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教育ICT

「教養」が問題を作る力に直結する AIと共創するための国語力・倫理・プログラミング教育<坂村健氏 東京大学名誉教授>

2025年9月18日

第18回全国高等学校情報教育研究会全国大会が、8月8・9日に千葉工業大学で開催された。東京大学名誉教授であり、INIAD cHUB(東洋大学情報連携学学術実業連携機構)機構長などを務める坂村健氏が基調講演に登壇。「生成AI時代の情報教育」をテーマに、AIとの共創を前提として大きく変化する今後の教育について語った。


坂村健氏 東京大学名誉教授

生成AIの進化は「日進月歩」ではなく「日進週歩」と言えるほど急速である。

画像生成AIの初期の弱点はすでに克服され、映像制作でのエキストラの代替の生成など実用化が進んでいる。

AIはあらゆる分野・職業においてインターネット以上の破壊的影響力を持ち、失われる職業がある一方で、新たな職業も生まれる。国として再教育と人材流動化の制度整備が急務である。

イノベーションには「意欲」が不可欠

人間は「生きたい」という欲求のもと、身体や脳を進化させ、言語や抽象世界を獲得してきた。一方、AIは大規模言語モデル(LLM)から身体(ロボット)へと逆方向に進化しており、生存競争を経験しておらず欲求を持たない。有能ではあるが、指示がなければ動かない、究極の「指示待ち君」である。

食料や安全、自由といった人間の欲求こそが経済の原動力である。AIが生産を担っても、それを消費する主体として人間が必要である。イノベーションには人間の「意欲」が不可欠だ。

AIの上司として「問題を作る力」を

AIにより教育も大きく変わる。AIが問題解決を担う時代においては、「問題を解く力」よりも「問題を作る力」が重要となる。生徒も教員も従来の教育観から脱却する必要がある。

次の時代の人間の仕事は、優秀な「部下」であるAIに対し、解くべき問題を設定し適切な指示を与える「上司」となること。MITの調査では、AI活用の上位10%は生産性が約2倍に向上した一方で、下位3分の1はほとんど効果が見られなかった。成果は使い方次第で大きく異なるということだ。

そのため学生は社会に出る時点で「上司」としての力が問われるようになる。欧米ではジョブ・タスクベースの採用が一般化しており、日本でもこの傾向は加速する。

AIと「共創」するプログラミング教育

AIがコードを書く時代になっても、「何をどう書くか」の指示は人間にしかできない。米国のトップハッカーはコードの約80%をAIに任せ、生産性を5倍に高めている。高度な活用ができなくとも、情報社会においてプログラムの読み書きは必須である。

AIとのプログラミングは、①人間が仕様を提示し、②AIがコードを生成、③試行して問題点を把握し、④対話を通じて改善するというプロセスで進む。人間と仕事をするのと同様に、過程を確認しコードを添削して例外処理や効率化の方法を考える。AIと繰り返し対話する「共創」の意識が重要であり、学生にはその方法を教える必要がある。

「教養」で曖昧な問題に多角的にアプローチ

AIによるプログラミング支援で初心者と上級者の技術差は縮まる一方、「何を作るか」を思いつく力=問題設定力や想像力がますます重要になる。その力を育むのが「教養」である。

ここでいう教養とは、クリティカルシンキングを核とする西洋のリベラルアーツと、日本の感性的な教養の両方を含む。これらの概念は創造的問題解決や越境的思考力の基盤として再定義されつつあり、「曖昧な問題への多角的アプローチ能力」を養うものとして、テック業界でも高く評価されている。これは、問題を作る力に直結する。

AIの性能向上には「Scaling Law(学習データの量に比例して性能が向上する法則)」がある。人間にとっての教養は、このScaling Lawに相当し、知識というより「学習データの積み上げ」が問題設定力の向上につながる。

また教養はジャンルを問わず、イノベーションの源になる。コンピュータ・サイエンスは、現代の基礎教養の一環として位置づけられるだろう。

AIのための国語力

AIへの指示を工夫すると、より良い答えが得られる。これはプロンプト・エンジニアリングと呼ばれるが、実態は人間的なコミュニケーションに近い。

言葉のニュアンスを読み解き、自分の意図を伝わるように表現する力がAIの使いこなしに直結する。AIと対比して国語力を語るのではなく、AIを活用するための国語力として捉え育成していくべきである。

倫理課題は科学技術によって変化

急速に進化するAIにおいてはハルシネーションよりもむしろ「間違えないAI」が登場することの方が危険である。AIの出力をそのまま受け入れてしまうようになる恐れがあるためだ。

重要なのは「AIをチェックする」姿勢ではなく、「AIと共に結果をより良く共創する」意識。価値観や感情的配慮などは人間が補うべき部分であり、責任を取れる主体としてAIの出力を人間が修正することは不可欠だ。

そのためAI時代においては一層、倫理教育(Ethics)が重要になる。従来の道徳教育ではなく、科学技術によって変化する社会の中で新たな倫理課題を自分の頭で考える力が求められる。

生命工学や医学分野ではすでに倫理が大きな課題となっている。自我を持つAIについても慎重な対応が必要であるとの認識の下、議論が進んでいるが、日本は哲学的な議論が苦手で曖昧に済ませがちだ。

世界の第一線で活躍する技術者は哲学や倫理も議論できる人材であり、そうした人材の育成と、それを支える社会環境の整備が急務といえる。

教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年9月15日号


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