構造を理解することは知識を関連付けて理解を深めることになり、以後も新しい情報に出会った際にまず分解して構造的に理解する、というスキルの発揮につながるだろう。
教科書は、既習事項が身についていることが前提で構成されている。しかし身についていない場合もある。その際にデジタル教科書が子供たちの手元にあることは有用だ。既習事項や前学年で学んだ内容にすぐにアクセスできるだろう。
課題は現状、デジタル教科書の契約が学年単位となっている点。深い学びにたどりつくためには様々な学年・教科にアクセスできる環境が求められる。今後の検討事項の一つである。
次の学習指導要領では各教科等の本質的理解(中核的な概念等)の獲得に重点を置き、教科書「で」教える方向性が示されている。三井准教授はその授業づくりために役立つと思われる理論を説明した。
中核的な概念等を身につけることの目的は「押さえるべき点を押さえて以後は自分で考えることができる」こと。このような視点で教科書を捉えることが大切だ。
教科書の読解や授業デザイン、学習評価の際に役立つと思われるものの一つが「ICAPフレームワーク」だろう。学びの深まりの度合いは「対話的(Interactive)>構成的(Constructive)>能動的(Active)>受動的(Passive)」の順に高くなるとされている。
もう一つが学習意欲向上のためのフレームワーク「ARCSモデル」だ。学習意欲を高めるための要素として、注意(Attention)、関連性(Relevance)、自信(Confidence)、満足感(Satisfaction)の4点を挙げている。興味を持たせる、関連性に気付かせる、達成できそうだという自信や成果を感じることの満足感を学習過程に盛り込む方法だ。授業づくりの際に活用してほしい。
学習とは、学術的には「経験による行動の変容」である。
その単元の学びを通してどのような行動の変容をもたらすことができるのかをイメージすることがヒントになるだろう。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年12月8日号掲載