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教育ICT

「情報Ⅱ」は楽しくて面白い データサイエンスは人生を豊かにする<日出学園中学校・高等学校 武善紀之教諭>

2024年9月10日
第9回私立公立高等学校IT活用セミナー・東京

8月9日、第9回私立公立高等学校IT活用セミナーを4年ぶりに開催した。田中博之教授・早稲田大学教職大学院は「自己育成」のための生成AI活用について講演。高等学校4校は情報Ⅰ・Ⅱの授業実践や大学入学共通テストに向けた取組、STEAM教育、創造的な学び等について報告した。


日出学園中学校・高等学校 武善紀之教諭

日出学園中学校・高等学校で情報科を担当する武善教諭は、自身が制作に携わった文科省「情報Ⅱ」授業・研修用コンテンツを使ったデータサイエンスの実践を報告した(https://www.nttls-edu.jp/joho)。

■「情報Ⅱ」が「情報Ⅰ」より面白い理由

情報Ⅰで学ぶデータサイエンスは相関行列や散布図行列で2つの変数の関係性を見るものが主流だ。

情報はより大規模なデータを扱い、主成分分析やクラスタリングといった機械学習の手法を用いて全体を大枠で捉え傾向や偏りを見る。

この違いは大きい。扱えるデータも多様で、生徒は楽しみながら情報Ⅱのデータサイエンスを学んでいる。

ソフトウェアの操作、数学的な要素も最小限に留めれば、苦手意識も持ちにくい。

■今年度から「情報Ⅱ」を開講

本校では今年度より高校3年生の選択科目で「情報」を開講した。データサイエンスは1学期に計6時間、文科省「情報」授業・研修用コンテンツの動画をもとに学習を進めている。

始めに「人工知能入門」として、学習済みのモデルを用いた顔の検出・ぼかしに挑戦。

人工知能というとプログラミングのイメージがある生徒が多いが、例えば顔認識AIは大量の顔画像データを学習し、各顔を特定の個人に分類するクラス分類の処理を行っており、データサイエンスとAIとの関わりを学ぶために最初に実施している。

ブラウザ上でPythonを動かせるGoogleコラボラトリーを用いて、3ステップのコマンド入力のみで実装できる内容だ。

生徒は「キャラクターの目が顔検出された」「サングラスを掛けていると顔検出されない」「スカートの影を目として検出した」などの経験から、顔とは何か、人工知能の限界や機械学習の利点、欠点について考察した。

次にクラスタリングの手法を用いた実践を行った。データ間の距離を計算して近いもの同士を樹形図で表すもので、数学的にイメージがしやすい。

クラスで気が合う仲間を見つけるために、スプレッドシートの1列目に生徒の名前、1行目に趣味を入力し各自で5段階評価。統計処理ソフト「R」へのコマンド入力のみでクラスタリングができる。

最後の実習は主成分分析を扱った。これは多くの変数を持つデータを、少ない主成分に圧縮(要約)することでデータを理解しやすくするもの。

この実践も「R」を使用。食品の栄養成分表で実演した後1人ひとりが好きなものをマップ化した。

授業後のアンケートで生徒は、データサイエンスについて、「たくさんの項目をまとめ傾向や偏りが一目でわかる」「普段の生活でも使われているのかもしれないと気づいた」「実践的な内容が多く楽しい」。

量的な評価では「難しい」と同数程度の「楽しい」という回答があり、中でも主成分分析が最も面白かったと感じる生徒が多かった。

■「情報Ⅰ」で箱ひげ図、散布図の学習は必須

情報Ⅱの実践内容を踏まえた上で、情報Ⅰのデータサイエンスの授業を逆算して設計している。

3変数以上は情報2変数の処理を情報と分類し、アンケート実習は総合的な探究の時間で実施。共通テストの試作問題の内容から多変数の表、箱ひげ図、散布図の学習は必須と考えている。

これらを踏まえ、情報Ⅰでは「とどラン」を使った3時間の実習に取り組んでいる。アサンプション国際中学校高等学校の岡本弘之先生の実践を参考にした。

「とどラン(https://todo-ran.com)」は様々な都道府県別統計を比較しランキングにしたサイトで、コンビニの店舗数やテストの正当率、ラーメン店の店舗数など多様なデータが47都道府県別に数値評価されており、関係がありそうな2つのデータを見つけ相関があるかを分析する実習とした。

Googleスプレッドシートで仮説とデータ、相関係数の値を一覧化して共有している。操作の手順はYouTubeで個別に確認できるようにした。

■データ駆動型社会はデータが資本

データは21世紀の石油、と言われる。

ChatGPTを始めとする大規模言語モデルを作るには大規模なデータが必要だ。データを資本とするデータ駆動型社会では大量のデータを活用し課題を解決するデータサイエンス人材が求められる。

情報科の要である試行錯誤の場面が豊富なのもデータサイエンスだ。PPDACサイクルを回す中でデータ収集の方法や分析手法を変えてみる等、試行錯誤の余地が多い。

さらに、統計やデータサイエンスは人生を豊かにするパートナーとなりうる。

人間は素早く臨機応変に情報を処理することができる一方で、見たい情報だけを見る確証バイアスに支配されている。

例えば「雨乞いをしたら雨が降る」ことを明らかにするためには「雨乞いをしないときには、雨が降らない」ことも調べる必要があるが多くの人はこれを見逃してしまう。

コンピューターや統計は感情に左右されず情報を処理する。

どちらが優れているということではなく、二つの異なる考え方であり、統計は私たちに新たな視点を与えてくれる。

 

【第9回私立公立高等学校IT活用セミナー・東京:2024年8月9日 】

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年9月9日号掲載

 

  1. 早稲田大学教職大学院 田中博之教授
  2. 日出学園中学校・高等学校 武善紀之教諭
  3. 東京都立小平高等学校 小松一智指導教諭
  4. 聖徳学園中学・高等学校 品田健教諭
  5. 神奈川県立上鶴間高等学校 柴田功校長

 

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