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防災教育への視点 一般財団法人防災教育推進協会 理事長 濱口和久~第9回「災害医療支援船と病院船」

2025年5月19日
連載 防災教育への視点

海からのアクセスという視点

2023年7月に就役した、認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが所有する災害医療支援船「パワーオブチェンジ」がある。現在、災害時の医療支援活動に特化した国内唯一の船だ。筆者は今年2月26日に愛媛県今治市大島の港に停泊する同船を視察した。

「パワーオブチェンジ」は、軍用大型ヘリを除くほぼすべての機体の運用に対応する国際規格のヘリパッドを装備し、岸壁の損壊などで着岸が難しい場合でも、船─陸地間で被災者や医療スタッフを迅速に輸送することができる。今後、内部を整備し、レントゲン検査や局所麻酔による小規模の外科手術をできるようにして、100人程度の初期治療に対応する野外病院の機能も備える。

水や食料を備蓄すれば1~2か月は生活できるという。傷病者以外にも医療的ケア児などの要支援者を受け入れ、環境の整った避難所として過ごすことも可能だ。大量の物資や燃料を保管でき、災害支援の洋上プラットフォームとして、離島向けの支援物資の備蓄・運搬やヘリへの給油等にも活用できる。

一方、首都直下地震や南海トラフ巨大地震、富士山の噴火以外でも大規模災害(風水害など)が起こることを想定した場合、海からのアプローチは絶対に必要となる。そのときに活躍できるのが病院船であることだけは間違いない。

病院船は、既存の医療施設として特定の港湾に停泊しているものではなく、被災地に派遣されるものであり、陸上の医療施設を補完することが期待されている。

海からのアプローチについては、阪神・淡路大震災や東日本大震災で実績がないことから、病院船の必要性を否定する意見も根強い。だが、それは今までの大規模災害を想定した訓練が、海からのアプローチをあまり重要視してこなかったことにも原因がある。活用実績があまりないという理由で、これから起きる大規模災害でも病院船が必要ないということにはならない。

消防車や救急車などの緊急車両を必要ないと考えている人はいない。火事やガス漏れ、けが人・病人がいる場合には、なくてはならないものである。これらの車両は、出動要請がなければ「平時」は使用されることがない。冬山での遭難や海難事故のときに使用される捜索ヘリコプターや救難機も、出動要請がなければ「平時」は使用される頻度は低い。車両や機体の値段に文句をいう日本人はいない。病院船も、人の生命に関わる活動をする船舶であり日本にも必要なものだ。

 

教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年5月19日号掲載

第1回 日常防災の必要性

第2回 正しい避難行動と防災知識

第3回 自然災害への向き合い方

第4回 史料から災害を読み解く

第5回 「稲むらの火」と「世界津波の日

第6回 専門性とスキル 国が認証へ

第7回 大雪と安全対策

第8回 リスボン地震と国家の衰退

第10回 意外な盲点「平時の備え」

第11回 財産を守る住宅の耐震化

第12回 富士山噴火のリスク

第13回 竜巻から身を守る行動とは

第14回 消防団を知ろう

第15回 就寝中の地震のリスク

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最新号見本2025年12月08日更新
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