近年の気候変動により、熱中症のリスクはかつてないほど高まっている。今年も5月から全国各地で35度を超える猛暑日が観測され、教育現場では屋外だけでなく屋内活動や登下校時にも、児童生徒の発育・発達段階に応じた対応が求められている。
2026年度から、文部科学省の通知によりWBGT(暑さ指数)測定が”実施を前提とした運用”へと強化。事実上の義務化が進んでいる。教職員の体制整備を含め、安全な環境づくりの指針としてWBGTの活用が一層重要だ。
WBGT(暑さ指数)とは、「湿球温度(湿度の影響)」「黒球温度(日射・輻射熱の影響)」「乾球温度(一般的な気温)」の3要素を組み合わせた指標。この3つを組み合わせることで、単なる「気温」では判断できない”体が受ける熱ストレス”を数値化したもので、熱中症予防のために提案された。
例えば気温がそれほど高くなくても湿度が高い日や、体育館のように風が通らず輻射熱がこもる環境では、WBGTが急上昇することがある。現在は校庭や体育館、プール学習など、学校のさまざまな場面で参考指標として活用され、児童生徒にも”気温とは異なる熱中症リスクの数値”として急速に浸透しつつある。
熱中症は、暑熱環境にさらされることで起こる体調不良の総称で、「立ちくらみ」「こむら返り」「頭痛」「嘔吐」「倦怠感」「脱力」「意識障害」「多臓器不全」など多岐にわたる。最悪の場合、命に関わることもある。
疑わしい症状が見られた場合は、「涼しい場所への避難」「身体の冷却」「水分・塩分補給」などの初期対応と、必要に応じた速やかな医療機関への連絡が重要だ。危険性は真夏のみではなく、体が暑さに慣れていない初夏や梅雨時、湿度が高く無風の日、運動時にも高まる。
環境省・文科省は熱中症警戒アラート(気象庁・環境省が発表する危険度情報)に加え、2026年度からWBGT測定を”原則として毎日実施する”ことを求めており、学校現場では実質的に義務化された運用が始まっている。活動場所や活動時間ごとに測定することも推奨され、従来の「望ましい」から「実施が前提」へと大きく転換した。
指数計がない環境でも、環境省が3時間ごとに公表している「WBGT速報値」を活用し、熱中症予防行動を取ることが求められている。
アラートは‘危険度の警報’、WBGT速報は‘具体的な暑さ指数’と役割が異なるため、両方を組み合わせて判断することが重要だ。
文科省のガイドラインに基づくと学校現場では次のように明確に定められている(表参照)
〇WBGT31度以上=運動は原則中止
〇28~31度未満=激しい運動は中止
〇25~28度未満=積極的に休憩
数値だけに頼らず、児童生徒の発育・発達段階に応じた個別の配慮も必要であり、特に支援学級・支援学校では状況に応じた柔軟な対応が求められる。
近年、一部の自治体では猛暑による熱中症リスクを避けるため、夏休みを8月末や9月上旬まで延長する取組が始まっている。
5月からは、避難行動の判断をレベルで示す「新たな防災気象情報」の運用も開始。警報・注意報の情報名に「レベル」が付記され、河川の氾濫の危険度の伝え方も変わっている。警戒レベル4相当の情報は、危険情報として発表されるなど異常気象が”ニューノーマル”となるなか、教育現場でも環境変化に応じた柔軟な対応が求められている。

日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防開度ブック」(2025年6月第6版発行)より、本指針ではWBGT値と気温の関係をもとに、運動中止・警戒・注意の基準を示した。学校現場ではこの数値をもとに活動可否を判断。ガイドブックでは「熱中症予防5ヶ条」や「熱中症予防のための運動指針」について詳しく解説している。
https://www.japan-sports.or.jp/publish/tabid776.html#guide01
2025年(5月~9月)に消防庁が発表した「熱中症による救急搬送人員」は、調査開始の2008年以降で最多となる10万510人に達した。初めて10万人を超え、世界的な気温上昇とともに増加傾向が続いている。今夏も猛暑が予想されるなか、熱中症対策として空調(エアコン・扇風機)や遮熱設備(カーテン、すだれ)など、学校施設のハード面の整備が急務となっている。
各自治体や学校では、教室でのエアコンと扇風機の併用、すだれやグリーンカーテンの活用など、暑さ対策の工夫が進んでいる。普通教室の空調整備は、寒冷地を除く多くの地域でほぼ完了しているが、文部科学省「公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況」(2025年5月1日現在)によると、小中学校の体育館の設置率は全国平均22.7%(前回調査から3.8ポイント上昇)。東京都は92.5%と高い一方、北海道は3.7%にとどまり、0~10%台の自治体も20か所にのぼるなど、地域差が大きい。

文科省では2025年度補正予算において学校施設環境改善交付金により、体育館等屋内運動場の空調設備設置(空調設備整備臨時特例交付金)について補正予算を計上。これによる整備の進捗が気になるところだ。なお工事は複数年にわたる可能性が高いことから、対象は2033年度までとしている。
文科省は今年2月、「学校体育館への空調設備の早期実現に向けて」を公表し、補助・支援のポイント、発注方式、工事の進め方、断熱対策事例などを例示。設置促進の必要性を強調している。
猛暑の影響で校庭が使用できない日が増えるなか、空調設備が整った屋内運動場の役割はますます大きく、建築資材や人件費が高騰に向かうなか、より一層、早期の計画立案・実行が求められる。
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教育家庭新聞 教育マルチメディア 2026年6月22日号掲載