2008年及び2017年度の学習指導要領改訂時に担当課長を務め、現在、高等教育局長として高等教育改革(大学改革)に取り組んでいる合田氏は「2040年の社会・地域・デモクラシーと学び」をテーマに「デジタル時代の公教育の役割」と「人口減を前提とした大学機能強化・量的規模適正化」について講演。
「高校・大学を通じて大転換を図るには徹底した高校教育改革と大学教育の構造改革がポイント」と述べた(公益社団法人日本理科教育振興協会2026年度第55回定時総会基調講演より)。
2040年をターゲットに大学政策を進めている。
18歳人口は、2034年度以降2040年度までの6年間で74万人まで急減する。学生数も急減するなか大学の量的規模の適正化と機能強化の両立を行う必要がある。
そこで2026~30年度の5年間を第Ⅰ期、31~35年度を第Ⅱ期として「大学の量的規模適正化総合施策」を講じる。第Ⅰ期において推進するのは次のとおり。
▼各道府県の2040年の社会・就業構造を踏まえ、地域の医療、福祉、産業、インフラ等を支える人材を確保する上で必要な当該道府県の高校・大学の在り方・規模を各道府県及び関係省庁と連携して把握〔~27年度〕
▼首都圏・大都市圏の大規模私学の理工・デジタル分野への展開、人社系学部のダウンサイジングによる質の向上・数理併修により、文理分断からの脱却を強力に推進(私学助成の厳格化・重点化等)〔26年度~〕
▼地域における高等教育機会の確保に資するよう、設置認可の厳格化とともに、首都圏・大都市圏の大学の量的な規模を含めた日本全体の大学の分野・地域のリバランス
4年前から成長分野転換基金を活用した大学や高専の機能強化事業に取り組んでいる九州の半導体、中国・四国の造船、秋田の洋上風力発電など地域により強みや重点は異なる。
例えば鳥取看護大学は県の地域医療にとって必要不可欠な大学である。住民・自治体・経済界が一体となり”地域医療を守るための大学”として設立。山間部・離島を抱える鳥取県の医療アクセス改善に直結する遠隔看護人材の育成も図っている。その地域に本当に必要な人材育成に取り組む大学を支援していきたいと考えている。
短期大学は減少の一途だが、今後はリスキリングの観点から短期高等教育が一層重要になる。
大学改革は高校改革や初等中等教育とも深く関わっている。次期学習指導要領の移行措置を小学校中学年で迎える新課程第一期生が大学に進学するのが2040年前後である。
次期学習指導要領では、これまでの「鉄のトライアングル」すなわち「網羅主義」「指導書準拠」「歴史教科書脚注入試」を乗り越えるための構造変化に着手している。
「事実の記憶」等は客観テストで、「概念の理解や方略の適用」は自由記述で、「見方・考え方に基づいた知識・技能の統合」についてはパフォーマンス課題で測る、多様な子供たちを包摂するために教育課程を柔軟に編成できるようにするなどに着手。
デジタルの活用により、多様性と学びの質はトレードオフであるというバイアスや同時一斉に行う同一の紙問題のみが公正に能力を測ることができるといった思い込みからの解放が可能になる。この野心的な改訂を担う武藤課長を、立場を越えて全面的に応援している。簡単なことではないが、今だからこそできるのだと思う。
N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想では、普通科文系中心の構造を転換し本来持っている子供たちのデジタルや自然、ものづくりや農業、食物調理、水産などに対する関心を潰すことなく引き出し、次代の社会構造や産業構造への対応を支援。
そのため高等学校において理数教育や工業、農業等の専門高校の機能強化を図る。既に「高校教育改革基金」として2950億円の財源を造成しており、拠点校の指定も始まっている。将来的には新たな交付金を創設する方向だ。
公私立高専の設置も促進。地域の理工系・デジタル・農業人材を育成する拠点設置のため、工業系以外の高専を設置できるように強力に施策を展開する。
日本の15歳の女性は世界と比較して最も理数系のリテラシーが高い。にもかかわらず、進学するにつれて理系選択が減っていき、理系女子は極端に少ない。バイアスの解消や教育システムの構造的なゆがみは正したい。女性の4年制大学進学率は、わが国において唯一右肩上がりの数値。その力をさらに引き出すようにしたい。
デジタル化の本質は、その軸足が供給側から需要側に移行することにある。学校でのこれまでの勉強は「好きを諦めさせて嫌いを強いて総得点を上げる修行」であった。
そのためには多様性を排除し同質性の高い環境で競わせるのが一番という構造から転換し、「好き」を原動力にした学びをサポートしていくことが今後の教員や大人の役割になる。むしろ子供にとっては自分の学びに責任を負わなければならない厳しさに直面するが、だからこそ大人の伴走が必要だ。
例えば数学「行列とベクトル」は大学進学のために強いられるものではなく、コンピュータグラフィックスに不可欠で自らの創造性を発揮するための道具である。教員は、自分の担当する教科が、生徒の未来にいかに役立つのかをアピールしていくセールスパーソンであるという認識が重要になる。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2026年6月22日号掲載