最近、富士山噴火に関するニュースが増えてきた。実際に富士山が噴火したらどのような事態が訪れるのか。
地層を調査すると、富士山は平均で約30年に1回の間隔で噴火が起きている。最後の噴火は今から約300年前の1707(宝永4)年。偏西風に乗った火山灰が関東地方周辺に飛来し、横浜で約10㌢、江戸でも約5㌢降り積もった。小田原藩では自力での復興は無理であると判断し、領地の半分を幕府に差し出し救済を求めている。噴火から20年以上を経ても復興できない地域が多くあり、小田原藩の米の収穫が元に戻るまでには約90年を要している。
新井白石の『折たく柴の記』によると、幕府はこの危機的状況に対し、各旗本たちに石高100石あたり2両の拠出を命じ、40万両を使って江戸中心部や街道筋に堆積した火山灰の除去を行ったとある。幕府にとっても総力戦での復興を行ったことが想像できる。
富士山が宝永の噴火と同規模の大噴火を起こした場合は、首都圏が数カ月にわたって完全に麻痺する可能性がある。降灰開始の段階で空港の閉鎖や飛行停止の措置がとられ、5㍉で車の故障やスリップ事故、健康被害、鉄道運行の停止、1㌢で大規模停電のリスクが増大し、水道の供給が停止、10㌢以上で車が走行不能となり、配送・物流網が寸断される。
ヨーロッパでは2010年4月、アイスランドの火山噴火によって噴出した火山灰が上空に滞留し、各国の飛行機の運航が4日間停止した。
内閣府の防災対策実行会議の調査によると、降灰量や被害地域は噴火時の天候や風向きで変わるが、道路や鉄道、農地で最大約4.9億立方㍍の火山灰を除去する必要があると分析している。数年にわたって農作物が生産できなくなる地域も出てくるだろう。
降り積もった火山灰の処分も簡単ではない。雪と違い火山灰は下水道や河川に流すことはできない。自衛隊の災害派遣にも火山灰は厄介な障害となる。内閣府は噴火によって首都圏が被る被害額を2兆5000億円と試算しているが、実際の経済的被害額はそれを遥かに上回ると私は考えている。
地震や風水害対策に比べて、富士山の噴火については、社会全体に対する政府の啓発活動がこれまで不足していたため、国民も実感がなく危機意識が低い。しかし富士山は「活火山」であり、「300年あまり昼寝をしている」だけで、必ず噴火するということを私たちは肝に銘じておくべきだだろう。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年9月15日号掲載