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防災教育への視点 一般財団法人防災教育推進協会 理事長 濱口和久~第5回 「稲むらの火」と 「世界津波の日」

2024年11月18日
連載 防災教育への視点

教訓を後世に伝える努力を

昭和12(1937)年から10年間、国定教科書の国語の教材として「稲むらの火」の逸話が使用されていた。その後、検定教科書の時代になっても、一部の教科書に多少の修正を加えて採録されていたが、1960年代に完全に姿を消してしまった。

「稲むらの火」の逸話は、安政元(1854)年の安政南海地震津波に際して、紀伊国広村(現・和歌山県広川町)で起きた実話で、地震後の津波への警戒と早期避難の重要性を説いたものである。内容は以下の通りだ。

「村の高台に住む庄屋の五兵衛は、地震の揺れを感じた後、海水が沖合へ退いていくのを見て津波の来襲に気付く。祭りの準備に心奪われている村人たちに危険を知らせるため、五兵衛は自分の田にある刈り取ったばかりの稲の束(稲むら)に松明で火をつけた。火事と見て、消火のために高台に集まった村人たちの眼下で、津波は猛威を振るう。五兵衛の機転と犠牲的精神により村人たちが津波から守られた」

ここに登場する五兵衛とは、ヤマサ醤油7代目当主の濱口梧陵のことである。

東日本大震災4周年追悼式において、上皇陛下も「このたびの大震災においては、私どもは災害に関し、日頃の避難訓練と津波防災教育がいかに大切かを学びました。こうした教訓を決して忘れることなく子孫に伝え、より安全な国土を築くべく努力を続けることが重要であります」と述べられている。

東日本大震災後、津波からの復興や国民の津波防災への意識向上のために、平成23(2011))年6月、国会で「津波対策推進法」が制定される。そして「稲むらの火」の逸話にちなみ、安政南海地震津波が起きた旧暦の11月5日を「津波防災の日」と定められた。続く平成27年3月、宮城県仙台市で国連の第3回世界防災会議が開催され、日本政府から「津波防災の日」を「世界津波の日」とするように各国に働き掛けを行った。

その結果、同年12月22日の第70回国連総会本会議において、国連加盟国すべてが賛成し「世界津波の日」が制定された。梧陵が村人の命を救った「11月5日」は、「世界津波の日」として世界の人々に広く認められるようになった。

東日本大震災から10年以上が経つが、未だに多くの場所で被害の傷跡が残り復興の途上にある。一方、被災地以外の地域では震災の記憶の風化が進んでいる。震災の記憶の風化を防ぎ、教訓を後世に伝えていく努力が必要である。

 

教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2024年11月18日号掲載

第1回 日常防災の必要性

第2回 正しい避難行動と防災知識

第3回 自然災害への向き合い方

第4回 史料から災害を読み解く

第6回 災害ボランティアの育成を

第7回 大雪と安全対策

第8回 リスボン地震と国家の衰退

第9回 災害医療支援船と病院船

第10回 意外な盲点「平時の備え」

第11回 財産を守る住宅の耐震化

第12回 富士山噴火のリスク

第13回 竜巻から身を守る行動とは

第14回 消防団を知ろう

第15回 就寝中の地震のリスク

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